国立感染症研究所

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寝屋川市保健所管内における高齢者通所施設における新型コロナウイルスオミクロン株感染事例

(IASR Vol. 43 p149-151: 2022年6月号)

 
背 景

 2019年12月に中国湖北省武漢市で不明肺炎として初めて報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は, 2020年3月11日には世界的大流行(パンデミック)が世界保健機関(WHO)によって宣言された新興感染症である。数次の変異ウイルスの流行を経て, 2021年11月26日, WHOは南アフリカ共和国から報告された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異ウイルスであるB.1.1.529系統(オミクロン株)を, 懸念される変異株(Variant of Concern: VOC)と分類した1)。2021年12月中旬以降, 日本国内においてオミクロン株によるCOVID-19の市中感染の報告が散見されるようになり, 2022年に入り大きな流行となった。2021年12月に大阪府寝屋川市内の社会福祉施設(高齢者向けリハビリデイケア)において, 本邦初と考えられるSARS-CoV-2オミクロン株症例の集団発生(クラスター)が認められた。施設において認められたオミクロン株症例の臨床像および推定感染経路についての分析結果を報告する。

端 緒

 寝屋川市外在住の50代女性職員が2021年12月20日夕方から発熱, 咽頭痛を呈したため医療機関を受診したところ, 12月21日にPCRにてSARS-CoV-2陽性であることが確認された。同施設での感染拡大および高齢者施設での発生にともなう重症者の発生が懸念されたことから, 寝屋川市保健所が当該施設関係者に対する疫学調査, 施設調査を開始した。その結果, 当該職員が12月20日に出勤後, 複数の利用者に対し, 体操指導などのレクリエーションに従事していたことが判明した。なお, この職員の陽性が判明する前の2週間は, 当該施設の職員, 利用者にSARS-CoV-2陽性者を認めておらず, 大阪府全体でも2021年12月7~20日までの新規陽性者数は日平均11.7人と低い発生状況で推移していた2)。このことより, それより以前の施設へのウイルスの流入については否定的と考えられた。

発生状況

 症例定義は, 当該施設の職員または利用者で, 2021年12月6日~2022年1月4日までの間にSARS-CoV-2陽性が判明した者(以下, 陽性者)とした。

 職員9名(初発例を除く全員), 12月20日の利用者24名, 12月20日以外に利用した者16名に対して検査を行い, この時点で, 先に陽性が判明した職員および新たに判明した職員の計2名(22%, 2/9), 利用者6名(15%, 6/40)の陽性が判明した(計8名)(図1)。うち, 最も早い発症日は12月20日であり, 初発例とみなされた。次いで23日に1例, 24日に2例が発症していた。その後のゲノム解析により全陽性者がオミクロン株に感染していたことが判明した。陽性者のうち4名(50%)は診断時に有症状であり, このうち咳や鼻汁などの呼吸器症状が4名(100%), 発熱(37.5℃以上)が3名(75%)であった()。

 いずれの陽性者も12月20日に出勤または利用しており, 有症状者は12月20日から4日間の間に発症を認めた(図2)。12月20日の送迎では, 12月20日に発症(同日陽性判明)した職員が運転する送迎車に延べ6名が乗車し, うち1名が12月23日に陽性が判明した。また, 12月22日に陽性が判明した職員(無症状病原体保有者)が感染可能期間に運転する送迎車に延べ8名が乗車し, うち2名が12月24日に発症(12月25日陽性判明)した。施設では午前, 午後に利用者が入れ替わることとなっており, いずれに対しても食事の提供はなかった。12月20日は陽性職員2名が2チームに分かれ, 利用者に対して体操の指導やリハビリの介助を行っていた。施設内では同じ室内で活動が行われていたが, 体操や個別リハビリ中, 職員, 利用者はいずれもマスクを着用しており, 互いの距離を1.5m以上空けていた。当該施設はマンションの一角に所在しており, 他の建物が隣接していたため, 常時2方向の窓開け換気がしにくい構造であった。また, 玄関先は交通量の多い車道であり, 認知機能が低下している利用者が含まれることを考慮し, 玄関の開放による換気は困難であった。利用者がいない状況での環境測定(保健所による実施)によると, CO2濃度は測定開始後すぐに500ppmを上回り, 1,000ppmを超えることもあった。休憩時, 陽性職員を含む職員同士の直接の接触はなかった。後に陽性が判明した職員の中には利用者の送迎も担当していた者がいたが, 乗車前に職員が検温し, 利用者に手指消毒をさせ, 走行時は窓を5cm程度開ける対応を行っていた。送迎時間は最長で20分程度であった。クラスター発生が判明後に, 施設は2021年12月22日~2022年1月4日まで休業とした。

 利用者で陽性となった6名は全員がワクチン2回接種済みであった。陽性職員が感染可能期間に出勤していた12月20日または21日の利用歴がある者の陽性割合は2回接種済み者で23%(7/30), 未接種者で50%(1/2)であった。

考 察

 初発例となった職員により施設内にウイルスが持ち込まれ, 感染可能期間に勤務したことにより, 同僚や利用者に感染が拡大したと推測された。換気が不十分な室内での活動, 体操や介助における利用者・職員間の身体的な接触, 送迎車内での接触による飛沫感染や接触感染を主たる経路として感染が拡大したと推定された。それまでの変異ウイルスを含む従前のSARS-CoV-2対策と同様に, マスクの適切な着用, 手指衛生, 換気の徹底, フィジカルディスタンス, といった基本的な感染対策を実施することが必要であると考えられた。本事例において観察された有症状者の潜伏期間は4日以内であった。また, 利用者は全員が高齢者で要介護者であるが, 発症後約1カ月頃まで, COVID-19に起因する重症および死亡はみられておらず, オミクロン株の特徴ならびにワクチン2回接種による重症化阻止の有効性を示唆する所見であることを含め, それ以前のCOVID-19と異なる所見であると考えられた。

 
参考文献
  1. WHO, Classification of Omicron(B.1.1.529): SARS-CoV-2 Variant of Concern
    https://www.who.int/news/item/26-11-2021-classification-of-omicron-(b.1.1.529)-sars-cov-2-variant-of-concern
  2. 大阪府, 新型コロナウイルス感染症患者の発生状況(令和3年12月)
    https://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/osakakansensho/happyo_kako-r0312.html

寝屋川市保健所          
 田邉雅章 藏守利彦 谷本 敬 長船章浩 立賀英子
 川口 誠 中村美左 西川有季子 横尾美世 佐伯美冴
 石田若菜 藤田彩花 山本温子 上松美輝 放示 彩  
地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所     
 柿本健作           
国立感染症研究所         
 実地疫学専門家養成コース(FETP)
  小林美保           
 実地疫学研究センター      
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