高い累積罹患率を認めた札幌市内コールセンターでの新型コロナウイルス感染症アウトブレイク(2021年5月)―健康管理, 感染管理, 換気を確認する重要性について
(IASR Vol. 42 p206-207: 2021年9月号)
2021年4月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第4波を迎えていた札幌市で, 市内コールセンターAでCOVID-19アウトブレイクが確認された。コールセンターは, 比較的密な環境で時に大声を出して勤務していることから, 海外でもアウトブレイクが報告されており1), 安全な勤務体制の構築が課題である。今回, 調査で判明した課題を整理し, 改善点を検討した。
症例を, 2021年5月3日~6月10日までに, コールセンターA(派遣合わせた従業員260名)で勤務した職員のうち, 検査でCOVID-19と診断された人と定義し, 札幌市保健所に報告された調査票と同センター職員へのインタビューの情報を利用した。また, 現地視察を行い, オフィス業務が行われていた同じ状況で, 対象空間内にCO2ガスを発生させ, その濃度減衰から換気量(外気量)を換算した。
症例定義に86例が合致し, 女性が56例(65%), 年齢は中央値44歳(範囲32-55歳)であり, 社員が11例(13%)で, 残りは委託会社からの派遣社員であった。大多数はオペレーター(64例, 74%)であったが, 他にスーパーバイザーが7例(8%), 統括・庶務が4例(5%)であった。累積罹患率は, オペレーター64例/182例(35%), スーパーバイザー7例/25例(28%), 統括・庶務が4例/21例(19%)であり, 社員5例/16例(31%), 派遣会社82例/225例(36%)であった。検体採取時の有症状者は77例(90%)であり, 症状出現後も出勤を継続した職員が8例(9%)いた。症例は4週間にわたり, 継続的に確認されていた。勤務中に全員が何らかのマスクをしていたということで, 当初濃厚接触者は職場外の接触者に留まっていたが, 症例発生が継続したことから, 全従業員を濃厚接触者扱いとして対応が行われた。
オフィスは125席の窓が開けられない空間で, 日替わりで席が変わっていた(図)。席同士は1.5m程度の距離があり, 高さ60cmのパーティションが机上に左右と前とを区切る形で置かれていたが, 左右や斜めの人とは対面会話ができる状況であった。オフィス内の換気は, 外調機によって中央管理されており, 導入した外気は, 間仕切りで分けられた各ブースにそれぞれ供給されていた。今回実施した換気量の測定では, 室内濃度を1,100ppmまで上げた後の濃度減衰から算出した換気量は2,965m3/h(前室含む)であり, 外調機から一定の外気が導入されることが確認された。しかし, 外調機は9時~19時まで運転されていたが, 19時以降も残業していた人もいた〔症例中では7例(8%)〕。
オフィス入口に擦式手指消毒剤が設置され, 各自の机には成分不明の消毒剤が設置されていたが, 訪問時には実際に消毒をしている職員は観察されなかった。マイク付きのヘッドセットは共有されており, 清掃・消毒は会社からの指示があったものの, 管理は個人に任されていた。職員の体調管理に関しては, 体温測定が行われていたが, 記録はされていなかった。休憩室は黙食が励行されていたが, 席はお互いに話ができる構造になっていた。約20名が使用していたとのことだが, 人数制限や利用者の把握はされていなかった。
本事例は, ユニバーサルマスク下で行っていた屋内のコールセンター業務により, 80例を超すCOVID-19感染者が確認された事例であった。休憩や勤務中のマスクを外した時の飛沫感染, および不十分な消毒下でのヘッドセット共有や, 不十分な手指衛生による接触感染による感染拡大の可能性が高いと考えられた。また, 不十分な換気条件下で長時間声を出す活動をしていたことにより, マスクでは防げなかった感染経路(空気感染, 眼からの感染)による感染が否定できなかった。有症状勤務が感染拡大に影響していた可能性もあり, 呼吸器症状を含めた適切な健康管理が重要であると考えられた。
一方, 換気に関して, 建築物衛生法(ビル管理法)に基づく1人当たりの必要換気量30m3/hから算出した結果, 当該オフィスでの適切な人員は約80人程度(前室除く)であった。また, 省エネを目的とした換気量制御(排気のCO2濃度が800ppm以下の場合に外気導入量を減らす制御)が行われている中で, 対象空間内のCO2濃度と制御側のCO2濃度との乖離が確認されており(データ掲載無し), 換気量が適切に制御されていなかった可能性がある。さらに, 19時以降は外調機が稼働していなかったことから, この時間帯の換気がほとんど行われていない状況であったと考えられる。
今回の結果から, 屋内でのオフィス作業では, 室内CO2濃度に応じた適切な換気量の確保と, 室内換気量に応じた在室者数の調整が必須であると考えられた。特に, 大声で話すことから飛沫粒子がより多く, そして長距離飛散する可能性があることから2), 室内で大声での対応を時に必要とするコールセンター業務等では, これらを徹底していく必要がある。また, 職場において, 手指衛生の徹底, 清掃や適切な消毒薬による環境整備, 個人の健康観察に加え, 組織として実施する健康観察も, 一層進めていく必要がある。
謝辞:本調査にご協力頂いた札幌市都市局の皆様に感謝を申し上げます。
参考文献
- Park SY, et al., Emerg Infect Dis 26(8): 1666-1670, 2020
- Anfinrud P, et al., N Engl J Med 382(21): 2061-2063, 2020