国立感染症研究所

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大阪府内の某介護医療院におけるCOVID-19集団感染―院内での伝播, 対策, その効果―

(IASR Vol. 41 p131-132: 2020年7月号)

経 過

①病棟内での感染伝播

2020(令和2)年4月某日, 某介護医療院(以後, 同院)のE病棟(60床)に勤務する50代女性看護師(以後, A)に37.7℃の発熱, 咳嗽と全身倦怠感が出現, 4日後にCOVID-19と診断された。Aの発症2日前の夜勤入りした日をDay0とすると, Day4とDay5に, E病棟において入院患者計4人に発熱と倦怠感が出現した()。同院は病棟内COVID-19集団感染の可能性も想定し, Day6にE病棟から患者・職員の移動を制限した(リハビリ除く)。Day14までにこの病棟に入院する全患者と全職員の検体が同院で採取された。保健所は看護師Aの最終勤務終了から発症までの間隔が31時間あったことから, 当時の基準に基づき, AのE病棟内での濃厚接触者はいないと判断していた。

Aは, 夜勤入りのDay0からDay1の朝にかけて, Day4に発症した2人の患者に対して, 患者内服の支援, 抱き抱えて車椅子に移動させる, トイレに誘導する, 等の行為をしていた。Aを含め, 職員陽性者に対する遡り調査では, 院外での感染源は見出せなかった。また, 同院では本年3月以後, 新規入院患者はなかった。また, Day-4から院内感染防止のために面会を中止していた。

②対策の強化

同院ではDay9に, 発熱, 嘔吐等の症状が出現した患者だけを集めて無症状患者から分離し同室とする「発熱・嘔吐コホート」をE病棟内で開始した〔事務局注:この対応は「環境感染学会:医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第3版)」(http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=355)に記されている, 疑い例を対象としたコホーティングは避けるべき, との方針と明らかに異なっていたが, いたし方ない状況下での対応であったことと思われたことから注意されたい。〕同日からDay12までは, このコホートエリアで活動する職員は, 個人用防護具(PPE)としてサージカルマスク, 手袋, 袖なしエプロンに加えて, ゴーグル, キャップを装着し, 吸引時にはN95マスクを着用した。Day13以後は, 同エリア内ではN95マスク, 長袖ガウン, 手袋を二重, ゴーグル/フェースシールド, キャップ装着を標準とするPPEに変更し, その適正な装着を隣接する急性期病院の感染管理チーム(ICT)が毎日確認した。

保健所はDay16に病棟内のゾーニングをはじめとした院内感染対策を提案した。また, 感染対策防護具供与の調整を図った。E病棟の入院患者のトリアージとしては, Day16の検査結果に基づき, ①陽性者, ②有症状の陰性者および陽性患者と同室していた陰性者, ③同室者が陰性者のみであった陰性者とした。①-③それぞれの患者の在院場所について, 病棟内をレッド, イエロー, グリーンとして区分し, 詰所と廊下はグリーンゾーンとし, 病室内でPPEを外すこととした(事務局注:前述と同様の理由でこのイエローのゾーニングは適切ではなかったと考えられる。また通常のゾーニングでイエローと呼ぶ場合は, PPEを脱ぐ場所のことを指すことに注意する)。また, グリーンゾーンに収容されるとした患者の中で, Day20の時点で無症状であった9名を低感染リスク者とし, E病棟とは別棟の同一施設内の病棟に転床させた。

Day17からE病棟で導入された病室内外でのPPEの着脱(長袖ガウンをイエローゾーンでは患者ごと, レッド・グリーンゾーンでは部屋ごとに交換)は, 職員の肉体的消耗が激しく, 改善の必要があった。Day20に, E病棟は, 感染症指定医療機関の専門家の提案を受けて, 病室・廊下はすべてレッドゾーンとし, 職員のPPE着脱や患者への接触行為など処置の負担の軽減を図った。加えて, 看護・介護処置を介した患者間の感染リスクをさらに低減させるために, 患者の処置ごとに交換するビニール製の腕カバーを長袖ガウンの上に装着する等の対応を図った。

次に, 同院内の3病棟のうちのF病棟に勤務する職員と入院患者全員に対してPCR検査を実施したところ, 職員2名, 患者1名ならびに3名の無症状患者の陽性が確認された。4名の陽性患者をE病棟に転床させ, 陽性者と同室であった陰性者をF病棟内へ分離した。

③感染対策の効果

E病棟職員では, Day19に発症した者が最後の陽性者となった。最終的に, 無症状者を含め, 職員15名, 患者26名に関する職種別の累積陽性率は, 看護職50.0%(8/16), 介護職42.9%(6/14), その他のコメディカルスタッフ20.0%(1/5), 医師0%(0/11)の順であった。また, Day20に別棟に転床させた9名と, Day24以後のF病棟からは, Day35までに, 新たな陽性者は出なかった。また, G病棟の関係者全員のPCR検査での陰性を確認し, Day35までに新たな陽性者は出なかった。

考 察

最初に感染事実が判明した職員によって, E病棟に感染が持ち込まれた可能性があると考えられる。発症の2日前から感染性があるとされることから, COVID-19の市中感染流行期には, 医療・介護従事者の出勤前の体温・健康チェックだけでは, 院内へのCOVID-19の持ち込みを完全に防げない。一方, 外部からの面会者をDay-5まで受け入れていたこと, 入院患者の徘徊行為による外部との接触の可能性が残ることから, 職員以外が感染源である可能性も完全に否定できない。どのようなルートであれ, COVID-19が持ち込まれた場合を想定した院内感染対策の初動体制をマニュアル化しておく必要がある。

次に, ひとたびCOVID-19が介護療養病棟の入院患者に伝播し始めると, 介護療養病棟で通常使われている程度のPPEでは職員への感染を防御することは不可能であると考えられた。一方, 適切なゾーニングとガイドラインに沿ったPPEの装着に切り替えたところ, 新たな感染が起きなくなった。このことは, ガイドラインに沿ったPPEの適切な装着が, 職員の感染リスクを大きく低減させたことを改めて示したと思われる。また, 低感染リスク者と推量した9名を別棟に転床させたことは, 結果的にこの9名への感染伝播を抑止できたという点から, 適切だったと思われる。

COVID-19の市中感染流行期には, 医療従事者は感染ハイリスクグループであるとの認識の下, 職場外でも医療従事者同士の接触は, 可能な限り避ける必要があると考える。

 
 
大阪府藤井寺保健所           
 田中英夫 坂上和弘 川原千夏 高橋 愛 前原懐実
 島本夏奈 田中浩喜

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