国立感染症研究所
2023年2月10日9:00時点
変異株の概況
- 現在流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第24報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が支配的な状況が世界的に継続している。2022年12月30日~2023年1月30日に、世界各地でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスの99.9%をオミクロンが占め、その他の系統はほとんど検出されていない(WHO, 2023a)。オミクロンの中では多くの亜系統が派生しているが、2023年第2週(1月9日~15日)では、BA.5系統が65.7%、BA.2系統が14.6%、 BA.4系統が0.3% (いずれも亜系統を含む)と、引き続き世界的にBA.5系統が流行の主流となっている(WHO, 2023a)。検出された亜系統のうち上位3位は、BQ.1.1系統(28.2%)、BQ.1系統(14.1%)、XBB.1.5系統(11.5%)であった(WHO, 2023a)。日本国内でも2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、BA.5系統が主流となったが、10月以降はBQ.1系統及びBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向にある。また、国内外でオミクロンの亜系統間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン」と総称し、2023年1月13日以降は、そのうち、BF.7系統、BQ.1系統、BA.2.75系統、XBB系統を「監視下のオミクロンの亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」としている。
- BQ.1系統、XBB系統をはじめとした、特徴的なスパイクタンパク質の変異が見られ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの免疫逃避や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。 特に北米で増加しているXBB.1.5系統のように、いくつかの地域で既存の流行株に比して感染者数増加の優位性が見られる亜系統も報告されている。しかし、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。
- 現時点では、オミクロンと総称される系統の中で、主に免疫逃避に寄与する形質を持つがその他の形質は大きく変化していない変異株が生じていると考えられる。世界の人口の免疫獲得状況や、介入施策が多様になる中で、変異株の形質が流行動態に直接寄与する割合は低下していると考えられる。変異株の発生動向や病原性・毒力(virulence)、感染・伝播性、ワクチン・医薬品への抵抗性、臨床像等の形質の変化を継続して監視し、迅速にリスクと性質を評価し、それらに応じた介入施策が検討される必要がある。
- 2022年11月以降、中国で急速な感染拡大が報告されている。中国ではゼロコロナ政策が施行されていたが、12月7日以降感染対策を緩和しており、12月下旬をピークに全国的な感染者数の増加と、1月上旬をピークに重症者数、入院者数の増加が見られたが、現在は減少に転じている。中国からGISAIDに登録されたゲノム解析結果では、BA.5.2系統、BF.7系統が主流となっていると考えられ、いずれも日本国内でも検出されている系統であった。日本では12月30日より中国(香港・マカオを除く)に渡航歴(7日以内)のある全ての入国者と、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については全員に入国時検査を実施しており、主にBA.5.2系統、BF.7系統が検出されている。1月下旬の春節及びその前後における中国国内外への旅行者の増加、中国政府が自国民の海外旅行を解禁するなどの影響から、引き続き中国での状況を注視する必要がある。
第24報からの更新点
- 各変異株の国内外での発生状況の更新
- 中国における変異株の状況についての更新
目次
- BA.5系統について
- BA.2.75系統について
- オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について
・BQ.1系統について
・XBB系統について - 中国における感染拡大と変異株の状況について
- 参考 表 主な変異株とその亜系統の各国における位置付け(2023年2月1日時点)
BA.5系統について
- BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2023年第2週(1月9日~15日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界でGISAIDに登録された株の65.7%を占め、主流となっている (WHO, 2023a)。BA.5系統の亜系統のうち、BQ.1系統(BA.5.3系統の亜系統)とその亜系統が欧州やオセアニアから、BF.7系統(BA.5.2系統の亜系統)とその亜系統が中国から多く登録されている。
- 国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を、30週(7月25日~31日)に90%を超えた(covSPECTRUM, 2022)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を、30週に90%を超えた(国立感染症研究所, 2022a)。
BA.2.75系統について
- BA.2.75系統(亜系統を含む)は、2023年1月24日時点で、GISAIDに106か国から99,480件登録されている(covSPECTRUM, 2023)。日本では、2月1日時点で、BA.2.75系統(亜系統を含む)が検疫で205件、国内で6,664件登録されている(GISAID, 2023)。BA.2.75系統はBA.2系統と比較して中和抗体からの逃避が起こる可能性が高くなっているとの報告がある(Cao Y. et al., 2022a) 。一方で、ワクチン接種による中和抗体からの免疫逃避については、BA.2系統と比して同等、BA.4/BA.5系統に比して低いという報告もある (Shen X. et al., 2022)。BA.2.75系統はインドでの検出状況から系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されている。国内においては、2022年10月以降XBB系統やBQ.1系統などと共にBA.2.75系統の亜系統であるCH.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)やBN.1系統(BA.2.75.5系統の亜系統)が検出されている(国立感染症研究所, 2023c)。しかし、これら亜系統間において感染・伝播性や重症度が上昇するという知見は得られていない。
オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について
- 世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高まっていることが懸念されている。米国ではXBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体の亜系統であるXBB.1.5系統が、英国を含む欧州ではBQ.1系統や、CH.1.1系統、XBB.1.5系統が、アジアではBQ.1系統やXBB系統、オセアニアではBQ.1.1系統、CH.1.1系統が、これまでに各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2022)。一方で、これらの系統が占める割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現在見られない。
- これらの亜系統が有するスパイクタンパク質における変異はR346、K444、V445、G446、N450、L452、N460、F486、F490、R493といった共通の部位に集中する傾向が見られており、ウイルスの収斂進化が起きているとの指摘されている(Cao Y, 2022b)。BA.5系統に比較して、BQ1.1系統、BM.1.1.1系統などは中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が高く、特に比較された中ではXBB系統が最も高いことが示唆されている(Cao. Y, 2022b)。これらの亜系統に関して、重症度の上昇などの免疫逃避以外の形質が大きく変化しているという知見はない。
- これらの系統について、WHOは、BF.7系統、BQ.1系統、BA.2.75系統、XBB系統の4系統を「Omicron subvariants under monitoring」に指定している。欧州疾病予防対策センター(ECDC)は、BA.2.75系統(BN.x系統、CH.x系統、その他の亜系統含む)、BQ.1系統、XBB系統(XBB.1.5系統(とその亜系統)以外の下位の亜系統を含む)、XBB.1.5系統の4系統を「Variants of interest」、BA.2.3.20系統、BF.7系統、XBC系統(デルタ株とBA.2系統の組換え体)、BN.1系統(BA.2.75.5系統の亜系統)、CH.1.1系統、XAY系統(デルタ株とBA.2系統の組換え体)を「Variants under monitoring」に指定している。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、BA.2.75系統、BA.4.6系統、XE系統、BQ.1系統、CH.1.1系統、XBB系統、XBB.1.5系統(とデルタ株)を「Designated Variants」、XBC系統、BQ.1.1系統、BN.1系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2023b、WHO, 2023b、UKHSA, 2023)。
- また、オミクロンとデルタの組換え体についても、ECDCはXBC系統とXAY系統を「Variants under monitoring」、UKHSAはXBC系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2023b、UKHSA, 2023)。
BQ.1系統について
- 2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統などBQ.1系統の亜系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2023)。 BQ.1系統とその亜系統(以下BQ.1系統)は2023年1月24日時点で、GISAIDに欧米を中心に115か国から321,434件が登録されている(covSPECTRUM, 2023)。2023年第2週(1月9日~15日)時点で、BQ.1系統は全世界で検出された株の46.9%を占め、割合は上昇傾向が続いている(WHO, 2023a)。米国では8月以降BQ.1系統の占める割合が上昇し2022年51週(12月18日~12月24日)には60%に達したが、11月以降XBB.1.5系統の占める割合が上昇するにつれて、BQ.1系統の占める割合は低下傾向にあり、2023年第5週(1月25日~2月4日)には27.2%を占めると予測されている (CDC, 2023a)。欧州では9月末頃から複数の国でBQ.1系統の占める割合が上昇しており、BQ.1系統が主流となっている国もある(UKHSA, 2023、ECDC, 2023c)。日本では、2023年2月1日時点で、BQ.1系統は検疫で98件9,648件検出されている(GISAID, 2023)。民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2022年第43週(10月24日~30日)には1.4%であったが、2023年第1週(2023年1月2日~1月8日)には19.2%と割合が上昇しており(国立感染症研究所, 2022b、国立感染症研究所, 2023a)、2023年第6週(2月6日~2月12日)においては42%を占めると推定されている (国立感染症研究所, 2023b)。
- BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、中和抗体から免疫逃避が起こる可能性が高くなることが示唆されている。また、実験でも中和抗体から免疫逃避する可能性が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) 。一方で、ハムスターを用いた動物実験では、BQ.1.1系統の病原性はBA.5系統と同等またはより低かった (Ito J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.5系統などと比較して高いものの、BA.5系統と比較して入院リスクの上昇はみられなかった(UKHSA, 2023)。ワクチンの有効性に関しては、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりもBQ.1系統に対する免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)。また、ワクチンの重症化予防効果には影響がないと予測されている (WHO, 2022)。ただし、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。今の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。
XBB系統について
- 2022年9月にシンガポールや米国からBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、その後遡ってインドから8月に検出された検体が登録されている。2023年1月24日時点で、GISAIDに99か国から52,121件が登録されており(亜系統を含む)、インドネシア、インド、マレーシア、シンガポールなどアジア各国のほか、米国、英国、ペルー、カナダ、オーストリア、デンマークなどから多く登録されている(covSPECTRUM, 2023)。2023年第2週時点で、XBB系統とその亜系統は全世界で検出された株の16.3%(うちXBB.1.5系統が12.1%)を占め、前週からその割合は上昇している(WHO, 2023a)。2022年9月から10月にかけてXBB系統の占める割合が上昇したインド、バングラデシュ、シンガポールなどでは、XBB系統の増加による感染者数や重症者数の増加は明らかではなく、シンガポールでは2022年10月下旬以降BQ.1系統やBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向にある (outbreak. info, 2023、Our World in Data, 2023)。
- 一方で、米国では2022年11月からニューヨーク州など東海岸を中心にF486P変異を有するXBB系統の亜系統であるXBB.1.5系統が検出され始め、12月以降、他の系統に比べて感染者数増加の優位性(growth advantage)が顕著でありその割合が増加している。2023年第5週(1月28日〜2月4日)には米国で検出された株の66.3%を占めると予測されていることから(CDC, 2023a)、動向を注視していく必要がある。2023年1月30日時点で欧州、アジアなど57の国と地域からGISAIDに16,302件が登録されている。米国から12,645件が登録されているが、英国1,145件、デンマーク239件、カナダ651件、ドイツ259件、フランス137件など、米国以外からの登録数は限られている。
日本からは2023年2月1日時点でXBB系統(亜系統を含む)が462件登録されており、うちXBB.1.5系統が国内で37件登録されている (GISAID, 2023)。また、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、XBB系統(亜系統を含む)は、2022年第42週(10月24日~30日)は0.25%、第1週(2023年1月2日~1月8日)にも0.38%と横ばいで推移している (国立感染症研究所, 2022b、国立感染症研究所, 2023a)。
- XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位中のR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの免疫逃避が起こる可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体から逃避する可能性が高いこと(Cao Y. et al., 2022b) や、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている (Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりも免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、XBB系統が占める割合の上昇と感染者数の増加との明確な関連性はなく、臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022)。再感染のリスクが高まる可能性も示唆されているが、オミクロン既感染者の再感染についての証拠はない(WHO, 2022)。
- XBB.1.5系統はXBB系統と同等の免疫逃避が起こる可能性があり、かつACE2受容体への結合親和性がXBB系統より高いことから、感染・伝播性がより高くなっている可能性が指摘されている(Uriu K. et al., 2023)。また、XBB.1.5系統の感染性や重症度に関する疫学的、臨床的な知見はない。米国から、2022年12月から2023年1月の期間に、18~49歳の免疫不全のない成人において、XBB系統、XBB.1.5系統における2価ブースターワクチンの発症に対する接種後2~3か月以内のワクチン効果は、BA.5系統と比較して差はなかったとの報告がある(Link-Gelles R. et al., 2023)
WHOは2023年1月23日にXBB.1.5系統に関するリスク評価を改正し、感染者数増加の優位性及び免疫逃避に関して一定の知見がある一方で、重症度の上昇を示す知見はなく、現時点で他のオミクロンの亜系統と比較して公衆衛生上のリスクの増加につながる証拠はないとしている。最初に報告された米国をはじめ欧州、アジアなどからも報告されていることから、感染者数増加の優位性、免疫逃避、重症度を評価するために、加盟国に対してさらなる調査を呼びかけている(WHO, 2023c)。
XBB.1.5系統は米国で増加しているものの、日本を含めた米国以外の国での報告数が少ないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。
中国における感染拡大と変異株の状況について
- 中国から公式に報告されたCOVID-19の患者数は2022年11月から急激に増加し、12月2日に1日当たり40,790.57人(7日間移動平均)、人口100万人当たり28.61人となり、過去最高を記録した(Our World in Data, 2023) 。
2023年1月26日に中国疾病預防控制中心(中国CDC)は2022年12月9日以降の臨床及び疫学情報を公表し、国内における陽性者数、発熱外来受診者数、検査陽性率は2022年12月末をピークに減少しており、全国のILI(インフルエンザ様疾患)サーベイランスでも同様の傾向が見られること、重症者数、入院者数は1月初旬をピークに減少していること、地域差はあるが、国内で検出されている変異株は北京や天津でBF.7系統、その他の地域ではBA.5.2系統が中心であり、新規変異株の検出や置き換わりの兆候は見られないこと、ワクチン接種を進めており、基礎接種が全年齢の90%、初回ブースター接種が60歳以上の92%で終了していることを公表した(中国CDC, 2023)。
ただし、中国政府は2022年12月7日以降、感染対策やサーベイランスの方針を変更しており、以前の情報との単純比較は困難であることに注意が必要である。 - 2022年12月1日から2023年1月30日までに、中国本土(香港、マカオを除く)からGISAIDに7,742件のゲノム解析結果が登録された。登録された変異株はBF.7系統を除くBA.5.2系統が最多で次いでその亜系統であるBF.7系統が多くを占めた (GISAID, 2023)。またXBB.1.5系統が3件登録されたが、いずれも輸入例であることがGISAIDの登録情報で判明している(GISAID, 2023)。 なお、中国からは報告されたBA.5.2系統、BF.7系統はスパイクタンパク質やORF1a領域に変異を獲得しており、BF.7.14系統、BA.5.2.48系統、BA.5.2.49系統と、それらの亜系統が新規の亜系統として登録されている。しかし、これら変異株が獲得した変異はいずれも抗原性に影響を与えない変異であり、既知のBA.5.2系統、BF.7系統に比して免疫逃避が起こる可能性や感染・伝播性、重症度に影響を与える可能性は低いと考えられている(GitHub, 2023)。
- 2022年11月からの中国での感染者数の増加を受け、日本では2022年12月30日より中国(香港・マカオを除く)に渡航歴(7日以内)のある全ての入国者と、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については全員に入国時検査が実施されている。また、2023年1月12日以降、マカオからの直行旅客便での入国者についても、出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書の提出を求めるとともに、全員に入国時検査を実施するとの水際措置の見直しが実施された。以降、2023年1月26日までにこの臨時措置に基づいて検疫で実施された検査数は31,884件であり、うち陽性となったのは848件であった。 また2022年12月30日から2023年1月19日までに中国(香港、マカオを除く)滞在歴のある入国者から検出されたウイルスに対して実施されたゲノム解析では、550件の系統分類が判明した。内訳はBF.7系統が222件、BF.7系統を除くBA.5.2系統が321件であった。
- 中国で主流となっていると推定されるこれらの亜系統に関して、日本では、BA.5.2系統は2022年5月ころから検出され始め、以降2023年1月25日時点でGISAIDに亜系統を含めて15万件以上が登録されている。日本国内で検出されたBA.5系統のうち大半を占めていたが、BQ.1系統への置き換わりにより日本国内での検出数は減少傾向にある(covSPECTRUM, 2023)。また、BF.7系統は2022年6月に初めて検出され、2023年1月30日時点でGISAIDに6,175件が登録されている。民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは検体数全体に占めるBF.7系統の割合は10月以降緩徐に上昇し、2023年第1週(2023年1月2日~1月8日)時点で17.3%を占めているが、上昇の程度はBQ.1系統の方が顕著である(国立感染症研究所, 2023a, 国立感染症研究所, 2023b)。BF.7系統は欧州(ベルギー、デンマーク、ドイツなど)や米国などで2022年10月頃に一時的に検出割合の上昇が見られたものの、その後BQ.1系統への置き換わりが進み、各国で検出割合は下降している(covSPECTRUM, 2022)。BA.5系統に比較して感染者数増加の優位性を見せていたものの、BQ.1系統、XBB系統に比較して感染者数増加の優位性を示す知見はみられない。
参考
表 主な変異株とその亜系統の各国における位置付け(2023年 2月1日時点)
系統名 |
感染研(NIID) |
WHO |
ECDC |
UKHSA |
CDC |
B.1.1.529 系統 (オミクロン) |
VOC
|
Currently circulating variants of concern (VOCs)
※各亜系統については以下の通り
Omicron subvariants under monitoring: BF.7, BQ,1, BA.2.75, XBB. |
VOC ※各亜系統については以下の通り
VOC: BA.2, BA.4, BA.5
VOI: BA.2.75, BQ.1, XBB, XBB.1.5
VUM: BA.2.3.20, BF.7. XBC注1), BN.1, CH.1.1, XAY注1)
De-escalated variant: BA.1, BA.3, BA.2+L452X, XAK, B.1.1.529+R346X, B.1.1.529+K444X, N460X, B.1.1.529+N460X, F490X |
VOC ※各亜系統については以下の通り
VOC: BA.1, BA.2, BA.4 BA.5.
Designated variants: XE, BA.2.75, BA.4.6, BQ.1, XBB, CH.1.1, XBB.1.5.
Signals in monitoring: XBC, BQ.1.1, BN.1 |
VOC
|
VOC: Variant of concern(懸念される変異株)、Omicron subvariants under monitoring(監視下のオミクロンの亜系統)、VOI: Variant of interest(注目すべき変異株)、VUM: Variant under monitoring(監視下の変異株)、Designated variants (指定された変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)
注1) オミクロンとデルタの組換え体
引用文献
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- Cao Y, Jian F, Wang J, Yu Y, Song W, Yisimayi A, Wang J, An R, Chen X, Zhang N, Wang Y, Wang P, Zhao L, Sun H, Yu L, Yang S, Niu X, Xiao T, Gu Q, Shao F, Hao X, Xu Y, Jin R, Shen Z, Wang Y, Xie XS. Imprinted SARS-CoV-2 humoral immunity induces convergent Omicron RBD evolution. Nature. 2022 Dec 19. doi: 10.1038/s41586-022-05644-7. Epub ahead of print. 2022b.
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更新履歴
第25報 2023/ 2/10 9:00時点
第24報 2023/ 1/13 9:00時点
第23報 2022/12/16 9:00時点
第22報 2022/11/18 9:00時点
第21報 2022/10/21 9:00時点
第20報 2022/09/08 9:00時点
第19報 2022/07/29 9:00時点
第18報 2022/07/01 9:00時点
第17報 2022/06/03 9:00時点
第16報 2022/04/26 9:00時点
第15報 2022/03/28 9:00 時点
注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」
第14報 2021/10/28 12:00 時点
第13報 2021/08/28 12:00 時点
第12報 2021/07/31 12:00 時点
第11報 2021/07/17 12:00 時点
第10報 2021/07/06 18:00 時点
第 9 報 2021/06/11 10:00 時点
第 8 報 2021/04/06 17:00 時点
第 7 報 2021/03/03 14:00 時点
第 6 報 2021/02/12 18:00 時点
第 5 報 2021/01/25 18:00 時点
注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」
第 4 報 2021/01/02 15:00 時点
第 3 報 2020/12/28 14:00 時点
第 2 報 2020/12/25 20:00 時点
注)タイトル変更
「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」
第 1 報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」