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新型コロナウイルスN501Y変異株による接触場所別SARS-CoV-2 PCR検査陽性率の変化

(IASR Vol. 42 p236-237: 2021年10月号)

 
はじめに

 全国自治体が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者発生に際して実施する積極的疫学調査では, 患者および濃厚接触者に対して詳細な聞き取り調査が行われる。本解析の目的は, これまで収集された積極的疫学調査情報を集約し, 感染者と濃厚接触者の基本情報と接触場所から感染リスクの高い属性や感染場所の特徴を明らかにするとともに, 感染伝播性が高いといわれるN501Y変異を有する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株(N501Y変異株)の二次感染率を従来株と比較検討することである。

方 法

 2020年7月1日~10月31日(コホート1)と2021年4月1日~4月30日(コホート2)までの2つの期間に富山県A市で実施された積極的疫学調査のデータを用いて分析を行った。当該期間中に国立感染症研究所が公開している「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」の濃厚接触者の定義に基づき1), 感染可能期間とされるCOVID-19患者の発症2日前から隔離開始までに接触したと判断された人に対してSARS-CoV-2のPCR検査を実施した。PCR検査結果を基に, 濃厚接触者の基本属性(年齢, 性別, 感染者との関係, 症状の有無, 最終検査日, 検査結果, 健康調査期間)や, 感染者と接触した場所別のPCR検査陽性率を二次感染率として算出した。濃厚接触者のうち, PCR検査結果不明の64名(4.2%)は解析から除外した。

 また, 2021年4月1日~4月30日の期間は, N501Y変異株が感染拡大し始めた時期で, 衛生研究所がN501Y変異株のスクリーニングPCR検査を実施しており, スクリーニング検査陽性をN501Y変異株, 検査陰性を従来株とした。N501Y変異スクリーニング検査陽性であった検体のうち38検体のゲノム解析を実施した結果, 解析不能であった2検体を除き36検体がアルファ株であったことが確認されており, 他のN501Y変異株もアルファ株であったと考えられる。一方, 2020年7月1日~10月31日の期間に診断された症例は, N501Y変異株出現前であるためN501Y変異スクリーニング検査は行っていないが, 全例従来株とみなした。これらの分類を基に, N501Y変異株感染者と従来株感染者の濃厚接触者の二次感染率の違いをポアソン回帰分析を用い相対リスクで評価した。

結 果

 2020年7月1日~10月31日にA市でCOVID-19と診断された123名と, 2021年4月1日~30日までに診断された246名を解析対象とした。コホート1とコホート2の発症から診断までの日数は, それぞれ平均5.03(標準偏差2.82)日と3.81(標準偏差3.17)日であり, コホート2では平均1.2日短縮した。濃厚接触者数はコホート1で490名, コホート2で966名(検査未実施者68名, 検査結果判定不能108名を含む)であった。濃厚接触者は, 感染者との最終接触後から平均13(標準偏差2.27)日追跡され, 二次感染率はそれぞれ12.4(95%信頼区間:9.7-15.7)%, 13.0(95%信頼区間:11.0-15.3)%であった。

 コホート1とコホート2のデータを統合したのち, 検査未実施者68名, 検査結果判定不能108名を除いた従来株感染者(166名)の濃厚接触者585名, N501Y変異株感染者(145名)の濃厚接触者695名について検討した(表1)。濃厚接触者数は, 従来株感染者で平均3.52人, N501Y変異株感染者で平均4.79人であった。二次感染率は従来株感染者の濃厚接触者で12.8%, N501Y変異株感染者の濃厚接触者で13.5%であり, N501Y変異の有無による二次感染率は同様であったが〔相対リスク:1.05(95%信頼区間:0.79-1.40)〕, 濃厚接触者の年齢と性別, 接触した感染者の症状の有無を含め多変量解析後, N501Y変異株感染者の濃厚接触者が感染したリスクは, 従来株感染者の濃厚接触者と比べて1.44倍(95%信頼区間:1.08-1.91)高くなった(表2)。接触した感染者の症状で層別化すると, 感染者が有症状者であった場合の補正後相対リスクは1.43(95%信頼区間:1.08-1.91)であったのに対し, 無症状者の補正後相対リスクは5.54(95%信頼区間:0.90-34.18)であった。これらの結果はコホート2に限定した場合も, 統計学的に有意ではなかったが, 同様の傾向がみられた〔補正後相対リスク:1.39(95%信頼区間:0.82-2.34)〕。

 接触場所ごとの濃厚接触者の二次感染率をみると, N501Y変異株感染者の同居家族内(家族以外の同居人を含む)の二次感染率は26.1%であり, 従来株感染者と比較して1.76倍(95%信頼区間:1.12-2.74)高い結果であった。同居以外の接触場所でもN501Y変異株感染者の濃厚接触者は感染リスクが高くなる傾向がみられたが, サンプルサイズが小さく95%信頼区間は広かった(表2)。

考 察

 本調査結果より, N501Y変異株感染者からの感染リスクが1.44倍上昇していたことがわかった。これまでの国内のデータからは, 従来株とN501Y変異株(アルファ株)の実効再生産数を比較した結果, 感染性は平均1.32倍上昇していた2)。また, 英国の研究でも, 従来株とアルファ株の実効再生産数を比較した結果, アルファ株の感染性は従来株よりも1.5-2.0倍高いと推定されており3), 本研究でも, 手法は異なるがN501Y変異株による感染性の上昇が確認された。特に, 家族内二次感染率を比較することによって, N501Y変異株の感染性の上昇が示された。N501Y変異株感染者からの同居家族内二次感染率は26.1%, 別居家族内二次感染率は22.2%であり, 2020年7~10月のA市の家族内二次感染率14.8%(別居家族を含む)や, 2020年2~5月の国内10県のデータを用いて算出した家族内二次感染率19.0%(別居家族を含む)4)よりも高い値であった。家族内二次感染率は, 発症から診断までの日数が長くなることによって上昇することが分かっているが4), 今回N501Y変異株感染者では, 無症状者の割合が高く, かつ発症から診断までの日数が短かったにもかかわらず, 従来株よりも高い二次感染率を示した。同居家族以外の接触場所でも感染性の上昇は確認されたが, 濃厚接触者の接触度合いは様々であり, 濃厚接触者の基準がより明確である同居家族内の陽性率は感染性評価の良い指標となると思われる。ただし, 家族内でも年代や性別によって接触する人数や接触度合いは異なっており, 感染者の年代や性別, 症状の有無などを考慮した解析を行う必要がある。

 

参考文献
  1. 新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html(Accessed March 9, 2021)
  2. 国立感染症研究所, 日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報), 2021年4月5日
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10279-covid19-40.html
  3. Davies NG, et al., Science 372(6538), 2021
  4. Miyahara R, et al., Emerg Infect Dis 27(3): 915-918, 2021

富山県衛生研究所         
 田村恒介 谷 英樹 大石和徳  
国立感染症研究所感染症疫学センター
 宮原麗子 大谷可菜子 髙 勇羅 鈴木 基

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