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新型コロナウイルスオミクロン株のスクリーニングPCR法の検出感度の違いについて

(IASR Vol. 43 p76-77: 2022年3月号)

 
はじめに

 現在, 国内では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株スクリーニングの目的で, デルタ株に認められるL452R変異がオミクロン株では陰性となることを利用したPCR検査が実施されている1)。しかしながら, 当所におけるL452R変異検出PCR検査では, L452R変異判定不能となる検体の割合が多かった。一方, 2022年1月に, オミクロン株を検出できるPrimer/Probe G339D(SARS-CoV-2)が市販され, G339D変異検出PCR法を用いてオミクロン株のスクリーニングが可能になった。このため, 我々はSARS-CoV-2陽性検体を用いて, L452R変異PCR法とG339D変異PCR法によるオミクロン株のスクリーニングPCR法の検出感度を比較検討した。

方 法

 検体は, 2022年1月中に医療機関等より変異検査用に当所に搬入されたSARS-CoV-2陽性, オミクロン変異の有無が不明の75検体(鼻腔/鼻咽頭ぬぐい液44検体, 唾液31検体)を用いた。2種類のプライマー・プローブ(Primer/Probe L452R, Primer/Probe G339D, タカラバイオ)と, SARS-CoV-2ダイレクトPCR検出キット(タカラバイオ)を用いて, Thermo Fisher SCIENTIFIC QuantStudio®5リアルタイムPCRシステムで解析した。なおthreshold cycle(Ct)値40以上の検体は不検出として扱った。L452R変異検査では, L452R変異を持つデルタ株とオミクロン株の452Lを識別できる2種類のプライマー・プローブを用い, いずれの検出系も不検出であった場合を判定不能とした。同様にG339D変異検査においても, オミクロン株の持つG339Dと, デルタ等の株の持つ339Gを識別できる2組のプライマー・プローブを用い, いずれも不検出の場合を判定不能とした。

 さらに, カラム等による患者検体のRNA精製が不要なSARS-CoV-2遺伝子検出用ダイレクトPCR法2)(以下, 通常PCR検査)によって, N領域をターゲットとしたプライマー・プローブ3)(2019-nCoV_N2 F-primer/R-primer/Probe, タカラバイオ)を用いてCt値を算出し, 同一検体を用いたL452R変異およびG339D変異検査のCt値と比較した。

結果および考察

 L452R変異, G339D変異検出検査および通常PCR検査の結果を表1に示す。L452R変異検査判定ではオミクロン疑い株33件, 判定不能42件に対し, G339D変異検査ではオミクロン疑い株が70件, デルタ疑い株が1件, 判定不能が4件となった。L452R変異検査では不検出のため判定不能となった42検体のうち, G339D変異検査では37件(88.1%)が変異陽性, 1件が変異陰性と判定された。L452R変異検査で判定できなかった42検体のうち38検体(90.5%)を判定できた。

 次に, すべての検体について通常PCR検査を行い, Ct値の測定を行った。いずれの変異検査でも判定不能とならなかった33検体について, G339D変異検査と通常PCR検査のCt値を比較すると, 平均1.2とわずかな差であるのに対し, L452R変異検査と通常PCR検査のCt値を比較すると, L452R変異検査のCt値の方が平均6.5高いことが分かった(表2)。

 本研究では, タカラバイオのキットにおいて, G339D変異検査はL452R変異検査と比較して高い検出感度があり, 通常PCR検査と同程度であることが分かった。一方, L452R変異検査では, 本来オミクロン株である可能性のある検体に対し判定不能と判定される頻度が高く, オミクロン株の推定がより不正確になることが示唆された。以上のことから, 変異株スクリーニングにおいては, 判定不能例を少なくするために, より検出感度の高い検査を組み合わせるなど, 柔軟に対応できる検査体制を構築することが重要である。

 

参考文献
  1. 厚生労働省健康局結核感染症課長, 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株PCR検査について(要請), 令和3年12月9日一部改正
  2. 国立感染症研究所, 「感染研・地衛研専用」SARS-CoV-2遺伝子検出・ウイルス分離マニュアル Ver.1.1,令和3年2月8日
  3. 米国疾病予防管理センター(CDC),2019-Novel Coronavirus(2019-nCoV)Real-time rRT-PCR Panel Primers and Probes(Effective: 24 Jan 2020)

富山県衛生研究所          
 矢澤俊輔 五十嵐笑子 板持雅恵 稲崎倫子 佐賀由美子
 川尻千賀子 谷 英樹 大石和徳        
愛媛県立衛生環境研究所       
 四宮博人             
協力機関:富山県厚生部健康課,    
 新川厚生センター, 高岡厚生センター,
 砺波厚生センター, 中部厚生センター,
 富山市保健所

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