国立感染症研究所

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COVID-19感染症検査陰性検体の病原体検索 -福岡県-

(速報掲載日 2020/4/24) (IASR Vol. 41 p84-85: 2020年5月号)

2020年に中国武漢市を中心に広がった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、わが国で1月16日より疑似症サーベイランスの枠組みで探知されることとなり、同年1月28日に指定感染症に指定された。これを受け、当所でも検査を実施している。検体の多くは、発熱等の症状を示した患者からの検体が多いにもかかわらず、3月4日までに搬入された81名(119検体)の検査結果はすべて陰性であった。本報告では、これら陰性検体について原因を調べるため、以前当所で開発した呼吸器マルチプレックスPCR検査により、病原体の検索を行ったので報告する。

検体および検出方法 

2020年1月31日~3月4日までに福岡県(北九州市および福岡市を除く)の保健所から当所へ搬入された119検体を対象とした。検体の種別は、咽頭ぬぐい液が42件(35%)、喀痰が38件(32%)、鼻咽頭ぬぐい液33件(28%)、鼻咽頭ぬぐい液・咽頭ぬぐい液混合が3件(3%)、その他3件(3%)であった。

呼吸器マルチプレックスPCR法は、以前に当所が開発した16 種類の呼吸器系ウイルスを網羅的に検出する方法である。同法は2003年にSARSコロナウイルスによる重症呼吸器感染症が大流行したことから健康危機管理対策として開発した1)。今回、10本(5セット)のプライマーを用い、インフルエンザウイルス(A, B)、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)およびライノウイルス(HRV)の検出を行った。

結果および考察

検査検体数および患者数の日別推移を図1に示した。本県では、国が示した通知に基づき2020年2月1日に帰国者・接触者相談センターを設置し、当初は発熱かつ呼吸器症状を有し、武漢市を含む湖北省への渡航歴がある者等を主に対象とし検査を実施した。さらに、2月7日以降は自治体の判断で柔軟に検査を行うようになった。2月17日には医師が総合的に判断しCOVID-19感染を疑う場合も含まれるよう拡大したこともあり、検査検体数は2月17日以降増加傾向であった。搬入された患者の臨床症状を図2(a)に、年代別割合を図2(b)に示した。症状では、咳(86%)、発熱(85%)、肺炎および所見あり(58%)が多かった。年代は10歳未満から90代まで幅広い年齢層であった(中央値:48歳)。呼吸器マルチプレックスPCRの結果、81名中14名(17%)から呼吸器系のウイルス遺伝子が検出された。検出されたウイルスの内訳はhMPVが10名(12%)、HRVが3名(4%)、インフルエンザウイルスB型が1名(1%)であった。ウイルスが検出された患者の臨床症状をに示す。発熱は14名中13名(93%)とほとんどの患者でみられ、肺炎および所見ありが14名中10名(71%)であった。

今回の結果から、COVID-19と並行してhMPVやHRVが流行していた可能性がある。特に陰性検体の12%でhMPVが検出されたことから、COVID-19感染疑い例でのhMPV鑑別は有効と考えられる。hMPVは主に小児の呼吸器感染症として知られているが、本年1月に徳島県の老健施設でhMPVの集団感染が発生して死亡者も出ていることから、高齢者においても注意すべきウイルスである。今回、呼吸器ウイルスが検出された患者は比較的年齢が高く、肺炎および所見ありや基礎疾患を有する者の割合が高かった。これらの結果から、COVID-19だけでなくhMPVやHRV等の呼吸器ウイルスについても、高齢者や基礎疾患を有する者への流行および重症化予防対策が必要と考えられる。

謝辞:検体採取等調査にご協力いただきました医療機関、保健所および行政機関の関係者に深謝致します。

 

参考文献
  1. 吉冨ら, 福岡県保健研究所年報第41号: 94~97, 2013
  
福岡県保健環境研究所 
 上田紗織 中村麻子 小林孝行 芦塚由紀 田中義人 香月 進

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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