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日本国内の新型コロナウイルス感染症第一例を契機に検知された中国武漢市における市中感染の発生

(速報掲載日 2020/7/7) (IASR Vol. 41 p143-144: 2020年8月号)

患者Aは、2020年1月3日(以下、特記しない日付は2020年)に中国武漢市に滞在中に発熱を認め、帰国日の1月6日に日本国内のクリニックでインフルエンザ迅速診断キット陰性とされ、自宅療養をしていたが、症状が軽快しないため、1月10日にX病院を受診し、胸部レントゲン写真で肺炎像が確認された。1月13日には肺炎症状が改善をみないことを受け、1月14日に管轄保健所により行政検査の手続きがとられ、1月15日夜に確定診断がなされ、日本国内で検知された新型コロナウイルス感染症第一例目となった。世界保健機関(WHO)に対しては1月16日未明に国際保健規則に基づいて症例の発生が通告された。

患者Aは、2019年12月20日に日本から武漢入りし、1月6日に帰国するまで、患者Aの家族とともに両親・弟家族の家に滞在した。患者Aは、今回の武漢市滞在中に、武漢市において当時の感染源と推定されていた海鮮市場の訪問歴、また中国国内での医療機関の受診歴等、その他のリスク行動はなかった。

一方、患者Aの父親(B氏とする)が2019年12月28日に発熱し、自宅近所のクリニックに通院し、「普通の風邪」として治療を受けていた。1月7日に、B氏は武漢市内の病院に入院し、CT画像上の肺炎所見と、入院日に採取された血液の検査における肺炎クラミジアIgG陽性(IgM陰性)によってクラミジア肺炎と診断されたとのことである。

12月20日に患者Aが、武漢市入りした後、12月28日にB氏が発熱するまでのB氏の行動歴は、患者Aによると、近所の外出や買い物程度であり、医療機関の受診や海鮮市場への訪問、同居家族を含め明らかに症状のある者との接触歴はなかった。

B氏は、平素は武漢で妻と、次男家族(次男、妻、子供1名)の5人暮らし。12月20日に、患者Aとその子供2名が、12月27日には、患者Aの妻が合流し、1月6日に患者Aの家族4名が帰国するまで、B氏の家には、計9名が滞在していた。

1月3日に、患者A以外に、患者Aの妻、患者Aの弟が発熱し、患者Aの妻は、翌日に解熱、患者Aの弟は、1月7日に解熱したとのことである。つまり、B氏の同居者、成人5名のうち、3名が同時に発熱していた。

上記の疫学調査の結果から、患者Aの感染源は、武漢市の市中で感染した、もしくは、クラミジア肺炎と診断されていたB氏が感染源であった可能性の2つが考えられる。

現在のところ新型コロナウイルス感染症の潜伏期は2~14日と言われており、患者Aの発症日(1月3日)を起点とすると、遅くとも、1月1日には、武漢市において市中感染が発生していた可能性が高い。また、仮にB氏が、新型コロナウイルス感染症であったとすれば、自宅周辺の市中での感染の可能性が高く、遅くとも12月26日には武漢市において市中感染が発生していた可能性がある。

1月14日に、WHOは武漢市の新型コロナウイルス感染症事例に関して、主に家族を中心として限定的なヒト―ヒト感染が起こっている可能性があること、より広範囲なアウトブレイクが発生する可能性があることを指摘した。また1月22日には、WHOによる現地調査の結果、ヒト―ヒト感染が発生していると指摘した (https://www.who.int/news-room/detail/27-04-2020-who-timeline---covid-19) 。

日本国内において、医療機関と地方自治体との良好な連携体制に基づき、第一例目を迅速に探知し、適切に対応できたこと、また、1月15日の段階で、武漢市における市中感染の発生を認知することができたことなど、大変貴重な事例であると考える。公表に同意いただいた関係者に深謝する。

 
 
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