国立感染症研究所

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全国高等学校選抜アイスホッケー大会における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)事例

(速報掲載日 2021/9/27) (IASR Vol. 42 p227-228: 2021年10月号)
 

 北海道苫小牧市で2021年8月4~8日に全国高等学校選抜アイスホッケー大会(以下、大会)が開催された。7月31日~8月3日まで同市で行われた事前合宿と公式練習、および8月9日のU-18代表合宿に参加した15都道府県26チーム中16チームで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例の集団発生を認めた。合宿を伴う部活動やアイスホッケー競技のCOVID-19対策に役立つと考えられる知見や課題が得られたのでそれらを報告する。

 症例定義を、大会および大会関連活動(事前合宿や代表活動等)にかかわり、かつ7月20日~8月23日に検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が確認された者とした。苫小牧保健所が所有する調査票とゲノム解析結果の確認に加え関係者への聞き取りを行った。

 全症例150例中、選手が132例(88%)を占めた()。チーム内人数が多く、準決勝まで勝ち進み、比較的長期間市内に宿泊していた4チーム(A-D)で全症例の75%を占めた()。初発例は8月4日発症であり、8月9日のピークを経て、19日まで発症例が認められた。チームA、Bでは発熱者がいることを把握していたが主催者に報告せず、主催者側の健康記録の確認不足もあり、発症者がいるチームを含め複数回の試合が行われた。うちチームBは大会前の合宿への卒業生の参加、卒業生を交えた会食、会場で既定の動線の不遵守、宿泊施設で他チーム選手部屋の訪問、等の課題を認めた。チームF、H、J、Oには、他症例との接触機会が競技中のみ、または宿泊施設のみの症例がいた。選手は氷上やベンチではマスク非着用であり、審判は通常競技で使用している眼の防護具に加え、マウスシールドを着用していた。審判は、試合中(20分3ピリオド)の氷上で、ベンチから大声で応援していた選手と1m以内にいることが多かった。控室は登録選手22名と監督コーチが入室するには狭く、控室に入らず廊下で着替えた選手もいた。このような状況で選手同士でマスク無しで、着替えの間1m以内に近づく機会があり、時に会話をしていた。宿泊施設では換気不足が疑われた食堂や大浴場でチーム内外の人との接触があり得る状況であった。タイムキーパー、カメラマン、大会役員の3例は他症例との近距離の接触は確認されなかった。チームA、B、C、D、F、Gの選手・監督コーチ28例と審判1例のSARS-CoV-2のゲノムを29.7kb以上比較した結果、全て3塩基以内の変異であった。

 以上の結果から、本事例は一連の関連事例と考えられた。大会前からのSARS-CoV-2持ち込みが疑われ、競技中(氷上・ベンチ)や競技前後(会場控室、廊下での着替え、入場前後)の接触、知人との交流、宿泊中の活動を通じ、チーム内外に感染が伝播したと考えられた。特に運動直後の選手が密に過ごすベンチや控室では、マスク非着用であると、チーム内や選手審判間で飛沫感染が起こりうる状況であった。感染経路不明の3例に関しては、飛沫感染が疑われる状況が確認されず、アイスリンク周囲が換気不良であったこと(データ未掲載)、周囲に多数の感染者がいたこと、を合わせるとエアロゾル感染も否定できない状況であった。さらに、長期宿泊チームでは、宿での食事や脱衣場を含む大浴場の利用等からチーム内で大規模に感染が拡大したと考えられた。これらの場所はマスク無しで過ごすため、近距離での会話や換気が十分でない状況で密に長時間過ごしていた場合、チーム内外で飛沫感染やエアロゾル感染が起きていた可能性がある。

 本事例を踏まえ、主催者は、大会2週間前からの健康観察の確認、患者や疑い例発生時の対応準備〔濃厚接触者含む滞在先確保、参加チームからの事前の情報収集(同行者を含む名簿、大会2週間前からの旅程表、宿泊施設の部屋割、基礎疾患、ワクチン接種歴、保護者連絡先)等〕、ベンチでの大声禁止と着席の徹底、審判のマスク着用、控室の密な状況と換気の改善、会場での徹底した動線管理が重要である。参加チームは、大会2週間前からの健康状態の確認と主催者への報告の徹底(改善しても報告)、大会2週間前からの外部との合同練習や試合および卒業生含む外部との接触の禁止、感染対策を講じた宿泊施設の利用が重要である。なお、ワクチン接種推奨や大会前検査の導入は検討の価値がある。

 謝辞:苫小牧市、日本アイスホッケー連盟、北海道アイスホッケー連盟、大会会場および宿泊施設の関係者の皆様に深く感謝いたします。


北海道苫小牧保健所 儀同咲千江 橋本明樹 西本綾香
北海道保健福祉部 若森吉広 石井安彦 立花八寿子
北海道立衛生研究所健康危機管理部 大久保和洋 大野祐太 藤谷好弘
北海道大学大学院工学研究院 菊田弘輝 林 基哉
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP) 大森 俊
同 薬剤耐性研究センター 山岸拓也
同 実地疫学研究センター 砂川富正 

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