国立感染症研究所

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腸管出血性大腸菌non-O157/O26/O111広域感染事例の分子疫学解析, 2016年

(IASR Vol. 38 p.101-102: 2017年5月号)

2016年に国内でヒトから分離された腸管出血性大腸菌(EHEC)のうち, 国立感染症研究所・細菌第一部に送付されたO157, O26, O111を除くEHEC(non-O157/O26/O111)332株について, パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による広域感染事例の解析を実施した(2016年3月現在)。これらの菌株においては47種類のO群が確認され, 検出頻度の高い順にO103(32%), O121(15%), O145(10%)であった(表1)。分子疫学解析のため, XbaIによるPFGEを実施した結果, これらの菌株のPFGEプロファイルはO103が59種類, O121が26種類, O145が22種類検出された(表1)。O103, O121, O145, O156の菌株については, 2015年以前に検出されたPFGEプロファイルがそれぞれのO群で1種類以上存在したが, non-O157/O26/O111の多くは2016年に初めて検出されたPFGEプロファイルを示した。各O群のデンドログラムにおいては, 疫学関連事例由来株等がクラスターを形成した。

 広域感染事例の早期探知のため, 広域で共通のPFGEプロファイルを示す株(広域株)の検索を行った結果, 2カ所以上の地方衛生研究所等(地衛研)で検出された共通PFGEプロファイル(広域PFGE型)は5つのO群(O103, O121, O145, O115, O5)において13種類であった(表1および表2)。これらの広域PFGE型はすべて2016年に初めて検出された型であった。広域PFGE型TN121m1株は, O121株全体の36.7%(49株中18株)を占め, 4カ月間(6~9月)に東海北陸, 関東甲信静, 近畿ブロック内の7地衛研において検出され, 広域における流行が推測された(表2)。O145の2つの広域PFGE型株は, それぞれ1地衛研管轄内で発生した集団発生事例由来株と他県の地衛研管轄内で発生した散発事例由来株により構成されたが, 集団発生事例と散発事例間の関連は不明であった(表2)。O103の広域PFGE型が複数検出されたが, 同一県内の2地衛研で検出されたTN103m2およびTN103m3は, それぞれ家族内感染事例であった(表2)。15株(11事例)から検出されたTN103m8のうち13株(9事例)は, 11~12月に北海道東北新潟ブロック内の2地衛研で集中して検出されたが, 現在(2017年3月)のところ事例間の疫学関連は不明である。

EHECは食品等を介してヒトに感染することでも知られる。2016年7月に検疫所におけるモニタリング検査の結果, 輸入キムチからEHEC O103が検出され, 当該株が当部に搬入された(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000131784.html)。食品由来株とヒト由来株の比較解析のため, 当該株のPFGE解析を実施し, データベースとの照合を行った。その結果, 現時点(2017年3月現在)においてヒト由来株中に当該株と同一のPFGEプロファイルは検出されていない。

non-O157/O26/O111の広域株は, 分離頻度の高いO群において出現する傾向にある。近年, 国内外においてnon-O157株の分離が増加傾向にあり, それに伴いnon-O157/O26/O111の広域株も増える可能性が示唆される。また, 広域株の多くは散発事例由来(家族内事例由来を含む)であるが, 一部を除き短期間に集中して分離されており, 潜在的な疫学的関連性が推測される。このような分子疫学解析による結果が迅速に情報共有され, 今後, 感染源の究明や拡大阻止に寄与することが期待される。

菌株送付ならびに情報共有にご協力頂きました関係機関の先生方に深謝いたします。引き続きご理解ご協力のほど宜しくお願いいたします。

 

国立感染症研究所細菌第一部
 石原朋子 伊豫田 淳 泉谷秀昌 大西 真

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