国立感染症研究所

現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例

(2020年2月19日掲載)

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背景

クルーズ船ダイアモンドプリンセス号(以下クルーズ船)は、2020年1月20日、横浜港を出発し、鹿児島、香港、ベトナム、台湾、および沖縄に立ち寄り、2月3日に横浜港に帰港した。この航行中の1月25日に香港で下船した乗客が、1月19日23日から咳をみとめ、1月30日に発熱し、2月1日に新型コロナウイルス陽性であることが確認された。そのため、日本政府は2月3日横浜港に入港したクルーズ船に対し、その乗員乗客の下船を許可しなかった。2月3日からの2日間、全乗員乗客の健康診断が検疫官により行われ、症状のある人、およびその濃厚接触者から新型コロナウイルスの検査実施のために咽頭ぬぐい液が採取された。2月5日に検査結果よりCOVID-19陽性者が確認されたことから、クルーズ船に対して同日午前7時より14日間の検疫が開始された。この時点でクルーズ船には、乗客2,666人、乗員1,045人、合計3,711人が乗船していた。

検疫の状況

検疫開始時、乗員には個人防護具が提供され、正しい着用法が指導された。2月7日乗客には体温計が配布され、体温が37.5℃を越えた場合には発熱コールセンターへ連絡する健康観察が開始された。発熱した乗客は船内の医療チームに照会され、新型コロナウイルスの検査が行われた。また、船内に常設されている診療所でもCOVID-19とは異なる体調不良者を含め診療していた。COVID-19陽性者は下船し、国内の病院に入院し治療、隔離された。陽性者の同室者は「濃厚接触者」として検査され、陽性であった場合は同様に下船し病院に入院し、陰性であった場合は、陽性患者との最終接触日から14日間船内での隔離となった。クルーズ船に乗船していたすべての乗員と医療スタッフは、感染制御に関する国際的なガイダンスに従うように指示された。一部の乗員は、船の運航を維持するために、検疫下においても限定的ではあるものの勤務を継続した。このため、検疫期間中乗員は乗客ほど完全に隔離はされていなかった。

データ収集

当初は有症状者とその濃厚接触者に対してのみCOVID-19の検査が行われた。その後の検査体制の整備拡大に伴い、全乗客に対し系統的に検疫官が咽頭ぬぐい液の検体を採取することになり、2月11日に80歳以上の高齢者と糖尿病や心疾患等の基礎疾患を有する人から(年齢順に)検体採取が開始された。採取された検体に対し、PCR法により新型コロナウイルスの検査が実施された。緊急検疫体制であったことから、当初は発症日、検査確定日、濃厚接触者といった限られた疫学データのみが収集された。本報告によるCOVID-19確定症例とは、症状の有無にかかわらず、新型コロナウイルスの検査が陽性となった乗客と乗員を指す。本稿での「乗員乗客」とはほとんどの場合において2月5日時点乗船していた3,711人を指す。

暫定的な結果

2月18日の時点で、65名の乗員と466名の乗客を含む、531名が確定例であった(2月5日時点の乗船者の14.3%)。合計2,404検体が検査され、延べ542検体が陽性(22.5%)であった。発症日の情報が確認できたCOVID-19症例(n = 184)のうち、終日検疫が実施された最初の日である2月6日より前に発症した人が33名(18%)、2月6日以降に発症した人が151名(82%)であった。確定例のうち255名(48%、乗員8名、乗客247名)は、検体が採取された時点では無症状であった(ただし、これらの人が下船後症状を発症したかどうかは現時点では不明)。また、23名の発症日は同室の乗客が陽性と診断された後であった。2月13日から現在までに報告された発症日のわかる確定例のうち、81%にあたる22名が乗員(13名)、あるいは同室の乗客が確定例であった乗客(5名)であった。

暫定的な結論

発症日の判明している確定例の検討に基づいて評価すると、2月5日にクルーズ船で検疫が開始される前にCOVID-19の実質的な伝播が起こっていたことが分かる(下記船内の常設診療所に発熱で受診した患者数参照)。確定患者数が減少傾向にあることは、検疫による介入が乗客間の伝播を減らすのに有効であったことを示唆している。乗客の大半が検疫期間を終える2月19日に近づくにつれ、感染伝播は乗員あるいは客室内で発生している傾向にある。特記されるべき点は、クルーズ船の性質上、全ての乗員乗客を個別に隔離することは不可能であったことである。客室数には限りがあり、乗員はクルーズ船の機能やサービスを維持するため任務を継続する必要があったからである。

無症候性症例の最近の検出の増加は、2月14日頃より体系立てて乗客の検体を採取し始めたことが一因と考えられる。一部の症例は、客室内での二次感染例であった可能性はあるが、検疫が始まる前に感染した可能性も否定できず、実際にいつ感染したか、判断は難しい。しかし、これらの無症候性症例は下船後入院し、同室者は濃厚接触者として最終接触日から新たに14日間の隔離期間を開始している。同室者が無症候性症例の濃厚接触者であることが分からないまま下船しなかったことを考えると、この体系立てた検体採取には意義があったと考えられる。

暫定的対応とガイダンス

14日間の検疫を終了し、かつ、検査陰性で、14日目の健康診断で異常が確認されなかった者(そのほとんどが乗客)は2月19日から順次下船が開始される(原稿記載時)。

確定例との接触がある者は、最終接触日から14日間が隔離期間となる。この該当者には隔離期間中の乗客に対する食事の配膳等の生活支援に貢献していた、乗員の大半が含まれる。

乗船者は長期間に渡り高リスクな環境で活動していたため、下船してからは当面の健康状態に注意し、症状が出た場合は直ちに保健所に報告する必要がある。

 

COVID-19確定例の検体収集時の年齢群および症状別割合

Age group

Symptomatic confirmed cases (%)

Asymptomatic confirmed cases (%)

Total confirmed cases (%)

Persons aboard on 5 February 

00-09

0(0)

1(6)

1(6)

16

10-19

1(4)

1(4)

2(9)

23

20-29

18(5)

2(1)

20(6)

347

30-39

18(4)

5(1)

23(5)

429

40-49

18(5)

7(2)

25(8)

333

50-59

27(7)

22(6)

49(12)

398

60-69

73(8)

56(6)

129(14)

924

70-79

92(9)

136(13)

228(22)

1015

80-89

27(13)

25(12)

52(24)

215

90-99

2(18)

0(0)

2(18)

11

Total

276(7)

255(7)

531(14)

3711

 

2020年2月6日から17日におけるクルーズ船乗員乗客の発症日別COVID-19確定症例報告数(n = 151)

  COVID DP Fig1

 

2020年1月19日から2月2日におけるクルーズ船乗員乗客の常設診療所訪問日別発熱患者数(n = 79)

COVID DP Fig2 

 

2020年2月6日から17日におけるCOVID-19確定症例の発症日別報告数及び確定症例との同室割合(n = 151)

Date of Onset (n cases)

Crew

Passengers

Passengers from cabins with another confirmed case (%)

17 Feb (0)

0

0

0

16 Feb (0)

0

0

0

15 Feb (1)

1

0

0

14 Feb (5)

4

1

1 (100%) [0]

13 Feb (16)

8

8

4 (50%) [2]

12 Feb (12)

7

5

0 (00%) [2]

11 Feb (18)

7

11

3 (27%) [1]

10 Feb (10)

3

7

3 (43%) [1]

9 Feb (24)

5

19

6 (32%) [9]

8 Feb (18)

2

16

1 (6%) [3]

7 Feb (31)

2

29

4 (14%) [10]

6 Feb (16)

1

15

1 (7%) [6]

Total

40

111

23 (21%) [34]

* The total number of cases in this table (n=151) is the total number of cases with known onset dates.

Note, the number in brackets represents the number of additional confirmed cases in the same cabin with unknown onset date.

 


訂正

(2020年3月4日) 背景の「1月19日から咳をみとめ」を「1月23日から咳をみとめ」に訂正しました。

(2020年2月21日) 最後の表のタイトル名に誤りがあり、(n=53)を(n=151)に訂正しました。

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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