国立感染症研究所

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札幌市内中核病院における医療従事者新型コロナウイルス感染症例の感染状況

(速報掲載日 2020/4/22) (IASR Vol. 41 p82-84: 2020年5月号)

2019年12月に中国で初めて確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は1)、国内では1月14日に、札幌市では2月14日に初めて患者が確認された2)。札幌市内では、その後散発的に患者発生が続き、3月1日時点で16人の患者が確認されていた3,4)。同月、札幌市内の中核病院の外来を受診したCOVID-19患者(以後、患者)から医療従事者への感染例が報告された。患者は3月3日倦怠感で内科外来を受診した60代男性で、発熱や咳嗽は認められなかった。倦怠感が強かったため、内科外来ベッドで横になりながら、看護師と医師による問診、診察、咽頭インフルエンザ迅速検査、採血、点滴、CT検査を受けた。途中、検査結果や画像所見から、COVID-19を含む呼吸器感染症が疑われた。患者は外来の感染症患者用ベッドに移され、そこで改めてCOVID-19検査の為の咽頭ぬぐい液が採取された。札幌市衛生研究所で実施されたRT-PCRでSARS-CoV-2の検出が確認された。一連の外来処置で、同院の医師1人、看護師6人、受付1人の計8人の医療従事者が同患者と接触していた。うち看護師Aは3月7日に発症し、採取された咽頭ぬぐい液からSARS-CoV-2が検出された。残り7人は3月11日時点で検査陰性であり、以降の観察期間中に疑わしい症状を認めることはなかった。COVID-19患者と接触した職員の感染リスクを評価するため、接触した医療従事者の曝露、および接触した医療従事者の個人防護具使用の状況を確認することとした。

方法は、患者の診療録の確認、現場の視察、および対応した医療従事者に対する3月11日と12日に対面または電話によるインタビューを行った。

接触した8人について、患者との接触と個人防護具使用状況をに示す。看護師Aは、自身の眼鏡およびサージカルマスクを着用していたが、患者が胸部CTで新型コロナウイルス感染症が疑われるまでは手袋を着用しておらず、眼の防護具は着用していなかった。患者と接した時間は合計で60分程度、うち会話は30分程度であった。なお、患者は時々マスクを外して会話をしていた。外来受付担当者は1~2分しか接しておらず、また、検体を採取した感染管理認定看護師Bは推奨される個人防護具を着用していた。この2名はいずれも、感染は確認されなかった。看護師Bを除くPCR検査陰性者6人(看護師4人、受付1人、医師1人)の中では、手袋は1人(点滴時)、サージカルマスクは4人(1人は処置時に着用)が着用しており、眼の防護具を着用した人はいなかった。この中にはサージカルマスクと手袋のみでインフルエンザ迅速検査用の鼻咽頭検体を採取した看護師も含まれていた。接触時間は中央値7.5分(範囲2~21分)であった。また、内科外来の診察室では、手洗い設備が机で遮断されており、手洗いが実施しづらい環境にあった。

同院外来を受診した、発熱や呼吸器症状のないCOVID-19患者の診療に当たった職員8名の内、看護師1名が感染した。非典型的な症状で受診する患者もおり、流行地域では外来患者の診察時にサージカルマスク着用と手指衛生の順守が重要である。また、長時間患者と接していた看護師の感染が確認され短時間の会話の身で感染している人はいなかった5)。医療従事者が患者と長時間接する場合、無意識にマスクの外側を触るなどで手が汚染される可能性がある。長時間接するうちに、手指衛生が十分でない状態で顔を触るなど、曝露の可能性があったことは否定できないと考えられた。適切な個人防護具を着用して咽頭ぬぐい液を採取した看護師、そして眼の防護具は着けずにサージカルマスクと手袋でインフルエンザ迅速診断用後鼻腔ぬぐい液を採取した看護師も感染は確認されなかった。後鼻腔や咽頭のぬぐい液を採取する場合の適切な個人防護具については、さらなる検討が必要である。COVID-19の主な感染経路は飛沫伝播と考えられているが5)、48時間程度環境表面で感染性を持つウイルスが検出されることが報告されており6)、環境を介した接触伝播の可能性もある。現在国内では、発熱患者への対応時にはサージカルマスクと手指衛生が推奨されているが7,8)、COVID-19流行地域では、症状の有無に関わらずサージカルマスクの着用を考慮すること、長時間疑い患者と接する場合は特に手指衛生に注意を払う必要があると考えられた。

COVID-19の流行が各地で起こっている中、医療関連感染の防止は国内外の医療現場における喫緊の課題である。現在の推奨に従いつつ、感染した医療従事者が確認された場合は、患者との接触状況と医療従事者の個人防護具の使用、手指衛生状況を確認し、適切な個人防護具の使用と再使用の検討を続けていく必要がある。

 

参考文献
  1. Huang C, Wang Y, Li X, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet (London, England) 2020; published online Jan 24. DOI:10.1016/S0140-6736(20)30183-5.
  2. 厚生労働省. 新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1例目). 2020.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08906.html (accessed April 4, 2020).
  3. 北海道保健福祉部健康安全局地域保健課. 新型コロナ:道内の発生状況. 2020.
    http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/hasseijoukyou.htm (accessed April 4, 2020).
  4. 札幌市. 新型コロナウイルス感染症の市内発生状況. 2020.
    https://www.city.sapporo.jp/hokenjo/f1kansen/2019n-covhassei.html (accessed April 4, 2020).
  5. World Health Organization. Infection prevention and control during health care when novel coronavirus (nCoV) infection is suspected. 2020.
    https://www.who.int/publications-detail/infection-prevention-and-control-during-health-care-when-novel-coronavirus-(ncov)-infection-is-suspected-20200125 (accessed April 4, 2020).
  6. van Doremalen N, Bushmaker T, Morris DH, et al. Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1. N Engl J Med 2020; published online March 17. DOI:10.1056/NEJMc2004973.
  7. 日本環境感染学会. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について-医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド. 2020.
    http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=328 (accessed April 4, 2020).
  8. 国立感染症研究所. 新型コロナウイルス感染症に対する感染管理(2020年3月19日改訂版). 2020.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9310-2019-ncov-01.html (accessed April 4, 2020).
 
 
国家公務員共済組合連合会斗南病院 川田将也 三宅隆仁 近藤 仁 奥芝俊一
札幌市保健所 山口 亮 矢野公一
国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP) 北原瑞枝
同 感染症疫学センター 山岸拓也 松井珠乃 鈴木 基

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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