国立感染症研究所

2022年1月13日9:00時点

1月14日一部修正

1月20日一部修正

1月25日一部修正

国立感染症研究所

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主な更新事項

  •   「ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見」の「感染・伝播性」について、「国内の知見」を更新(5-6ページ)
  •   「ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避」について、「細胞性免疫について」の項を追加(10-11ページ)
  •   「重症度」について、「動物モデルでの評価」の項を追加(13-14ページ)

概要

WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。

 

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

PANGO

系統名

 

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

US CDC

スパイクタンパク質の主な変異(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

検出報告国・地域数

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

VOC

 

G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H, P681H

106か国

 

オミクロン株について

  •   オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所程度の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein (RBD); residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。各変異等の詳細については第3報を参照されたい。
  • 下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。国内での検出もほとんどがBA.1系統であるが、検疫ではインド、フィリピンに渡航歴がある者からBA.2系統が検出されている。国外では、デンマーク、フィリピン、インド等でBA.2系統が占める割合が増加している。BA.2系統は、BA.1系統よりも変異の箇所が少なく、BA.1系統でスパイクタンパク質に見られる欠失箇所(del69/70, del143/145, del212等)がない。一部の国では、これらのスパイクタンパク質の欠失箇所をPCR検査で検出する(S gene target failure (SGTF)と呼ばれる)ことでオミクロン株の代替指標としている場合もある。国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2もL452R陰性となるため検出可能である。現状では、BA.2の感染例に関する疫学的情報は限定的である。

 

海外での発生状況

オミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)の報告数ならびに報告国数が世界的に増加している。南アフリカ、イングランドやアメリカ合衆国では、デルタ株からオミクロン株への急速な置き換わりを認め、直近の報告ではいずれの国においても新規感染例の95%以上がオミクロン株に由来すると推定される結果であった。また、複数の国・地域で市中感染や集団内の多くの者が感染したクラスター事例も報告されており、さらなる感染の拡大が懸念される。ゲノムサーベイランスの質が十分でない国・地域においては探知されていない感染例が発生している可能性もあるため、現在感染例が探知されている国・地域よりもさらに広い範囲に感染が拡大している可能性がある。

  •   2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)が報告されて以降、2022年1月6日までに日本を含め全世界149か国から感染例が報告された(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States. 7 January 2022)。
  •   2022年1月3日時点でアフリカでは、29か国からオミクロン株感染例が報告された(Outbreak Brief #103: Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic Date of Issue: 04 January 2022)。南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうち、10月はデルタ株が85%(650/768)、オミクロン株0.3%(2/768)であったが、11月はオミクロン株84%(1,141/1,367)、12月はオミクロン株99%(1,057/1,071)であった (NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE. 7 JAN 2022))。
  •   2022年1月7日時点でEU/EEA域内では、30か国からオミクロン株感染例がEuropean Surveillance Systemに報告された。域内の多くの国々においてオミクロン株感染例の報告が増加し、クラスター事例も発生している(ECDC. Weekly epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – week 1 (data as of 7 January 2022))。オミクロン株感染例28,522例とS遺伝子が検出されないSARS-CoV-2感染例(以下SGTF感染例)154例の計28,676例の解析では、年齢中央値31歳で男性が50%であった。そのうち情報を取得できた16,341例において、89%(14,508/16,341)が有症状であった。ワクチン接種歴について情報が得られた956例について、79% (759例)が2回接種、9% (89例)が1回接種、7% (67例)が未接種、4% (34例)が3回接種であった。また情報が得られた感染例の中で、1%(94/14,972)が入院し、0.1%(16/14,930)がICU入室/人工呼吸器管理を要し、0.01%(2/20,256)が死亡した。(ECDC. Country Overview Report: Week 52, 2021, produced on 6 January 2022)。
  •   2021年12月30日時点でイングランドでは、212,019例のオミクロン株感染例と492,543例のSGTF感染例が報告された。また12月29日時点で、75例の死亡例と981例の入院例(オミクロン株感染例ないしSGTF感染例)を認めた。イングランドでは11月末以降SGTF感染例の増加を認め、12月28日ないし29日に採取されS遺伝子の結果が判明した46,066検体のうち、96%(44,064検体)でSGTFを認めた(UKHSA. Omicron daily overview. 31 December 2021)。12月18日時点での53,842例(男性25,577例、女性28,265例)のオミクロン株感染例の解析では、20歳代が33%と最も多く、次いで30歳代が23%、40歳代が15%、10歳代が12%であった。(UK HSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 33)。
  •   アメリカ合衆国では、CDCの1月1日時点の推計では、同国での週別のオミクロン株検出割合の推定値が77%(12月19日~25日)から96%(2021年12月26日~2022年1月1日)に増加した。(CDC. COVID Data Tracker Variant Proportions)。
  •   2022年1月5日時点で西太平洋地域では、13ヵ国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) External Situation Report #86 5 January 2022)。韓国では、2021年12月20日時点で合計188例(確定例178例、確定例と疫学的関連のある10例)が報告された。確定例の年齢分布は、20歳未満が27%、20代~50代が66%で、推定感染地は海外が29%、国内が71%であった。診断時には20%が無症状で、有症状の場合は発熱、咽頭痛、咳が主な初期症状であり、いずれの感染例も軽症であった (3차접종 적극 참여, 누적 1,100 넘어(12.20., 정례브리핑))。
  •   2022年1月2日時点で東南アジア地域では、8か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. COVID-19 Weekly Situation Report Week #52 (27 December 2021 – 2 January 2022) 7 January 2022)。
  •   2021年12月18日時点で東地中海地域では、13か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO EMRO. COVID-19: WHO EMRO Biweekly Situation Report #25 Epi Weeks 49 – 50 (5-18 December 2021))。

 

日本での発生状況

海外でも各地域で急激なオミクロン株への置き換わりが進み、直近の海外からの入国者のSARS-CoV-2陽性例の8割以上がオミクロン株感染例であり、オミクロン株の国内への輸入リスクは非常に高い。国内では大部分の都道府県からオミクロン株感染例が報告され、特にオミクロン株の継続的な曝露を受けた地域では、市中感染の拡大による感染者数の急増とオミクロン株への急速な置き換わりを認めた。また、そのような地域からの波及を受けた地域でも急激な市中感染の拡大による感染者数の急増を認めている。

  •   2022年1月11日までに日本において、計3,041例のオミクロン株感染例が報告された(2022年1月11日21時時点)。内訳*は水際関連検疫事例が1237例(以下検疫例)、水際関連都道府県発表事例が146例、それ以外の事例が1,658例であった。直近に海外渡航歴のないそれ以外の事例の報告数が水際関連空港検疫例を大きく上回った。検疫例について、入国前14日以内に滞在した国の数は計74か国であった。(厚生労働省報道発表資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html)。

*厚生労働省報道発表資料に基づく

(注1)「空港検疫」には、検疫検査時に陽性だった方に加えて、宿泊施設での待機が必要な国・地域から入国後、待機中に陽性が判明し、オミクロン株と確定した場合も含む。

(注2)「都道府県発表」には、検疫所関係者でオミクロン株と確定した場合を含む。

(注3)「左記以外」は、オミクロン株と確定した者のうち、直近の海外渡航歴がなく、現時点で感染経路が明らかになっていない者等。

  •   国内のCOVID-19発生動向については、新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握を参照されたい。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •   感染・伝播性

世界各地で、これまでの他の変異株の流行時に比しオミクロン株流行時では、より高い実効再生産数、感染者数の増加率(growth rate)、倍加時間(doubling time)の短縮が報告されてきた。海外では集団発生事例での高い感染の割合(attack rate)や、デルタ株よりも高い家庭内二次感染率(household secondary attack rate)が報告され、伝播性の増加を示唆する所見がある。また、海外の集団発生事例では潜伏期間がデルタ株に比較して短縮している所見も報告されている。高い実効再生産数等は、感染・伝播性の増大と世代時間の短縮の両方の影響が考えられる。ただし、海外でのこれらの所見は、観察集団の免疫状況や感染予防行動等の違い、オミクロン株同定のための検査戦略などの影響等を考慮して慎重に解釈する必要がある。

国内においては、3都県で直近1週間の倍加時間の短縮が観察された。また、潜伏期間の短縮も観察されている。一方、実地疫学調査から得られた暫定的な結果からは、従来株やデルタ株によるこれまでの事例と比較し、感染・伝播性はやや高い可能性はあるが、現段階でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず、従来通り感染経路は主に飛沫感染と、接触感染と考えられた。また、多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば、換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起こっていた。基本的な感染対策(マスク着用、手指衛生、換気の徹底等)は有効であることが観察されており、感染対策が守られている場では大規模な感染者発生はみていない。

国内の積極的疫学調査による初期の症例のウイルスの排出期間についての調査では、呼吸器検体中のウイルスRNA量は診断日および発症日から3~6日で最も高くなる傾向があった。診断または発症10日以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めず、少なくともワクチン接種者においては、従来株と同様に診断または発症10日を超えて感染性ウイルスを排出する可能性は低いと考えられる。また、追加で行ったワクチン未接種者における呼吸器検体中のウイルスRNA量の検討では、ワクチン未接種者でのウイルス排出期間がワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことから、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難であるが、ワクチン未接種者においてもワクチン接種者と同様に、無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられた。

 

(国内の知見)

  •   HER-SYSに登録されたオミクロン株の感染例をもとに算出した直近2週間と1週間の倍加時間は、東京都で2.7日から1.9日、大阪府で2.6日から1.7日、沖縄県で1.9日から1.3日といずれも短縮していた。
  •   国立感染症研究所と国立国際医療研究センターは、国内の積極的疫学調査により、オミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量の推移と感染性ウイルスの検出期間を検討した。オミクロン株症例において、ウイルスRNA量は診断日および発症日から3~6日で最も高くなり、その後日数が経過するにつれて、低下傾向であった。診断または発症10日以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めなかった。これらの知見から、2回のワクチン接種から14日以上経過している者で無症状者および軽症者においては、発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された国立感染症研究所. SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査:新型コロナワクチン未接種者におけるウイルス排出期間(第2報))。
  •   追加で行ったワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス排出期間の検討では、ワクチン未接種者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は日数が経過するにつれて減少傾向であった。さらに、有症状者と無症状者において、ワクチン未接種者とワクチン接種者の呼吸器検体中のウイルスRNA量を比較したところ、発症もしくは診断から0〜9日、および発症もしくは診断10日以降において、両者のウイルスRNA量に違いは認めなかった。現時点で検討した症例数は限られているがワクチン未接種者でのウイルス排出期間がワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことから、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難であるが、ワクチン未接種者においてもワクチン接種者と同様に、無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられた。本報告の制限として、調査対象者は、無症状者及び軽症者が大部分を占め、特にワクチン未接種者においては若年者が調査対象であったこと、ウイルス分離は未実施であり感染性ウイルスの有無が不明であることなどが挙げられる(国立感染症研究所. SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査:新型コロナワクチン未接種者におけるウイルス排出期間(第2報))。
  •   国内の実地疫学調査から得られた情報に基づき、オミクロン株感染例(n=35)の潜伏期間について解析を行った結果、潜伏期間中央値の範囲は2-3日であった(国立感染症研究所. 実地疫学調査により得られた情報に基づいた国内のオミクロン株感染症例に関する暫定的な潜伏期間、家庭内二次感染率、感染経路に関する疫学情)。国内でも海外からの報告と同様に、オミクロン株感染例では、従来株やデルタ株感染例と比較し潜伏期間が短縮している可能性が示唆された。オミクロン株の家庭内二次感染率は31%-45%と、従来株、デルタ株と比較して高い可能性が示された。また、感染経路として、現段階でエアロゾル感染が疑われる頻度が明らかに増えているわけではなく、従来より認識されていたエアロゾル感染が起こりやすい状況(換気が悪い屋内で、密集した状態で、感染例と長時間空間を共有した場合など)以外では、エアロゾルによる感染が疑われる事例は確認されていない。ただし、上記の結果は、解析に含まれる事例数が十分でないこと、各事例におけるワクチン接種状況、感染対策状況を含む曝露状況を考慮した結果でないことなど、暫定的な結果であり、解釈には注意が必要である。
  •   国内の実地疫学調査データを用いた解析では、オミクロン株症例の潜伏期間の中央値は2.9日(95%CI 2.6-3.2)であった。99%が曝露から6.7日以内に発症していた。ただし、実地疫学調査においては曝露をうけた可能性のある者すべてが含まれていない可能性があるため、潜伏期間を過小評価している可能性がある。HER-SYSデータを用いた解析では、観察10日目までにアルファ株症例の97.4%が発症するのに対して、オミクロン株症例では99.2%が発症すると推定された。この数値はアルファ株症例の14日における発症ハザードと同等であった。またオミクロン株症例では観察7日目までに94.5%が発症すると推定された。ただし、HER-SYSデータにおける解析では、感染拡大の状況にあるオミクロン株症例を検討しているために、観察期間を十分にとれた症例が含まれることにより潜伏期間が変わる可能性がある(国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告)。

 

(海外の知見)

  •   南アフリカにおいてオミクロン株の流行が始まった2021年11月から12月4日までの報告例を基に算出された実効再生産数は2.55 (95%CI 2.26-2.86)であった(NICD. The Daily Effective Reproduction Number in South Africa.)。
  •   英国においてはSGTFを認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)をモニタリングするサーベイランスが稼働しており、2021年11月20週から12月18日のデータを用いて増加率(growth rate)が0.36/日と算出された(UKHSA. Technical Briefing 33)。またオミクロン株確定例に対する増加率が検討されており、0.45/日 (95%CI 0.44-0.46)と算出された(Imperial College London. Report 49)。
  •   英国において2021年11月15日から12月14日の間に検体を採取されたオミクロン株感染例27,803例とデルタ株感染例256,854例を対象としたコホート研究では、オミクロン株感染例からの家庭内二次感染率はデルタ株感染例と比較して、調整なしオッズ比で1.4倍(95%CI 1.3–1.5)、年代、性別、ワクチン接種歴等で調整したオッズ比で1.4倍(95%CI 1.4-1.5)であった。また家庭外の二次感染をみると調整したオッズ比で2.6倍(95%CI 2.4-2.8)と推定された(UKHSA Technical Briefing 33)。
  •   英国において定期的に検体を採取している横断研究の2021年11月23日から12月14日(12月15-17日採取の検体も一部含む)のアップデートによれば、デルタ株からオミクロン株への置換が10%から90%になるまでの日数は、アルファ株からデルタ株への置換と比較して約3.5倍速いと推定された(REACT-1 Round 16)。
  •   デンマークで2021年12月上旬に登録されたSARS-CoV-2感染例における家庭内での二次感染の発生を追跡したところ、二次感染率がオミクロン株では31%、デルタ株では21%であった。デルタ株感染例のいる世帯に比べてオミクロン株感染例がいる世帯では、2回接種した家族が二次感染するオッズ比(調整後)は2.6倍(95%CI 2.3-2.9)であり、追加接種した家族でのオッズ比(調整後)は3.7倍(95%CI 2.7-5.1)であった(Lyngse, et al.)。
  •   米国でのアフリカからの帰国者の家族におけるオミクロン株の二次感染の観察研究では、5名の家族のうち4名はSARS-CoV-2感染歴 (うち1例はワクチン2回接種) があったが全員が陽性となり、平均潜伏期間は3.0日(範囲 1.4-3.1)であった(CDC. Morbidity and Mortality Weekly Report)。
  •   韓国から報告された湖南保育施設関連のオミクロン株感染例25例の解析では、平均潜伏期間は3.6日(範囲2~8日)、平均発症間隔は3.1日(範囲1~7日)であり、デルタ株の平均潜伏期間3~5日、平均発症間隔2.9~6.3日より短かった。オミクロン株感染例での家族内二次感染率は44.7%で、デルタ株の約20%と比較して高かった。(3차접종 적극 참여, 누적 1,100 넘어(12.20., 정례브리핑))
  •   フェロー諸島での33人が集まったイベントで、21人(63%)がSARS-CoV-2感染が確認され、13例でオミクロン株と確定された。感染例はすべて2回のワクチン接種済みのうえ、過去1ヶ月半に3回目の追加接種をうけていた。イベントを曝露日とした際の潜伏期間は、平均3.2日(95%CI 2.8-3.6)であった(Helmsda,l et al.)。
  •   その他にデンマークで150人の参加者が集まるイベントで、71人(47%)がオミクロン株に感染した事例(Espenhain , et al.)や、ノルウェーでオスロー市内のレストランで開催されたクリスマスパーティーに参加した111人中80人(73%)でSARS-CoV-2感染が確認され、ほとんどがオミクロン株による感染と推定された事例が報告された。参加者の大多数は2回のワクチン接種歴を有しており、この集団での潜伏期間は中央値3日であった(Brandal, et al.)

 

  •   ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避

オミクロン株は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示唆されている。ワクチンで誘導される抗体の in vitro(試験管内)での評価や疫学的評価から、ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してオミクロン株への感染では著しく低下していることが示されている。3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株感染による発症予防効果が一時的に高まるが、この効果は数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。入院予防効果もデルタ株と比較してオミクロン株において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果においても3回目接種(ブースター接種)により入院予防効果が高まるという報告があるが、中長期的にこの効果が持続するかは不明である。また、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。一般的にウイルス感染は、感染回復者は免疫が成立し感染しづらくなると理解されている。しかしながら、非オミクロン株に感染歴のある者の再感染は、非オミクロン株と比較してオミクロン株への免疫が成立せず感染がより起こりやすい(再感染しやすい)との報告がある。

これまでに細胞性免疫に関する評価が複数の国の研究機関等で行われており、少なくとも6報のプレプリントが報告されている。抗体と比較すると、オミクロン株に対する細胞性免疫の減弱は限定的であり、感染回復者やワクチン接種者(mRNAワクチン・アデノウイルスベクターワクチンなど)では、武漢株に対して反応するT細胞のうち、少なくとも70%以上がオミクロン株に対しても応答するとされている(Tarke, et al., Keeton, et al. その他4報)。したがって、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はオミクロン株に対しても交差反応性を維持している可能性がある。ただし、細胞性免疫の反応性は個人差が大きいこと、in vitroでの評価法の種類によって交差性に差異が認められる可能性があることから、解釈に注意が必要である。

また、国立感染症研究所から、新型コロナワクチン2回接種からアルファ株またはデルタ株によるブレイクスルー感染までの期間の長さにより血清抗体のオミクロン株に対する交差中和能が変化し、ワクチン接種から感染までの期間の長い方が、交差中和能の高い抗体が誘導されると報告されている(Miyamoto et al., Sidik et al.)。本報告は、ブレイクスルー感染による液性免疫のブーストがオミクロン株に対しても有効であることを明らかにしただけでなく、地域毎に異なる感染流行拡大やワクチン接種導入、ブレイクスルー感染増加のタイミングにより、新型コロナウイルスに対する集団免疫が多様化していく可能性を示唆しており、感染流行予測における地域毎の血清疫学調査の重要性を強調するものである。

重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。

 

(海外のワクチン疫学研究)

  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は症例対照研究(test-negative design)を用いて、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種の未接種と比較した有効性の評価を行った(UKHSA. Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529). 31 December 2021)。2021年11月27日から12月24日に実施された検査において、主にSGTFを用いて、デルタ株感染例169,888例、オミクロン株感染例204,036例に分類し、検査陰性者と比較して、それぞれのワクチンの有効率を算出した。2回接種からの全ての期間でオミクロン株に対する有効率はデルタ株に対する有効率よりも低かった。アストラゼネカ社製ワクチンを2回接種した者においては2回接種から20週後には効果が消失していた。ファイザー社製またはモデルナ社製のワクチンを接種した者では2回接種2-4週後は有効率が65-70%であったが、20週後には10%程度まで低下していた。ブースター接種2-4週後は有効率が65-75%と高まるものの、ブースター接種5-9週後は55-70%、ブースター接種10週後以降は40-50%まで低下した。
  •   UKHSAからは、上記データと救急外来・入院データを突合して、オミクロン株感染による入院に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種の未接種と比較した有効性の暫定的な評価も報告されている(UKHSA. Technical Briefing Update on hospitalisation and vaccine effectiveness. 31 December 2021)。2回接種2-24週後は有効率が72%(95%CI 55-83)であったが、25週後以降では52%(95%CI 21-71)であった。3回目(ブースター)接種2週後以降では有効率が88%(95%CI 78-93)であった。本研究では、年齢・性別・過去の感染歴・地域・人種・重症化リスク因子・時期で調整しているが、入院者数が少ないためワクチンの種類ごとには解析していない。
  •   南アフリカの民間保険会社Discovery Healthも類似のデザインを用いて、オミクロン株流行期(2021年11月15日から12月7日)およびデルタ株流行期(2021年9月1日から10月30日)における入院に対する、新型コロナワクチン2回接種の未接種と比較した有効性の暫定的な評価を報告している(Collie, et al.)。オミクロン流行期における2回接種14日後以降の有効率は70%(95%CI 62-76)であり、デルタ株流行期の有効率93%(95%CI 90-94)と比較して低いが一定程度保たれていた。本研究では、年齢・性別・過去の感染歴・カレンダー週・地域・重症化リスク因子で調整しているが、2回接種からの具体的な期間については記載がなかった。

 

(新型コロナワクチン接種後のオミクロン株に対する中和能の検討)

  •   オミクロン株においては、複数の国の研究機関等からの報告において、抗原性の変化による感染回復者やワクチン接種者の血清による中和能の低下が示されている(Lu, et al., Dejnirattisai , et al., Cele, et al., Carreno, et al.その他報告多数)。これらの結果は実験系の違いや使用された血清の採取時期(感染やワクチン接種から採血までの期間)の違い等により数値にはばらつきがあるものの、アルファ株以前に主流であったD614G変異を持つ株やデルタ株、オミクロン株以前の分離株でワクチン株から最も抗原性が離れていると考えられるベータ株と比較して、オミクロン株に対するファイザー社製のワクチン2回接種で誘導される中和抗体価は一貫して低い。また、3回(ブースター)接種後においての報告もあり、2回接種と比較するとオミクロン株に対する中和抗体価が高いことが報告されているが、従来株に対する中和抗体価と比較すると低い。ただし、これらの結果は中和抗体のin vitroでの評価であり、解釈に注意が必要である。

 

(抗体医薬品の効果への影響)

  •   オミクロン株においては、抗原性の変化により、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されており、オミクロン株の分離ウイルスやシュードタイプウイルスを用いたモノクローナル抗体による中和試験の暫定結果が報告されている(Cameroni, et al, Cathcart, et al., Cao, et al. その他報告複数)。ソトロビマブ(ゼビュディ)やDXP-604(BeiGene・Singlomicsが開発)は、オミクロン株で認めるスパイクタンパク質の変異を持つシュードタイプウイルスに対して中和活性を維持しているという報告がある。一方で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して濃度依存的な効果が認められず、中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。これらの結果はin vitroでの評価であり、解釈に注意が必要である。

 

(再感染リスクについて)

  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は非オミクロン株と比較したオミクロン株における再感染のリスク比についての暫定的な報告を行った(UKHSA Technical Briefing 31)。2021年11月20日から12月5日にウイルスゲノム解析がなされ、オミクロン株感染とされた361例と非オミクロン株感染とされた85,460例のうち、年齢群・地域・(症状の有無、スクリーニング等の)検査区分で調整した再感染のリスク比は5.2(95%CI 3.4-7.6)であった。ただし、この報告は暫定的であり、SGTFを認める症例が優先的にウイルスゲノム解析をなされていることなどから解釈に注意が必要である。
  •   オミクロン株確定例における再感染率はデルタ株感染例と比較して高く、調整された再感染のリスク比が5.41(95%CI 4.87-6.00)であった。ワクチン接種なしでは6.36 (95%CI5.23-7.74)となった (Imperial College London. Report 49)。
  •   南アフリカにおいてSARS-CoV-2陽性例および検査のサーベイランスデータを用いた研究では、2種類の手法を用いて、非オミクロン株とオミクロン株への再感染のしやすさについて検討された(Pulliam, et al.まず、初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比が第1波と同じであると仮定して、その後の再感染者数を予測したところ、第2波(ベータ株主流)、第3波(デルタ波主流)で観察された再感染者数は予測範囲内であったが、11月に観察された再感染者数は予測範囲を上回っていた。次に、全期間について初回感染の発生率に対する再感染の発第3波(デルタ株主流)は0.09であったが、11月以降は0.25と上昇していた。比は一貫して1を下回っており、初回感染よりも再感染の発生率は低いが、ベータ株やデルタ株の流行時に比較して、再感染の発生率は高まっている可能性があった。なお、この検討では、個々のSARS-CoV-2陽性例のワクチン接種歴が得られていないためワクチン接種による感染予防効果は検討されていない。また、SARS-CoV-2陽性例のウイルスゲノム解析結果は不明であり、検査対象は時系列的に変化し、受療行動が変化している可能性があることにも留意する必要がある。

 

(細胞性免疫について)

  •   ワクチン接種者(Ad26.CoV2.S or BNT162b) もしくはCOVID-19感染例を対象として、ワクチン接種22-32日後、感染後1.3-6ヶ月後にT細胞反応性が解析された。オミクロン株に対して、CD4陽性T細胞は14-30%、CD8陽性T細胞は17-25%の応答性が低下した。また約15%の症例では、CD8陽性T細胞応答が検出限界以下であった。既感染例へのワクチン接種により、T細胞の頻度は高くなる傾向にあるが、オミクロンに対する交差性に大きな影響は認められなかった。(Keeton, et al.
  •   ワクチン接種者 (mRNA-1273, BNT162b2, Ad26.COV2.S, NVX-CoV2373)を対象として、1回接種2週間後、2回接種2週間後、3.5ヶ月後、5-6ヶ月後に解析が行われた。ワクチンの違い(mRNA-1273, BNT162b2, Ad26.COV2.Sのみ検討)により交差性に影響は確認されなかった。オミクロン株へのCD4陽性T細胞応答とCD8陽性T細胞応答は、それぞれ83%と85%が維持されていた。バイオインフォマティクスによるエピトープの解析では、全てのCD4陽性T細胞エピトープの72%、CD8陽性T細胞エピトープの86%がオミクロン株でも保持されていた。ただし、変異の影響には個体差が認められ、2-3.5%の検体ではオミクロン株の変異によりCD4陽性T細胞応答が1/3以下まで低下した。CD8陽性T細胞はさらに変異の影響を受ける場合が多く、約19%の検体で反応が1/3以下に低下した(Tarke, et al.)。
  •   交互接種を含む多様なワクチン接種者(既感染者含む)を対象とした検討では、オミクロン株に対するT細胞応答は全体的に約83%維持されていた(Marco, et al.)。
  •   ワクチン接種者 (BNT162b2, Ad26.COV2.S)を対象として、2回目接種1ヶ月後と8ヶ月後に解析したところ、オミクロン株に対してCD8陽性T細胞応答の82-84%が維持されていた(Liu, et al.)。
  •   ワクチン接種者 (ChAdOx-1 S, Ad26.COV2.S, mRNA-1273, BNT162b2)を対象として、最終接種28日後と6ヶ月後にCD4陽性T細胞の応答が解析された。mRNA-1273が最も強いT細胞応答を誘導し、オミクロン株に対する応答性が維持されていた(Geurtsvan, et al.)。
  •   ワクチン接種者 (BNT162b:半年後)もしくは既感染者(9ヶ月後)を対象としてオミクロン株に対する反応を解析した。ワクチン接種者では、CD4陽性T細胞は中央値で9%減少した。CD8陽性T細胞は中央値で8%減少した。既感染者では、CD4陽性T細胞は中央値で16%減少、CD8陽性T細胞は中央値で30%減少した(Gao, et al.)。

 

  •   重症度

国内で経過観察されているオミクロン株感染例(確定例ならびにL452R陰性例を含む)の初期の事例191例については、95%(181/191)が無症状ないし軽症で経過していた。海外の報告では、英国や南アフリカに加えて米国やカナダからデルタ株と比較した入院や重症化のしやすさの違いについての暫定データが報告され、デルタ株に比して入院や重症化リスクの低下が示唆されている。ただし、これらの報告では、オミクロン株感染例が若年層で多い、自然感染やワクチン接種による免疫の影響が考慮されていない等の様々な制限があること、重症化や死亡の転帰を確認するには時間がかかることを踏まえると更なる知見の集積が必要である。

現状の研究や報告の所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくい可能性が示唆される。ただし、重症化リスクがある程度低下していたとしても、感染例が大幅に増加することで重症化リスクの低下分が相殺される可能性を考慮する必要がある。

オミクロン株病原性についての実験科学的な知見については、マウスおよびハムスターを用いた動物モデルでの評価について、いくつかのプレプリント論文が報告されてきた(Diamond, et al., Bentley, et al., Abdelnabi, et al., Sato, et al., McMahan, et al.)。また、in vitroおよびex vivoでの評価に関するプレプリント論文も報告されてきた(Meng, et al., Chi-wai, et al.)。いずれも、オミクロン株では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。

 

(国内症例について)

  •   厚生労働省は、日本で確認されたオミクロン株感染例(確定例ならびにL452R陰性例を含む)について、初期の事例については、感染症法第15条第2項に基づく積極的疫学調査を行っている。1月12日時点で情報が得られた191例のオミクロン株感染例の解析では、男性が62%(119/191)、入院からの観察期間中央値は 11日(最小値1日、最大値25日)で、観察期間中に継続して無症状が68例、軽症が113例、中等症Ⅰが6例、中等症Ⅱが3例、重症が1例であった。ワクチン接種歴に関しては、接種なしが35例、1回接種が4例、2回接種が145例、3回接種が7例であった。

 

(海外からの報告について)

  •   UKHSAは 救急外来および入院データ、SGTFデータ(デルタ株とオミクロン株の分類に使用)、ワクチン接種歴のデータを突合して、デルタ株とオミクロン株の救急外来受診や入院率の違いを検討している(UKHSA Technical Briefing )。2021年11月22日から12月29日のまでのデータを用いて解析したところ、救急外来受診・入院率はデルタ株と比較してオミクロン株感染で0.53倍(95%CI 0.50-0.57)であり、入院率のみでは0.33倍(95%CI 0.30-0.37)であった。本解析では検体採取週と居住地で層別化し年齢・検体採取日・性別・人種・剥奪指標(所得や生活水準などの社会的な指標)・海外渡航歴・ワクチン接種歴<および過去の感染で調整している。
  •   米国の1つの医療グループが2021年11月27日から12月20日までに受診したSARS-CoV-2感染例の重症化について検討したところ、オミクロン株での入院率はアルファ株と比較して0.14倍(95%CI 0.12-0.17)、デルタ株と比較すると0.23倍(95%CI 0.20-0.27)であった。ただし患者背景の調整はされておらず、オミクロン株の流行初期のデータであることに留意する必要がある(Christensen, et al.)。
  •   南アフリカの私立医療グループを受診したSARS-CoV-2感染例データを変異株が流行していた時期をそれぞれ定義して2021年12月7日までの期間でグループ分けして検討したところ、オミクロン株流行期では41.3%が入院したのに対し、それ以前は67.8‒69.3%と有意に高かった。またICU入室率もオミクロン株流行期では18.5%であるのに対し、それ以前は29.9‒41.0%と有意に高かった。しかし時期で区切られていること、ワクチン接種に関するデータはデルタ株流行期では不明であることに留意する必要がある(Maslo, et al.
  •   カナダのオンタリオ州のSARS-CoV-2感染例データを2021年11月22日から12月25日まで抽出し、全ゲノム解析ないしSGTF(50%を超えた12月13日以降は全例)によって探知されたオミクロン株とデルタ株を性、年齢群、ワクチン接種歴、タイミング、地区と発症日による調整後に比較したところ、入院ないし死亡リスクは65%減少(95%CI 54-74)しており、ICU入室ないし死亡リスクは83%減少(95%CI 63-92)した(Ulloa, et al.)。
  •   英国インペリアルカレッジは類似のデータセットを用いて、ワクチン接種歴や非オミクロン株への既感染の影響を考慮したより詳細な解析を行って、デルタ株とオミクロン株の入院率の違いを検討した(Imperial College London. Report 50)。 2021年12月1日から14日までの検査データを12月21日に抽出して解析が行われ、ワクチン接種歴・年代・性別・人種・地域・検体採取日で層別化したデータを用いて解析された。結果、デルタ株と比較してオミクロン株の感染例では入院率(救急外来受診も含まれる可能性がある)が15-20%低下しており、1泊以上入院した者に限定すると50-60%の低下であった。ただし、過去の感染例の全員がとらえられていないために、実際には3倍の既感染例がいると仮定すると、この既感染の影響を除いた入院率の低下は0-30%程度と推定された。さらに、ワクチン接種歴で層別化した結果も提示されており、未接種のオミクロン株感染例では、未接種のデルタ株感染例の入院率の0.59倍(95%CI 0.5-0.69)であったが、同様に過去の感染者数が過小評価されている可能性を考慮して既感染の影響を除くと、この値は0.76倍となりデルタ株感染例との差が小さくなった。また、mRNAワクチンを2回以上接種している者だけで評価すると、デルタ株感染例とオミクロン株感染例の入院率は同程度であった。本解析では、基礎疾患については調整しておらず、入院関連のイベントは数が少なく、また、報告遅れがあり得るため、解釈に注意が必要である。
  •   南アフリカのNICDからの報告として、検査データ、COVID-19症例データ、ウイルスゲノム解析データ、入院サーベイランスデータを突合して、デルタ株とオミクロン株の入院オッズの違いを検討した(Wolter, et al.)。2021年10月1日から11月30日の期間で、年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無で調整した入院オッズは、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.2 (95%CI 0.1-0.3)であった。さらに、2021年10月1日から11月30日の期間に入院した者で、かつ12月21日までに入院後の転帰が判明している者において、年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無・ワクチン接種歴・初回検体陽性〜入院までの期間で調整した重症化(ICU入室・酸素需要あり・人工呼吸器使用・ECMO使用・ARDS・死亡)のオッズは、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.7 (95%CI 0.3-1.4)であった。さらに、2021年4-11月のデルタ株感染例と10月1日から11月30日のオミクロン株感染と推定される症例でかつ12月21日までに入院後の転帰が判明している者において、入院症例における年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無・ワクチン接種歴・初回検体陽性〜入院までの期間で調整した重症化のオッズを比較したところ、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.3 (95%CI 0.2-0.5)であった。ただし、最後の解析では、既感染例の増加については検討されておらず、重症化オッズの低下は、既感染例の増加が一定程度寄与している可能性がある。また、既感染の有無やワクチン接種歴については、データが不完全な可能性がある。
  •   スコットランドのエディンバラ大学からの報告として、プライマリケアデータ、ワクチン接種歴データ、検査データ、ウイルスゲノム解析データ、入院データ、死亡データが突合された人口の99%(540万人)をカバーするEarly Pandemic Evaluation and Enhanced Surveillance of COVID-19(EAVE Ⅱ)プラットフォームを用いて、2021年11月1日から12月19日に検査陽性となった者におけるコホート解析が行われた(Sheikh, et al.)。SGTFデータを用いてデルタ株とオミクロン株を区別し、年代・性別・剥奪指標(所得や生活水準などの社会的な指標)・既感染・基礎疾患のスコアリング・ワクチン接種歴・カレンダー週をモデルに組み込んで解析したところ、オミクロン株感染例において観察された入院数をデルタ株のデータをもとに期待される入院数で割ったobserved/expected比(O/E比)は0.32(95%CI 0.19-0.52)であった。

 

(動物モデルでの評価)

  •   構造モデルや結合能解析ではオミクロン株のスパイクタンパクとマウスACE2(ウイルスレセプター)のより強い結合能が示唆されていたにもかかわらず、近交系マウスを用いた病原性解析では,以前の変異株と比較してオミクロン株感染後の体重減少は軽微であった。また、上・下気道におけるウイルス感染価もオミクロン株感染個体の方が低値であった。一方でヒトACE発現トランスジェニックマウス(K18-hACE2トランスジェニックマウス)においてもウイルス感染はみとめられるものの体重減少は比較的軽微であった。更に,野生型ゴールデンハムスターとヒトACE2発現ハムスターでの病原性解析においても体重変化や呼吸機能などの臨床症状,肺におけるウイルス感染、マイクロCTや組織標本による肺炎重症度などの評価においていずれもオミクロン株の方がデルタ株などの従来の変異株より軽度であった。いくつかの異なるオミクロン株を用いて複数のラボで病原性評価を行った結果、齧歯類におけるオミクロン株の病原性低下が示された(Diamond, et al.)。
  •   K18-hACE2トランスジェニックマウスを用いた病原性解析の結果によると、オミクロン株ではパンデミック初期にイギリスで分離されたB系統やデルタ株と比較してウイルス感染後の体重減少が軽度であり,上下気道のウイルス力価も低値であった。また,肺組織では限局した肺炎像が観察され,比較的軽微であった(Bentley, et al.)。
  •   ゴールデンハムスターを用いた病原性解析では,オミクロン株感染4日目の肺におけるウイルスRNA量はB.1系統(D614G)と比較して約1/1,000と低値であり、また,オミクロン株感染後の肺からは感染性ウイルスは検出されなかった。組織病理学的に,オミクロン株感染後の肺において、気管支周囲の炎症や気管支肺炎の所見は認められなかった。(Abdelnabi, et al.)
  •   ハムスターモデルでは,オミクロン株感染後の体重減少や呼吸機能の低下は,B.1.1系統やデルタ株と比較して軽度であった。組織病理学的には,B.1.1系統やデルタ株感染後では気管支上皮や肺胞上皮に多数のウイルス抗原陽性細胞が認められた一方で,オミクロン株ではウイルス抗原陽性細胞は少数であった。(Sato, et al.)
  •   ゴールデンハムスターを用いた病原性解析では、パンデミック初期に米国で初めて分離された従来株(WA1/2020株),アルファ株,ベータ株、デルタ株感染後に体重減少が見られた一方で,オミクロン株感染後に有意な体重減少は認められなかった.オミクロン株感染動物において上・下気道でのウイルス複製と肺炎所見は観察されたが、WA1/2020株と比較して鼻甲介でのコピー数が高く,肺でのコピー数が低い傾向を示した。よって,以前のSARS-CoV-2と比較すると上気道感染が優位であり,下気道感染による重症化の可能性は低いと推察された。(McMahan, et al.)
  •   細胞内へのウイルスの侵入効率について、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現するシュードウイルスを用いてin vitroでの解析を実施した。その結果、オミクロン株型のシュードウイルスはB.1.1系統型やデルタ株型と比較して、初代3次元下気道オルガノイドおよびCalu-3細胞 (肺腺癌細胞株) への侵入効率が低下していることが確認された。このオミクロン株シュードウイルスの細胞侵入効率は、TMPRSS2(SARS-CoV-2の細胞侵入に関与するとされる酵素)発現性と逆相関していた。TMPRSS2を発現している肺細胞では、オミクロン株はデルタ株と比較して明らかに低い複製効率を示した。スパイク糖タンパク質を介した細胞間融合はS1/S2切断が必要であるが,TMPRSS2の存在にも依存する。オミクロンのスパイクの融合性はTMPRSS2発現下でも損なわれ、Deltaスパイクと比較してシンシチウム形成能は顕著に減少している。これらのin vitroデータは、TMPRSS2を発現する下気道での感染性を減少させるが、上気道に存在するTMPRSS2非発現細胞の感染には影響しないことを示唆している(Meng, et al.)。
  •   ヒト肺組織を用いたex vivoでの解析では、オミクロン株のウイルス複製効率は気管支において従来株やデルタ株の約70倍を示した一方で、肺においては従来株の約1/10であった。これらのことはヒトにおける重症度が低いことが示唆している可能性がある (Chi-wai, et al.)。

 

  •    検査診断
    •   国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
    •   オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
    •   WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
    •   国内における変異株PCR検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
    •   WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。
    •   2021年12月1日以降、GISAIDに日本から登録されているSARS-CoV-2は962検体あり、L452R陽性282検体は全てデルタ株、L452R陰性検体680検体のうち679検体はオミクロン株、1検体はPango分類不能であった。L452R陰性となる他の変異株の存在割合について継続的にモニタリングが必要であるが、現時点ではL452R陰性と判断された場合はほぼオミクロン株と見做しうる状況にあると考えられる。

 

当面の推奨される対策

  •   デルタ株に比べて重症化リスクが低下していることを考慮しつつ、感染者数の大幅な増加に伴う重症化リスクの高い集団での感染拡大の可能性を考慮し、感染者数の抑制策や中等症・重症者の増加に備えた医療提供体制の構築が望まれる。
  •   ワクチン2回接種率を高いレベルで達成している地域においてもオミクロン株による急激な市中感染拡大を認めていること、3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株に対する発症ならびに入院予防効果の回復が期待されることから、地域の状況に応じて早期の3回目接種(ブースター接種)を検討することが望ましい。また、重症化予防のためワクチン未接種者については、引き続き接種機会を確保していくことが重要である。
  •   カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)のオミクロン株への有効性が低下することが報告されており、オミクロン株感染例であることが明らかな場合や、その蓋然性が高い場合はロナプリーブを投与することは推奨されない。
  •   潜伏期間がデルタ株よりも短縮しており、感染のサイクル(世代時間)が早まっている可能性があり、倍加時間も短縮している。オミクロン株が流行している地域では、感染者数の急増が懸念される。オミクロン株への急速な置き換わりの進行や感染例の急増に伴い、検査、疫学調査、濃厚接触者ならびに感染例への対応、医療提供体制等については地域の流行状況に合わせた柔軟な対応が必要である。
    •   オミクロン株へ置き換わった状況では、変異株の発生動向の監視を目的とした対応が望ましい。ゲノム解析や変異株PCR検査については全数実施するのではなく、偏りのないサンプリングによる一定割合の検体に対する実施や、重症例や潜在的なインパクトが高い事例の基点となるような感染例に対して優先的に行うことを考慮する。
    •   疫学調査については、潜伏期間が短縮していることも考慮し、地域の状況に応じて、感染拡大や重症化リスクの高いクラスター等への重点化を検討する。
    •   地域の流行状況に応じて、濃厚接触者の自宅待機への切り替えや待機期間の短縮を検討する。
  •   医療・福祉・公衆衛生のほか、各種社会的基盤となる事業において、感染拡大に伴う欠勤者の増加も見込んだ事業継続体制を準備する。
  •   ワクチン接種歴のない者や基礎疾患のある者における評価が十分でないことから、引き続きオミクロン株の疫学的特徴及び重症化リスクについて分析・評価していく必要がある。

 

基本的な感染対策の推奨

  •   個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される。

 

参考文献

 

注意事項

  •        迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

 

更新履歴 

 第6報 2022/1/13 9:00時点(20221/14,1/20,1/25 一部修正)

 第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)

 第4報 2021/12/15 19時時点

 第3報 2021/12/8

 第2報 2021/11/28

 第1報 2021/11/26

 

 

 

 

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