国立感染症研究所

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主に保護者の感染から疑われた新型コロナウイルス感染症(デルタ株)の複数地域の保育所における集団感染事例, 2021年10~11月

(IASR Vol. 43 p122-123: 2022年5月号)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が全国的に低調であった2021年10~11月に, 国内の複数の保育所でCOVID-19症例の集積を認めた。このうち地理的に離れた2つの市の事例について, 探知と対応に関する知見を紹介するため, 調査の結果を報告する。なお, この時期の両市の平均報告数は4-5例/日であった。

 症例定義を, 2021年10月1日~11月30日に両市保健所に届出されたCOVID-19症例のうち, 各保健所が実施した積極的疫学調査により各保育所関連事例と判断された者, とした。また, 各保育所において発生届の提出日が最も早かった症例を探知例, 有症状の陽性者の中で発症日が最も早かった症例を初発例とした。情報源として, 保健所が実施した積極的疫学調査結果と衛生研究所でのゲノム解析結果を用い, 記述疫学を行った。

 各事例の陽性者数, 属性, 新型コロナワクチン接種歴をに, 各事例の初発例の発症日をX日とした発症日別流行曲線をに示す。

 A保育所の探知例は園児の家族(成人)であった。流行はX+20日目まで続いた。探知後実施された調査により, 探知された時点で1家族4人の発症者がいたことが確認された。その後, 同じクラスの園児に感染伝播し, 後にその家族への家庭内伝播が確認された。

 B保育所の探知例は園児の家族(成人)であった。流行はX+18日目まで続いた。探知後実施された調査により, 探知された時点で5家族11人の発症者がいたことが確認された。本事例も同じクラスの園児に感染伝播し, 後にその家族への家庭内伝播が確認された。さらに, 本事例では家族の勤務先へも伝播が確認された。

 C保育所の探知例は園児の家族(成人)であった。流行はX+20日目まで続いた。探知後実施された調査により, 探知された時点で4家族8人の発症者がいたことが確認された。本事例も同じクラスの園児に感染伝播し, 後にその家族への家庭内伝播が確認された。

 D保育所の探知例は園児であった。本症例はC保育所関係者(成人)の濃厚接触者であった。流行はX+19日目まで続いた。探知後実施された調査により, 探知された時点で他の園児2例の発症を認めた。本事例も同じクラスの園児に感染伝播し, 後にそれぞれの家族への家庭内伝播が確認された。

 別の市にあるE保育所の探知例は園児の家族(成人)であった。探知の2週間程度前に体調不良の園児が複数いた。探知後の陽性者に園児や職員はおらず, 家族や接触者のみで, 保育所クラスターとしては対応されなかった。X+19日目に, 先に陽性が判明した家族の濃厚接触者として受けた検査で初めて園児2名の陽性が確認されたため, 他の園児と職員の一斉検査が行われた。流行はX+23日目まで続いたが, 最終的に23症例のうち園児は4例(17%)のみであった。

 検出されゲノム解析されたウイルスはすべてV.1.617.2系統の変異株(デルタ株)であった。同じ保育所内で検出されたウイルスは極近縁のウイルスであった。また, B, C, D保育所の症例から検出されたウイルスは極近縁のウイルスであった。

 2つの離れた市の保育所におけるデルタ株によるCOVID-19の集団感染事例が5事例確認された。探知例は4事例が成人保護者であり, 探知例が小児であった1事例も受検契機は本人の発症ではなく濃厚接触者として検査を受けていた。また, 全事例で探知例以前に複数の保護者や園児に症状があり, 探知時には既に保育所内で感染が広がっていたことが疑われた。特に, 探知時点で複数家族に感染が広がっていた場合, 家族内を越えた他の集団に感染が拡大していた。園児の感染は, 家族の仕事や家族を介した感染拡大に大きく影響するため, 特に早期の探知と対応が重要である。保護者や接触者が複数名陽性となっている場合は, 園での集団感染を疑い, 対応に踏み切ることも重要である。

 今回確認された事例では, 小児の発症により探知された事例は認められなかった。小児のCOVID-19(デルタ株)では軽症例が成人より多く, 発熱が少ない等, 臨床診断が難しいとされる1)。小児では検体採取の難しさがあるが, 鑑別疾患としてCOVID-19が否定できない場合, 積極的にSARS-CoV-2の検査を実施することが望ましい。

 本解析の制限として, 園児に対する検査が十分行われていないことから, 診断されていない症例がいる可能性があることが挙げられる。また, 各保育所の感染管理について, 発生以前の実施状況や, 探知後の介入による改善を十分把握できておらず, 感染伝播への影響は不明であることが挙げられる。

 一般に, 小児はワクチン接種対象年齢外でマスクの適切な着用・手指衛生・3密回避が難しく, 感染が広がると保護者が欠勤する必要が生じるなど, 社会への影響が大きい。デルタ株による本事例から得られた所見は, その後のオミクロン株流行時の保育所での感染拡大による対応とも異なる可能性はあるが, 周囲の大人が感染予防策(ワクチン接種, マスク着用, 手洗い, 換気, など)を徹底し, 園児への感染予防や, 園児からの感染拡大予防に努めることは常に必要であり, 一貫して強調される。

 

参考文献
  1. CDC, MMWR 69(14): 422-426, 2020

国立感染症研究所実地疫学研究センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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