<資料> チフス菌・パラチフスA菌のファージ型別成績
 
(2011年10月21日~12月20日受理分)
  (Vol. 33 p. 17: 2012年1月号)
国立感染症研究所細菌第一部第二室

 



 

MSMでのShigella flexneri 国内感染のアウトブレイク―英国
(Vol. 33 p. 17, 20: 2012年1月号)

2011年の春から夏にかけて、LondonとGreater Manchesterで細菌性赤痢国内感染症例の増加がみられ、主にMSM(mem who have sex with men)間の感染が占めていることが地域の調査により示唆されていた。

10月に、Health Protection Agencyによるアウトブレイクコントロールチーム(OCT)が組織され全国的な強化サーベイランスが行われ、2011年9月1日~12月31日の間の細菌性赤痢検査確定症例すべてについて追加情報が収集されている。また、OCTは2001~2011年のShigella flexneri の検査報告について見直しを行った。その結果、旅行歴が無い・あるいは不明の症例が2010年から急激に増加していることが明らかになった。

9月1日以降に報告された細菌性赤痢は118例であり、このうち27例は旅行歴の無い国内感染症例であった。居住地域はLondon(8例)、North West(5例)、North East(4例)、Wales (3例)、YorkshireおよびHumberside(3例)、South East(3例)、England東部(1例)に分布していた。

9月1日以降の国内感染症例では、男性が多く(20/27)、男性のうち11例はMSM、3例は性的指向についての情報提供を拒否し、残りの6例はMSMではない、もしくは16歳未満であった。年齢は3~56歳(平均25歳、中央値28歳)で、MSMでは年齢が高かった(25~54歳、平均40歳、中央値34歳)。

S. flexneri の血清型は27例すべてで判明しており、10例は3aであった。

強化サーベイランスは12月31日まで継続される予定である。MSMのS. flexneri の症例が相当の割合を占めるため、MSMにおける感染のリスク因子や曝露についての追加的な調査が行われる予定である。

(Health Protection Report, 5, No.48, 2011)

 



 

小児におけるA香港型インフルエンザのサーベイランス(1998~2011年奈良県1小児科定点観測)
(Vol. 33 p. 16-17: 2012年1月号)

1.A香港型インフルエンザは途絶えないのか
現代人の多くは、抗原性(亜型)の異なる2種類のA型インフルエンザウイルスの同時流行に慣れてしまい、違和感を感じなくなった。

しかし、このように流行が重なるのは1968年の香港かぜ出現以来、A香港型(AH3亜型)ウイルスが40年経っても途絶えずに流行を続けているからではないだろうか。前世紀のパンデミックのうち、スペインかぜ(1918年~)はアジアかぜ(1957年~)の出現により、アジアかぜは香港かぜの出現により姿を消した。一方、AH3亜型ウイルスは1977年にソ連かぜの世界的流行が起きても(パンデミックではないが)、さらには2009年に豚由来AH1 ウイルス(AH1pdm09)1) によるパンデミックが起きても、姿を消さず流行を続けている。

2.A香港型インフルエンザの年度別発生
当科では1998年7月以降、小児科定点としてインフルエンザのサーベイランスを続けてきた2,3) 。インフルエンザ様患児のうち、入院治療や輸液治療を要する患児をウイルス分離対象とし(AH1pdm09の流行初期のみ全数把握態勢のため軽症例を含む)、これまでに93例の患児からAH3亜型ウイルスが検出された。ウイルス分離は主にMDCK細胞を用いて行われ、一部がRT-PCRやリアルタイムPCRによった(奈良県保健環境研究センター)。

1小児科定点の成績であるが、年度別に発生をみると、AH3亜型ウイルスは、AH1pdm09が猛威を振るった2009年度を除いて、毎年検出されている(1998年度の検出数が突出しているのはA/Sydney/5/97類似株の流行によると考えられる)(図1)。この間、Aソ連型やB型には全く検出されない非流行年(それぞれ3年連続を含む)がみられた2,3) (データ省略)。

3.A香港型インフルエンザ患児の年齢分布
93例の年齢分布を示した(図2)。乳幼児の占める割合が高く、5歳未満が72%(67例)を占めている(図2)。

4.インフルエンザ患児の罹患年齢の亜型別比較
ウイルス分離対象に軽症例を含まなかったことで乳幼児の比率が高くなった可能性も考えられる。そこで、罹患年齢の亜型別比較も行った。2群間の差の検定にはMann-WhitneyのU検定を用いた。その結果、A香港型インフルエンザ患児の年齢(3.8±3.4歳)は、Aソ連型患児(5.2± 3.4歳)、B型患児(4.9±3.1歳)、AH1pdm09患児(7.1±3.7歳)に比べて有意に低いことが判明した(図3)。

5.考 察
A香港型ウイルスは長期にわたって毎年のように流行を続けてきた。したがって、15歳までの小児年齢のうち年長児では過去に同ウイルスに曝露された児が多いであろう。抗体保有率が年長児で上昇し、低年齢児(特に5歳未満)に罹患が集中するのではないかと考えられる3) 。

今回の成績は1小児科定点の成績であるが、最近、発表された2010/11シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況4) (国立感染症研究所)をみると、AH3亜型ウイルスに対して、0~4歳群を除くすべての年齢層で中等度以上の抗体保有率を示す成績であった。

A香港型インフルエンザの小児の罹患が低年齢児に多い傾向にあることは定着しつつあるようであり、今後も警戒が必要である3) 。インフルエンザ合併症の頻度を亜型別にみると、熱性けいれんや脳症はA香港型で最も頻度が高い3) 。

2011年11月、米国アイオワ州で豚との接触の確認されない小児3例に豚由来AH3亜型ウイルスの感染が確認された5) 。

今後もAH3亜型ウイルスの動向が注目され、サーベイランスを続けることは重要であろう。

インフルエンザウイルスの検出および抗原解析はすべて奈良県保健環境研究センターウイルスチームによるものであり、深謝する。

 参考文献
1) IASR 30: 255-256, 2009
2) 松永健司,他,小児科臨床 61: 1691-1694,2008
3) 松永健司,他,小児科臨床 62: 1105-1110,2009
4) IASR 32:323-326, 2011
5) CDC, MMWR 60: 1615-1617, 2011

済生会御所病院小児科 松永健司

 



 

小児からの百日咳類縁菌Bordetella holmesii の分離症例、2011年―大阪府
(Vol. 33 p. 15-16: 2012年1月号)

Bordetella holmesii は免疫系に基礎疾患を有する青年・成人患者に感染し、敗血症・心内膜炎などの起因菌となる。近年では基礎疾患を持たない青年・成人に感染し、百日咳と同様な臨床像を引き起こすことが知られている。わが国では2008~2009年に埼玉県と北海道で初めてB. holmesii が臨床分離され、その後、2011年の百日咳集団感染事例において5株が分離された。これら分離症例はすべて青年・成人患者のものであり、乳幼児からの分離症例は認められていない。今回、百日咳様の症状を呈する小児患者からB. holmesii の分離を経験したので、その臨床像ならびに検査所見を報告する。

患者:女児、2歳7カ月
既往歴:喘息
予防接種歴:DPTワクチン3回接種
家族歴:同時期に弟(月齢7カ月)に咳嗽症状あり
主訴:咳嗽、微熱
臨床経過図1
8月28日:咳嗽出現
8月29日:夕方より発熱(37.6℃)が認められ、当院小児科を受診。全身状態は良好であるが、胸部レントゲンで気管支陰影の増強があり、気管支炎と診断された。喘息の既往もあり気管支拡張薬の吸入を施行。また、マイコプラズマ、百日咳の可能性を否定できなかったため、クラリスロマイシンの経口投与を行った。 8月30日:朝は38℃台の発熱があったが日中は36℃台まで低下。咳嗽は改善傾向であったが、喘息症状あり。
8月31日:全身状態は良好。気管支拡張薬の吸入を施行
9月2日:発熱なし、咳嗽も改善。8月31日の検査結果と臨床症状からマイコプラズマ気管支炎と診断
9月5日:軽快終診

検査所見表1):百日咳菌とマイコプラズマに対する遺伝子検査(LAMP)は、両者ともに陰性を示した。培養検査は血液寒天培地(炭酸ガス培養、35℃、24時間)およびボルデテラCFDN培地(好気培養、35℃、7日間)により実施し、ボルデテラCFDN培地において培養6~7日後に透明感のある白色コロニーを認めた。被菌株はグラム染色においてグラム陰性短桿菌を示し、シークエンス解析(16S rRNA、recA )によりB. holmesii と同定された。なお、血液検査ではイムノカード法により抗マイコプラズマIgM抗体が陽性と判定された。

B. holmesii の国内分離症例はこれまで青年・成人患者に限定されていたが、本症例において百日せきワクチン既接種の小児にも感染することが確認された。患児は激しい咳嗽症状と血液検査所見(IC陽性)から当初マイコプラズマ気管支炎と診断され、クラリスロマイシンが1週間処方された。結果的に本治療により外来通院で症状は軽快したが、治療中にB. holmesii 検出の情報を得ることはできなかった。菌培養検査では、B. holmesii の生育が遅いため血液寒天培地(24時間培養)からは分離されず、ボルデテラCFDN培地でも培養7日目で釣菌可能となっている。通常、血液寒天培地での培養の場合、2日以上の観察をすることは少なく、ボルデテラCFDN培地でも7日目まで注意深く観察することは稀である。そのためB. holmesii は現在の病原体検査では検出され難く、本菌感染症の多くが見逃されている可能性が示唆される。百日咳様疾患の場合、百日咳菌の検索とともに、B. holmesii が検出される可能性があることを念頭に置き、検査を進めていくことが必要である。

岸和田徳洲会病院臨床検査科 櫛引千恵子 西戸温美
岸和田徳洲会病院小児科 西田理行 桑原功光
国立感染症研究所細菌第二部 大塚菜緒 鰺坂裕美 蒲地一成
大阪府立公衆衛生研究所 勝川千尋

 



集団発生したレプトスピラ症―高知県
(Vol. 33 p. 14-15: 2012年1月号)

2011年9月に、高知県幡多福祉保健所管内でレプトスピラ症の集団発生があったのでその概要を報告する。

患者発生状況: 2011年9月30日、医療機関より同一事業所の電柱建替え作業従事者3名が次々に高熱で入院し、レプトスピラ症が疑われると保健所へ報告があった。調査したところ、当該事業所は従事者9名(作業員4名、事務5名)であり、このうち9月14日から現場作業を実施した4名中3名が入院した。

臨床症状(臨床所見 表1
症例1:患者は28歳・男性で、9月24日に発病し、9月26日に医療機関を受診し入院した。臨床症状は発熱(39.5℃)、頭痛、関節痛、倦怠感、肝障害、嘔吐(1回)、下痢(1回)等であった。ペニシリン系薬剤〔9月28日~10月3日までアンピシリン(ABPC)、10月4日~7日までアモキシシリン(AMPC)〕投与等の治療により回復し、10月8日に退院した。

症例2:患者は50歳・男性で、9月25日に発病し、9月26日に医療機関を受診、28日に入院した。臨床症状は発熱(39.1℃)、頭痛、関節痛、倦怠感、肝障害、咳等であった。ペニシリン系薬剤(9月28日~10月3日までABPC、10月4日~7日までAMPC)投与等の治療により回復し、10月8日に退院した。

症例3:患者は28歳・男性で、9月28日に発病し、9月29日に医療機関を受診し入院した。臨床症状は発熱(39.6℃)、頭痛、倦怠感、咳、咽頭痛等であった。ペニシリン系薬剤(9月29日~10月3日までABPC、10月4日~7日までAMPC)投薬等の治療により回復し、10月5日に退院した。

病原体および抗体の検出:レプトスピラ症の実験室診断は、レプトスピラの分離、PCR法によるレプトスピラDNAの検出、あるいは顕微鏡下凝集試験法(MAT)による抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または抗体価の有意な上昇)により行われる。今回の3症例は国立感染症研究所・細菌第一部へ検査依頼し、MATおよびPCRが行われた。投薬後の全血および尿のPCRは3症例すべて検出限界以下であった。一方、国内で報告のあるレプトスピラ15血清型生菌を用いたMATにより、3症例ともHebdomadisおよびKremastosに対して抗体陽転が認められたため、これら患者のレプトスピラ感染が血清学的に証明された。

考 察:病原性レプトスピラは、ネズミなどのげっ歯類をはじめ、多くの野生動物やウシ・ブタなどが保菌している。病原性レプトスピラは、保菌動物の腎臓に定着し、尿中に排菌され、ヒトは、この尿あるいは尿で汚染された水や土壌と接触することで経皮的に感染する。海外では洪水の後にレプトスピラ症の大発生が起きているが、国内でも2004年に愛媛県、2005年に宮崎県、2011年には三重県(IASR 32: 368-369, 2011参照)で台風とそれに伴う洪水の後にレプトスピラ症患者が発生している。今回の高知県での事例では、9月初めに大雨があった後、約10日後の作業実施開始前後から雨が続いていた。作業現場は地盤がぬかるんだガマが生育する沼地で、近くには牛舎があるなど自然豊かな土地である。患者は、作業中長靴を着用していたが泥が入り込むこともあった。また、手袋を着用していない場合もあった。患者3名の手や足に傷は認められていない。MATの結果、3名とも同じ血清型に対して抗体価が上昇していた。このことから、今回は同じ作業現場でレプトスピラ保菌動物の尿で汚染された水や土壌と接触し、経皮的に同時期に感染し集団発症したと考えられる。今後は台風など大雨後の沼地や河川での作業、農作業に警鐘が必要と考えられた。

高知県衛生研究所 松本道明 山本浩徳 今井 淳
高知県幡多福祉保健所 湯村育代
竹本病院 藤永泰宏 竹本範彦
国立感染症研究所細菌第一部 小泉信夫

 



A群ロタウイルスによる成人の集団感染事例―茨城県
(Vol. 33 p. 13-14: 2012年1月号)

茨城県土浦保健所管内の障害者支援施設(成人)で、11月下旬にA群ロタウイルスによる11名の集団感染事例が発生したので、その概要について報告する。

当該施設(職員数60名)は障害者自立支援法に基づく施設で、施設入所、短期入所(ショートステイ)および生活介護支援事業を行っており、入所者53名は個室または2人部屋で生活している。

2011年11月25日、当該施設の施設長から嘔吐、下痢を起こしている者が複数いるとの連絡が保健所にあった。保健所が調査したところ、11月16~25日までに、発熱(37.5℃以上)、下痢、嘔吐の症状を呈している者が10名(すべて入所者)いた。初発患者は、自宅外泊して11月16日に帰所した女性入所者である。帰所時に発熱(37.5℃以上)あり、翌日嘔吐・下痢症状を呈した。11月21~24日にかけて入所者9名が次々と発症した。発症者は全員医療機関を受診し、感染性胃腸炎と診断され、そのうち1名が点滴を受けた。その後、嘔吐物の処理にあたった職員1名が発症し、医療機関でロタウイルス胃腸炎と診断された。発症者の平均年齢は42歳(23~69歳)、症状の持続期間は平均3日間(1~5日間)である()。有症者への隔離等の対応、消毒の実施、手洗いの励行、入所者および職員の健康観察等、保健所による適切な指導の結果、11月25日以降の発症者は1名にとどまり、12月8日に終息宣言が出された。

原因究明のため、11月27日に入所者3名の糞便が当研究所に搬入された。まず、リアルタイムPCR法によりノロウイルスの検出を試みたが、検出されなかった。そのため、A群ロタウイルス、C群ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルスおよびアストロウイルスの検査を行った。A群ロタウイルスとアデノウイルスについてはイムノクロマト法、C群ロタウイルスはRT-PCR法、サポウイルスおよびアストロウイルスについてはリアルタイムPCR法によりウイルス抗原・遺伝子の検出を試みた。その結果、A群ロタウイルスの抗原のみが3名全員から検出された。これらの糞便からRNAを抽出し、「ウイルス性下痢症診断マニュアル(第3版)」に掲載の方法1) により、G遺伝子型別(G1・G2・G3・G4・G8・G9型)を行った結果、G2型と判定された。

茨城県における2010(平成22)年度のA群ロタウイルスによる集団感染事例は4事例で、他県と同様に4~6月にかけて、3つの保育園と1つの小学校で発生したが、今年は感染性胃腸炎の流行に入る前の11月に成人の施設で発生がみられた。成人の集団感染事例は、篠原ら2) が報告しているが、その数は少ない。しかし、病原体検出情報の2005年1月~2011年11月までの集団発生集計3) によると、16.5%を占めている。また、田村ら4) は例年11月から検出していることを報告しており、11月頃に発生したノロウイルス非検出の集団発生事例においては、検出を試みるべきウイルスの1つであると考える。

発症者11名のうち1名は点滴を受けたが、症状の平均持続期間は3日間であった。成人のA群ロタウイルス感染症は、乳幼児に比べて軽症であると考えられた。G、P遺伝子型や系統解析の疫学情報はわが国では少ないため、過去に遡り調査する必要があると考える。

 参考文献
1)国立感染症研究所・衛生微生物技術協議会レファレンス委員会編
  ウイルス性下痢症診断マニュアル(第3版) 平成15年7月
2)IASR 14: 122, 1993
3)NESID(感染症サーベイランスシステム) 
4)IASR 32: 73-74, 2011

茨城県衛生研究所
増子京子 渡邉美樹 土井育子 笠井 潔 原  孝 杉山昌秀
茨城県土浦保健所保健指導課
黒江悦子 深澤伸子 藤枝 隆

 



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