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新型コロナウイルス感染症における積極的疫学調査の結果について(最終報告)

(IASR Vol. 42 p197-199: 2021年9月号)

 

 本報告は, 感染症法第15条第1項の規定に基づいた積極的疫学調査1,2)で集約された, 各自治体・医療機関から寄せられた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の退院患者の情報に関する最終報告3,4)である。ただし, 本情報は統一的に収集されたものではなく, 各医療機関の退院サマリーの様式によるため解釈には注意が必要である。

 COVID-19患者770例のデータを集計した。入院開始日は2020年1月25日~2021年5月6日(n=766, 不明4例), 入院期間は中央値12.0日(四分位範囲8.0-19.0日, n=727), 死亡退院は39例(5%)であった。性別は, 男性440例(57%), 女性330例(43%), 年齢は中央値51.0歳(四分位範囲30.0-68.5歳)であった。何らかの基礎疾患を有した症例は270例(35%)であった。

 発症時の症状として, 発熱404例(52%), 呼吸器症状224例(29%), 倦怠感108例(14%), 頭痛63例(8%), 消化器症状45例(6%), 鼻汁31例(4%), 味覚異常26例(3%), 嗅覚異常24例(3%), 関節痛24例(3%), 筋肉痛11例(1%)の順に多くみられた。入院時の症状は, 発熱288例(37%), 呼吸器症状199例(26%), 倦怠感83例(11%), 消化器症状58例(8%), 味覚異常45例(6%), 頭痛46例(6%), 嗅覚異常43例(6%), 鼻汁28例(4%), 関節痛19例(2%), 筋肉痛6例(<1%), 意識障害1例(<1%)であった。入院中, 29例(4%)において合併症の記載があり, その内訳(重複を含む)は, 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)14例(2%), 急性腎障害7例(<1%), 人工呼吸器関連肺炎4例(<1%), 播種性血管内凝固症候群(DIC)3例(<1%), 多臓器不全2例(<1%), 誤嚥性肺炎2例(<1%), カテーテル関連血流感染2例(<1%), 細菌性肺炎1例(<1%)であり, このうち19例が死亡した。

 画像は, 2名の放射線科医師によって, 2020年9月時点で集められた396例の読影が行われた。入院時(入院日の前後3日を含む期間)に胸部単純X線写真が撮像された168症例のうち, 異常所見の認められた79症例(47%)について主な所見をに示した。網状粒状影, 心拡大, 浸潤影は60歳以上に多く認められた。異常所見は両側(81%), 末梢肺野(75%), 下肺野優位(92%)に分布した(図1)。一方, 入院時にCT画像が撮像された269例のうち, 異常所見の認められた182例(68%)について, 異常所見が5肺葉に及んだものが67例(37%), 陰影のサイズは3cmから肺葉の50%未満を占める場合が94例(52%)と最も多かった。また, 異常陰影は, 両側肺野145例(80%), 末梢性178例(98%)に認められ, 特に右下葉152例(84%), 左下葉149例(82%)と下葉優位であるものの, 上葉にも分布していた。陰影所見として, すりガラス陰影182例(100%), 気管支透亮像(air bronchogram)98例(54%), 気管支拡張90例(49%), 胸膜下線状影80例(44%)が多く認められた(図2)。また, 入院時に胸部単純X線写真およびCT画像ともに撮像されていた161例において, CT画像で異常陰影を認めた症例で, 胸部単純X線写真で異常陰影を認めた症例の割合は, 両側陰影58/90(64%), 右肺野陰影69/98(70%), 左肺野陰影61/98(62%)であった。CT画像で異常陰影が末梢にあった症例のうち, 胸部単純X線写真でも末梢に異常陰影を認めた症例は56/102(55%)であった。また, CT画像で異常所見が確認されなかった症例のうち, 胸部単純X線写真で異常所見ありと診断された症例はごくわずかであった。死亡例11例に限ると, 両側陰影10/11(91%), 右肺野陰影10/11(91%), 左肺野陰影11/11(100%), 末梢肺野陰影8/11(73%)であった。また, 入院時に胸部単純X線写真を撮像し, その後死亡した15例のうち10例(67%)に心拡大が認められた(図1)。

 これらの結果から, 入院時の胸部単純X線写真で認められた両側・末梢優位の異常陰影はCT所見とおおむね同様であった。退院時死亡した重症例に限定すると, 胸部単純X線写真で認められた異常陰影は, CT所見とより一致する傾向が認められ, さらに死亡例の多くが胸部単純X線写真で心拡大を呈していた。

 全770例のうち, 対症療法ではなくCOVID-19への直接的な効果を期待して231例(30%)で抗ウイルス薬投与等の治療介入が行われていた。うち, 新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第5版)5)に記載され, 日本国内で承認されている医薬品としてレムデシビルは24例, ステロイドは20例が投与されていた。酸素投与は107例(14%)に実施され, その投与方法は, マスク55例, カニューラ12例, リザーバーマスク13例, 非侵襲的陽圧換気(NPPV)2例, 人工呼吸器22例, 体外式膜型人工肺(ECMO)3例であった。

 本調査は, COVID-19が日本において報告されて間もない2020(令和2)年2月20日に, 臨床情報を把握するために開始された1)。このたび, 一定の情報が得られたことから2021(令和3)年5月25日をもって停止することとなった2)

 謝辞:本調査にご協力いただきました各自治体関係者の皆様, 下記の医療機関の皆様, および画像読影にご協力いただきました徳島大学・音見暢一先生, 榎本英明先生に心より御礼申し上げます。

 旭川医科大学病院, 阿蘇医療センター, 伊勢崎市民病院, 医療法人弘仁会板倉病院, 医療法人社団誠馨会セコメディック病院, 臼杵市医師会立コスモス病院, 愛媛大学医学部附属病院, 邑楽館林医療事務組合公立館林厚生病院, 大分県厚生連鶴見病院, 大分県済生会日田病院, 大分県立病院, 大阪市民病院機構大阪市立総合医療センター, 大阪府済生会中津病院, 大阪府立病院機構大阪はびきの医療センター, 川崎市立多摩病院, 九州大学病院, 久留米大学病院, 国立国際医療研究センター病院, 国立病院機構大分医療センター, 国立病院機構九州医療センター, 国家公務員共済組合連合会東京共済病院, JA秋田厚生連由利組合総合病院, JA岐阜厚生連中濃厚生病院, JA北海道厚生連遠軽厚生病院, JA北海道厚生連俱知安厚生病院, 静岡市立静岡病院, 静岡市立清水病院, 社会医療法人共愛会戸畑共立病院, 社会医療法人関愛会佐賀関病院, 社会医療法人天神会新古賀病院, 社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院, 市立旭川病院, 市立宇和島病院, 市立札幌病院, 市立東大阪医療センター, 地域医療機能推進機構南海医療センター, 地域医療機能推進機構船橋中央病院, 帝京大学医学部附属溝口病院, 鳥取県立厚生病院, 鳥取大学医学部附属病院, 富岡地域医療企業団公立富岡総合病院, 名古屋大学医学部附属病院, 奈良県立医科大学附属病院, 日本赤十字社石巻赤十字病院, 日本赤十字社医療センター, 日本赤十字社熊本赤十字病院, 日本赤十字社静岡赤十字病院, 日本赤十字社仙台赤十字病院, 日本赤十字社八戸赤十字病院, 日本赤十字社福島赤十字病院, 羽島市民病院, 平塚市民病院, 福島県立医科大学附属病院, 豊後大野市民病院, りんくう総合医療センター  他(50音順)

 

参考資料
  1. 厚生労働省健康局結核感染症課 新型コロナウイルス感染症における積極的疫学調査について(協力依頼)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000598774.pdf
  2. 厚生労働省健康局結核感染症課 新型コロナウイルス感染症患者の退院サマリーなどの情報の収集の停止について(周知)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000784341.pdf
  3. IASR 41: 166-169, 2020
  4. IASR 41: 220-221, 2020
  5. 新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第5版)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000785119.pdf

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