複数の給食施設を原因とした腸管毒素原性大腸菌O148による広域食中毒事例-横浜市
(Vol. 33 p. 12-13: 2012年1月号)
2011(平成23)年9月、横浜市内の4カ所の事業所で腸管毒素原性大腸菌O148(以下ETEC O148)による集団食中毒事例が相次いで発生した。この4事業所は異なる企業の社員食堂であったが、同一の給食事業者が運営する給食施設であった。この事業者が運営する給食施設を原因とする食中毒事例は他に山梨県、長野県、神奈川県、相模原市、東京都の各自治体においても相次いで発生し、患者数が数百名規模となる広域食中毒事例であった(本号9ページ参照)。

当所では、市内で発生した4事例について原因菌検索および分離菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析を行ったので報告する。

腸管毒素原性大腸菌O148の大規模広域食中毒事例の概要
(Vol. 33 p. 9-12: 2012年1月号)
2011(平成23)年9月5日~9月15日にかけてA社が委託を受け、営業する複数の社員向け食堂を利用した者のうち、516人(2011年12月12日現在、7自治体にわたって13店舗)が腸管毒素原性大腸菌(ETEC)O148(以下O148)による食中毒様症状を呈した。重症者、死亡者は認められず、アウトブレイクは9月30日現在終息しているとみなされる。本事例は広域にまたがる大規模な集団食中毒事例であった。本事例の原因、感染経路については現在も調査中であるが、再発防止の意味も含めて現時点での暫定的な調査結果概要を示す。

背景・端緒
2011年9月9日、自治体Bの保健所へC社の事業所の担当者から9月7~8日にかけて社員 300人中30人が腹痛、下痢等の食中毒症状を訴えていることが報告された。同日、自治体EのF社およびG社事業所からも食中毒様症状の集団発生が管轄保健所へ報告された。いずれの事業所もA社が委託を受けて営業している社員食堂を利用していた。9月12日以降さらに、自治体H、I、J、K、Lの保健所に患者発生が報告され、7自治体(9保健所)にまたがる集団食中毒事件となった(表1)。本事例は広域でかつ公衆衛生上の問題があると考えられ、またその他にも本年は複数の大規模広域食中毒事例が発生していることから厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報室から国立感染症研究所実地疫学専門家の調査依頼があり、本調査を行うこととした。

調査方法
調査は患者が発生した自治体から喫食状況を含む患者の情報を収集し、対照者の調査が実施されている場合は対照者調査の情報も収集した。症例対照研究での症例定義は(1)疑い例は8月30日~9月16日にA社が営業する食堂で食事し、水様便、粘液便または腹痛をきたした者、(2)確定例は(1)を満たし便検査からO148が検出された者、とした。対照群は、8月30日~9月16日にA社が営業する食堂で喫食し、水様便、粘液便、軟便、腹痛、嘔吐または吐き気が無い者、とした。発症と喫食の関連はオッズ比(以下OR)算出およびFisher's exact testを行った。原因食品についての調査は原因と考えられている食品の遡り調査を関係する自治体に対して依頼をした。病原体に関する情報は患者に関しては発生自治体等に対して検査結果(菌の分離状況と毒素の検出およびPFGE等)についての情報収集を依頼した。

結 果
患者発生状況:患者は9月5日より発生し、9月7日がピークで、最後の患者が9月12日に報告された(図1)。患者の報告数は7自治体から合計516人であった。自治体Eから得た症例対照研究による発症と喫食の関連を検討した(表2)。9月5日の昼食は「つけ麺」のOR(13.77)が有意に高かった。9月6日の昼食は「うどん」のOR(54.51)で有意に高かった。9月7日の昼食は「ピリ辛味噌つけ麺」のOR(6.54)が有意に高かった。長ネギの使用状況については確認中である。各保健所が実施した患者検便と収去食材の細菌検査で一部の生食用の検食の長ネギおよび検食のメニューからO148 ST+を検出した(本号12ページ参照)。保健所が実施したふきとり検査ではO148は陰性であった。

遡り調査:遡り調査は現在実施中であり、A社運営の食堂でのマニュアルの収集、店舗での調理等の作業について情報収集中である。食品は加工工程、消毒、洗浄、保管、加工に利用する機材などについての情報収集中である。食品の流通については仕入先、流通の経路、流通方法、管理方法などについて情報収集中である。なお、A社は本事例発生後、生野菜を使用するレシピに関するマニュアルの改訂等を行った。

結 語
本事例は暫定的な解析であるが、7自治体にまたがり症例数が516人の大規模な広域食中毒事例であった。2011年わが国では本事例以外にも複数の大規模な広域食中毒が報告されており、本調査が今後の食品衛生における公衆衛生上の対策へ活用されることが期待される。

厚生労働省医薬品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報室
国立感染症研究所感染症情報センター、実地疫学専門家養成コース
東京都福祉保健局健康安全部食品監視課
港区みなと保健所生活衛生課
中央区保健所生活衛生課
神奈川県保健福祉局生活衛生部食品衛生課
横浜市健康福祉局健康安全課
川崎市健康福祉局健康安全室
相模原市健康福祉局保健所生活衛生課
山梨県福祉保健部衛生薬務課
長野県健康福祉部食品・生活衛生課
長野市保健所生活衛生課

 



 

非典型的病原血清型大腸菌(OUT:HNM)が主因と推定された食中毒事例―熊本県
(Vol. 33 p. 8-9: 2012年1月号)
2011年5月29日、熊本県天草市内の飲食店で、eae 遺伝子陽性・bfpA 遺伝子陰性の非典型的病原血清型大腸菌(OUT:HNM)が主因と推定された食中毒に、腸管出血性大腸菌(EHEC)が同時に検出された事例が発生したので報告する。

2011年5月31日、A高校運動部の保護者から管轄保健所へ、運動部の生徒、保護者および高校の職員数人が、5月30日から下痢・腹痛等の体調不良を訴えている旨の連絡があった。保健所による調査の結果、5月29日に天草市内の飲食店でA高校運動部の歓迎会が開催され、出席者の半数が同様の症状を呈していること、および当日法事で同施設を利用したもう一つのグループにも有症者がいることが判明した。

喫食者は高校運動部の歓迎会グル―プ(以下「G1」)86名と法事グループ(以下「G2」)8名の94名で、このうち有症者は48名(51%、G1:43名、G2:5名)であった。主要症状は水様性下痢(83%)、腹痛(69%)、発熱(44%、平均37.2℃)および嘔気(29%)であり、平均潜伏時間は19時間で、16~18時間をピークとする一峰性の発症曲線を示したことから、単一曝露によるものと推定された(図1)。

保健所から搬入された喫食者便44検体(G1:37検体、G2:7検体)、従業員便10検体、ふきとり5検体および井戸水1検体の合計60検体について、常法により食中毒菌および下痢症ウイルスの検索を行った。なお、病原性大腸菌の有無は、分離平板からのSweep PCR法(VT1/2、LT、ST、invE eae bfpA aggR およびastA 遺伝子検査)で判定した。

検査の結果、eae astA およびVT2遺伝子がそれぞれ複数検出された。これらの病原遺伝子を目安に病原性大腸菌の単離を試みたところ、喫食者便44検体中29検体(65.9%、G1:25検体、G2:4検体)、および従業員便10検体中2検体(20.0%)からeae 遺伝子陽性の大腸菌が分離された(表1)。分離株の血清型は、すべてOUT:HNMであり、生化学性状は、乳糖、白糖およびβ-Glucuronidase陰性であったが、その他の性状は大腸菌の性状と一致した。薬剤感受性試験(使用薬剤:CIP、CTX、CP、NA、TC、KM、SM、ABPCの8剤)では、全株がTCおよびABPCに耐性を示し、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の泳動パターン(図2)もほぼ同様であったことから、感染源は同一である可能性が示唆された。

さらに、喫食者便10検体(22.7%、G1:9検体、G2:1検体)からVT2とastA を保有するEHEC(OUT:H18)も分離された(表1)。こちらも生化学性状、薬剤感受性、PFGEの泳動パターンが一致したため、同一感染源由来であろうと推定された。なお、両方の大腸菌が分離された有症者便は8検体(G1:7検体、G2:1検体)であった(表1)。

その他、ふきとり5検体はSweep PCR法陰性であった。井戸水はeae 遺伝子陽性となったが、菌を単離することはできなかった。なお、厨房内の使用水は市の上水道水と井戸水を各々の受水槽経由で利用しており、当初の聞き取りでは、洗い水1カ所を除いてすべて上水道水であるとのことであったが、その後の調査で厨房内の半数以上で井戸水を利用していたことが明らかとなった。上水道水は遊離残留塩素濃度0.1ppm以上であったが、井戸水への塩素注入はなく、ここ数年は受水槽の清掃等も行われていなかったため、壁面に藻類が発生している状態であった。

今回の事例ではEHECも検出されたが、臨床症状、疫学調査および検査結果等の総合的見地からeae 遺伝子陽性・bfpA 遺伝子陰性の非典型的病原血清型大腸菌による食中毒と判断され、井戸水由来の菌が何らかの原因によって食品中で増殖したためであろうと推定された。しかし、検食が保存されていなかったため検査が行えず、また、喫食状況調査からは原因食品を特定することもできなかった。

熊本県保健環境科学研究所 徳岡英亮 古川真斗 永村哲也 原田誠也
熊本県天草保健所 浴永圭吾 徳永晴樹 東 竜生

 



 

腸管凝集付着性大腸菌O126:H27による有症苦情事例―浜松市
(Vol. 33 p. 7-8: 2012年1月号)
腸管凝集付着性大腸菌(EAggEC)は、下痢原性大腸菌のうち最も新しく分類されたカテゴリーであり、「既知の毒素を産生せず、培養細胞に凝集付着性を示す」大腸菌と定義される。多くは耐熱性腸管毒素(EAST1)を産生する。今回、浜松市内の飲食店で食事をした患者から、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生性EAggEC O126:H27が分離されたので、その概要を報告する。

2011年4月21日19時頃、浜松市内の飲食店において宴会料理を喫食した23人中19人が、当日19時30分~4月24日17時にかけて水様性下痢、腹痛、嘔吐などの症状を呈し、うち2人が受診した。病院での検査の結果、受診した患者2人からEscherichia coli O126が分離されたとの報告があった。なお、当日この飲食店で食事をしたのはこのグループのみであり、他に苦情等の届出はなかった。

当研究所には、患者便3検体、病院から搬入されたE. coli O126菌株2検体、飲食店従事者便3検体、食品1検体、ふきとり検体10検体、計19検体が搬入され、患者菌株を除く17検体を常法に従い食中毒菌全般について検査した。分離された大腸菌を疑う菌株および患者菌株は、病原性大腸菌免疫血清により血清型を決定し、さらに病原性関連遺伝子(invE 、STp、STh、LT、VT1、VT2、astA )、および細胞付着関連遺伝子(eae aggR )をPCR法にて検査した。PCR法によりEAggECと判定された株については、Clump形成試験およびHEp-2細胞付着試験を実施し、病原性の確認を行った。

ESBL産生性確認試験は国際臨床標準化委員会(CLSI)に準拠した方法で実施した。薬剤感受性試験用ディスクは、セフポドキシム(CPX)、セフォタキシム(CTX)およびセフタジジム(CAZ)、およびそれぞれにクラブラン酸10μgを添加したCPXC、CTXCおよびCAZCの6種類を用いた。また、それぞれの薬剤についてEtestを用いてMIC値を測定した。ディスク法でESBL産生菌と判定された菌株は、PCR法でESBL産生遺伝子の検出を行い、検出された遺伝子はダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、BLAST検索により遺伝子型を調べた。

また、分離された菌株は、制限酵素Xba I を用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施し、遺伝子解析を行った。

その結果、患者便3検体、患者菌株2検体および従事者便1検体よりE. coli O126:H27が分離され、患者便1検体から黄色ブドウ球菌が検出されたほかは、既知の食中毒菌は分離されなかった。分離されたE. coli O126:H27 6株は、PCR法によりaggR 遺伝子およびastA 遺伝子が検出され、いずれもClump形成試験陽性で、HEp-2細胞に対し凝集性(AA)付着を示した。一方、ESBL産生性確認試験では、ディスク法によりすべてがESBL産生菌であると判定され、すべての株がbla TEM-1bla CTX-M-14aを保有していた。また、各薬剤に対するMIC値は、CPXはすべての株で256μg/ml以上、CTXは24~64μg/ml、CAZは 1.5~2μg/mlであった。PFGEによる遺伝子解析では、制限酵素Xba I による切断パターンは5株が一致し、残り1株もバンド1本の違いであったため、この6株は同一由来であると推定された()。

しかしながら、患者の発症時間が喫食後30分~70時間と多峰性を示し、施設のふきとりおよび食品から菌が検出されなかったことから、当該飲食店を原因施設とは断定できなかった。

今回の事例では、受診後の患者の症状回復が比較的長時間を要していたことから、EAggEC O126:H27の薬剤耐性化を疑い、ESBL産生性についても検査した。その結果、分離菌のすべてがbla TEM-1blaCTX-M-14a遺伝子を保有したESBL産生菌であることがわかり、Etestを用いたMIC値の測定では、CPXおよびCTXに耐性であることが判明した。このことから、本菌による下痢症状の治療に際し、薬剤の選択によっては効果が弱くなることが予想された。ESBL産生遺伝子はプラスミドに存在し、菌の分裂・接合により菌間を移行することが知られている。また、2011年5月にドイツを中心としたヨーロッパ各国において大流行したEHEC O104:H4は、その後の調査で、元来EAggECであった菌がVT遺伝子を獲得したと推定されている。さらに、このEHEC O104:H4は、今回のEAggEC O126:H27と同様にESBL産生遺伝子であるbla TEM-1bla CTX-M-15遺伝子を保有していた。近年薬剤耐性遺伝子や毒素産生遺伝子の拡散が問題視されており、これからの検出動向を注視していく必要があると思われた。

浜松市保健環境研究所
土屋祐司 秦 なな 加藤和子 紅野芳典 小粥敏弘 小杉国宏
浜松市保健所浜北支所 林 浩孝
国立感染症研究所感染症情報センター 伊藤健一郎

 



 

下痢原性大腸菌の分類の見直しについて
(Vol. 33 p. 5-7: 2012年1月号)
下痢原性大腸菌は、1985年にEnteroaggregative Escherichia coli (腸管凝集付着性大腸菌EAggECまたはEAEC)が見つかって以来、病原血清型大腸菌(EPEC)・腸管毒素原性大腸菌(ETEC)・腸管侵入性大腸菌(EIEC)・腸管出血性大腸菌(EHEC/VTEC)・EAggEC/EAEC の5つに分類されている。分散付着性大腸菌(DAEC)やEAggEC耐熱性毒素(EAST1、遺伝子はastA )、細胞毒性壊死因子(CNF)、細胞壊死性膨化毒素(CDT)などの病原因子を持つ大腸菌を下痢原性大腸菌に加えている場合もある。なお、STはVero毒素にも耐熱性エンテロトキシンにも使われるが、ここではVero毒素にはVTを使用することにして、STは耐熱性エンテロトキシンを示すこととする。

一方、現在の病原体検出情報システムにおける大腸菌の分類では、(1)ETEC:判定基準はLT/ST、(2)EHEC/VTEC:判定基準はVT、(3)EIEC:判定基準は侵入性(invE/ipaH )、(4)EPEC:判定基準はO群、(5)他の下痢原性E. coli :判定基準は上記の分類以外で、疫学・検査上で下痢原性大腸菌の可能性が高い大腸菌を報告するようになっている1) 。

病原体検出情報システムでは、大腸菌の分類が改定されてこなかったため、EAggECが入っていないことや、EPECの判定基準が特定のO群とされているなど、現状と合わない点があると指摘されてきた。2010年の衛生微生物技術協議会の細菌情報交換会において(1)新しい分類のEAggEC・DAEC・EAST1ECを加えるか、(2)O群によるEPEC判定の見直し、特に、O1とO18をどう扱うか、(3)病原因子:毒素産生性・遺伝子・細胞付着性・バイオフィルム形成等を報告するか、が提案され、2011年度に原案を示すことになった。

レファレンス関連会議「大腸菌」事前打合せで改定案を検討して、2011年度の協議会で改定案を示し、討議した。その結果、(1)EPECはO群ではなくeae (インチミン遺伝子)陽性の大腸菌でST/LT/VTを持たない大腸菌とする。血清型は分離数上位のものとする(表1、参考文献2)。EPECでは、従来のO群(特にO1とO18)では既知の病原因子を持たないものが多いことから指標をeae とした。一方、LEE領域を持つがEAFプラスミドを欠く、いわゆるatypical EPECの病原性についてはまだ結論が出ていないため、調査を続ける。(2) EAggECを新しい分類として、aggR(総合的制御因子)陽性の大腸菌でST/LT/VTを持たない大腸菌とした。凝集付着性を示すEAggECは下痢原性において雑多であることがいわれているが、aggR を保有するいわゆるtypical EAggECについてはその下痢原性が徐々に明らかになってきているためaggR を指標としてEPECと同様に調査を続ける。(3)EAST1ECやDAEC、さらにCDT/CNFなどを持つ大腸菌は、その下痢原性がまだ明らかではないため、従来どおり「他の下痢原性大腸菌」とする。

病原体検出情報システムへデータを登録する際には、上記の分類に従い、H血清型は型別結果の欄に入力し、病原関連遺伝子および病原性検査(表2表3および表4)は特記すべき生化学的性状欄に入力することとした。また、改正に対する意見の聴取や効果を調査するため、適当な時期にリファレンス関連会議を開催するのが望ましいことが確認された。

なお、EHEC/VTECはVero毒素の型や付着性の記述について検討されたが、現行どおりとする。従って、2011年欧州で流行したO104:H4や鹿児島で溶血性尿毒症症候群をおこしたO86:HNMは凝集付着性を示し、aggR 陽性だが、VTを保有しているためEHEC/VTECに分類される。

Nataro3) は原則として、(1)ある株を病原菌とするには、集団事例からの分離またはボランティア実験により確認すること、(2)いったん、ある血清型が病原性のあることがわかっても、同様の株が病原性を持つことは遺伝子型または表現形を確認すること、と提言している。今後、付着性大腸菌による食中毒が疑われた場合、起因菌判定のための上記参考条件の検討のため、菌側の病原因子関連検査を実施するとともに、可能であれば、患者のみの検査でなく、同じ集団事例の健康者からも菌の分離を行い、有意差の検定を試みていただきたい4) 。

 参考文献
1)IASR 31:75-76, 2010
2)小林一寛, 他,感染症誌 76: 911-920, 2002
3) Nataro JP, Emerg Infect Dis 12: 696, 2006
4)伊藤健一郎, IASR 29: 224-226, 2008

国立感染症研究所感染症情報センター 伊藤健一郎
国立感染症研究所細菌第一部 伊豫田 淳
秋田県健康環境センター 八柳 潤
東京都健康安全研究センター 甲斐明美
富山県衛生研究所 磯部順子
大阪府立公衆衛生研究所 勢戸和子
岡山県環境保健センター 中嶋 洋
福岡県保健環境研究所 村上光一

 



 

下痢原性大腸菌に関するアンケート調査結果報告
(Vol. 33 p. 4-5: 2012年1月号)
本アンケート調査は、2010(平成22)年5月25日、鹿児島市で開催された衛生微生物技術協議会第31回研究会・細菌情報交換会に合わせて実施し、その席上で報告した。概要を以下に示す。

下痢原性大腸菌には、臨床的意義も高く明確に定義された腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管侵入性大腸菌(EIEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC)と、臨床的意義や定義も曖昧な病原性に関連する因子(主に細胞付着性因子)を保有する病原血清型大腸菌(EPEC)、腸管凝集付着性大腸菌(EAEC/EAggEC)、分散付着性大腸菌(DAEC)などに分けられる。

NESID(感染症サーベイランスシステム)の病原体検出情報システムでは、ETEC、EIEC、EHECは、保有病原因子などの報告が求められていることに対して、細胞付着性に関する大腸菌はEPECまたは「他の下痢原性大腸菌」としてO血清型のみの報告にとどまり、判断の根拠とした細胞付着能や病原性関連因子などの報告は必須ではない。

これらのことから、特にEPECをはじめとする付着性大腸菌に関して、何をどこまで検査すれば良いのか、他の施設ではどのように実施しているのか、その判定基準は?、等々、各地方衛生研究所(地研)間でも大腸菌に関する検査方法や判定基準に違いを感じることから、現状を知る目的で全国の地研を対象にアンケート調査を実施した(回答施設数66/対象施設数77、回答率85.7%)。

結果は表1表2表3および表4のとおり。自由意見では検査方法や判定基準に関することが最も多かった(26施設)。

まとめ
 ・下痢原性大腸菌の中でも、EPECまたはその他の大腸菌のカテゴリーでは、地研間で検査方法や判断基準および検査の実施に差があった。
 ・大腸菌が原因菌であると判断する根拠の優先順位は、一定の傾向は示したものの、判定基準には地研間の相違を認めた。
 ・EPECまたはその他の大腸菌に関して、標準的な検査方法や判定基準の整備を求める意見が多かった。

鹿児島県立薩南病院検査部 上野伸広
川薩保健所健康企画課 吉國謙一郎
鹿児島県環境保健センター微生物部
浜田まどか 蓑田祥子 上村晃秀 御供田睦代 藤崎隆司
国立感染症研究所感染症情報センター 伊藤健一郎

 



 

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