国立感染症研究所

現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例【更新】

(2020年2月26日掲載)

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背景

背景情報は2月19日掲載の「現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例」(以下、「現場からの概況2月19日掲載版」)を参照されたい。(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9410-covid-dp-01.html)

検疫の状況

2月5日-19日の間、クルーズ船ダイアモンドプリンセス号(以下クルーズ船)に対し検疫が実施された。検疫期間中、陽性者の「濃厚接触者」等追加的なリスクがあった者については検疫期間が延長された旨、乗客に通知している。

下船手順

下船基準は次の3つの項目、1)陽性者と部屋を共有していない14日間の検疫期間が完了していること、2)検疫期間最終日までに採取した検体がPCR検査でSARS-CoV-2陰性であること、3)検疫期間の最終日の健康診断で異常が確認されないこと、を全て満たす者である。2月20日時点で1600人以上が既に下船している。

検査は当初高リスクの乗客から実施されたが、2月11日からは全ての乗客が検査対象に拡大実施された。検査は80歳以上の乗客から実施され、75歳以上、70歳以上、70歳未満と順次実施拡大された。全乗客の検査実施後、検査対象が全乗員へ拡大された。COVID-19に関し国際的なガイドラインではPCR検査の実施を考慮した検疫は求められていないが、日本政府はより確実性を高めるためにPCR検査を実施した。

データ収集

「現場からの概況2月19日掲載版」 (https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9410-covid-dp-01.html)に記載されているデータ収集方法に加え、船内の常設診療所からの後方視的な情報収集が開始された。

暫定的な結果

2月20日の時点で、82名の乗員と537名の乗客を含む、619名が陽性者であった(2月5日時点の乗船者の16.7%)。合計3,011検体が検査され、重複の者も含め延べ621検体が陽性(20.6%)であった。乗客のうち70歳から89歳が最も感染していた(表1)。発症日の情報が確認できたCOVID-19症例(n = 197)のうち、終日検疫が実施された最初の日である2月6日より前に発症した人が34名(17.3%)、2月6日以降に発症した人が163名(82.7%)であった(図1)。197例のうち163例(乗員48名、乗客115名)は検疫期間中に判明し、定員が2名以上の各客室で最初の陽性者であった者は52名(最小)から92名(最大)の範囲であった(この範囲には、無症候性症例及び発症日が不明の有症状症例が含まれる)。そのうち3名(最小)から7名(最大)が2月6日から開始された検疫期間の7日目以降に報告された者である(表2)。各客室別の乗客人数が増加するに従いCOVID-19陽性者の割合も増加している(図2)。陽性者のうち318名(51%、乗員10名、乗客308名)は、検体が採取された時点では無症状であった。

暫定的な結論

現在入手可能な疫学情報に基づいて評価すると、2月3日にクルーズ船が横浜に入港する前にCOVID-19の実質的な伝播が起こっていたことが分かる。発症日が報告されている陽性者数の減少は、アウトブレイクの自然経過、検疫の実施、またはその他の未知の要因によって説明が可能と思われる。各客室の乗客人数別確定症例の割合と、陽性者と客室を共有した確定例の数に基づいて検討すると、客室内の乗客は共通の曝露があったか、客室内でウイルスが伝播した可能性がある。 船の性質上、乗船しているすべての人を個別に隔離することはできず、客室の共有が必要であった。また、乗客が乗船している間、一部の乗員はクルーズ船の機能やサービスを維持するため任務を継続する必要があった。 遅れ報告を考慮した結果、発症日がわかっている陽性者数のピークは2月7日であった。 最近陽性者の報告数が多くなっていることは、検査対象者の拡大によって説明できるが、そのほとんどは無症候性症例である。

クルーズ船の乗員乗客で報告された無症候性症例の割合は、他の場所で報告されているものよりもかなり高い。 この主な要因は、2月11日から体系的な検査が実施されその数が日々増加したことが一因と考えられる。一部の症例は、客室内での二次感染例であった可能性はあるが、検疫が始まる前に感染した可能性も否定できず、実際にいつ感染したか、判断は難しい。しかし、これらの無症候性症例は下船後入院し、同室者は濃厚接触者として最終接触日から新たに14日間の隔離期間を開始している。無症候性症例が下船前に判明したことを考えると、この体系立てた検体採取には意義があったと考えられる。現時点では、無症候性症例からの感染伝播に関する知見は国際的にも乏しい。そのため、船内の無症候性症例に関する継続的な調査により得られる情報は、世界的なCOVID-19アウトブレイクにおいて重要である。 (無症候性症例の下船後の発症状況に関する情報が収集されている)。

クルーズ船において判明した症例は、感染症発生動向調査(NESID)に報告された情報も含め、臨床症状、重症度、および無症候性症例の評価のためついてさらなる調査が継続して行われている。 この情報は、このクルーズ船事例とCOVID-19の世界的な状況の理解に重要である。

暫定的対応とガイダンス

下船者のほとんどが14日間の検疫を確定患者と部屋を共有せず終了し、PCRの検査で陰性、健康チェックにより症状(発熱、咳、呼吸困難など)がない事を確認された。陽性確定例との接触がある者は、最終接触日から14日間が隔離期間となる。この該当者には隔離期間中の乗客に対する食事の配膳等の生活支援に貢献していた、乗員の大半が含まれる。1600人を超える乗客が下船し、今後の焦点は乗員の感染予防となる。下船者は、PCR検査陰性、下船時の健康チェック異常なし、および症状なく14日間の検疫期間を経過しているが、追加の予防措置として絶対に必要な場合を除き、14日間自宅にとどまるよう求められている。また、自分自身で健康チェックを実施し、症状を認めれば医療機関に連絡することになっている。

追記:本稿のデータ収集にあたり、クルーズ船に乗船し、乗員乗客の健康管理のために多大な努力と貢献をされた医療チームや関係者、クルーズ船の機能維持に貢献されたダイアモンドプリンセス号のスタッフと本社のご協力に謝意を表します。

 

表1. COVID-19確定例の検体採取時の年齢群および症状別割合(2月20日現在)

Age group

Symptomatic confirmed cases (%)

Asymptomatic confirmed cases (%)

Total confirmed cases (%)

Persons aboard on 5 February 

00-09

0(0)

1(6)

1(6)

16

10-19

2(9)

3(13)

5(22)

23

20-29

25(7)

3(1)

28(8)

347

30-39

27(6)

7(2)

34(8)

428

40-49

19(6)

8(2)

27(8)

334

50-59

28(7)

31(8)

59(15)

398

60-69

76(8)

101(11)

177(19)

923

70-79

95(9)

139(14)

234(23)

1015

80-89

27(13)

25(12)

52(24)

216

90-99

2(18)

0(0)

2(18)

11

Total

301(8)

318(9)

619(17)

3711

*報告数(n = 163)は確定例のうち発症日の情報が得られた症例

 

図1.2020年2月6日から20日におけるクルーズ船乗員乗客の発症日別COVID-19確定症例報告数(n = 163)

COVID DP2 Fig1

 

図2.各客室の乗客人数別確定症例の割合の比較

COVID DP2 Fig2

 

表2. 2020年2月6日から17日におけるCOVID-19確定症例の発症日別報告数及び確定症例との同室割合(n = 163)

Day of Quarantine

Date of Onset

(n cases)

Crew

Passengers

Total

In cabins with a confirmed case

In cabins without a confirmed case

12

17 Feb (1)

1

0

0

0

11

16 Feb (2)

2

0

0

0

10

15 Feb (4)

3

1

0 [1]

0-1

9

14 Feb (7)

5

2

1 [0]

1

8

13 Feb (17)

8

9

4 [3]

2-5

7

12 Feb (12)

7

5

0 [2]

3-5

6

11 Feb (19)

8

11

3 [1]

7-8

5

10 Feb (10)

3

7

3 [1]

3-4

4

9 Feb (24)

5

19

6 [9]

4-13

3

8 Feb (19)

2

17

1 [7]

9-16

2

7 Feb (31)

2

29

4 [10]

15-25

1

6 Feb (17)

2

15

1 [6]

9-14

Total

48

115

23 [40]

52-92

カッコ内の数字は、陽性開始日が不明な同じ客室内で確認された追加症例の数を表す。どの症例が先に感染したか判明しないため、同室内に確定例がいない部屋で発症した患者数の範囲を示している。

 

付録:検疫期間中の無症候性症例の診断パターン

COVID DP2 AnnexA 

 


 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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