国立感染症研究所

 

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高知県内におけるギラン・バレー症候群症例の集積に関する主に2023年の状況について

(速報掲載日 2024/9/18) (2024年10月11日黄色部分修正)
 
背景

ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome: GBS)は、上気道感染や消化器感染などの先行感染やイベント(予防接種、外傷、手術など)に続発する免疫異常を原因とする末梢神経系の自己免疫性の炎症性脱髄性疾患である。急速に進行する運動麻痺を主症状とする。多くの症例では発症から数週間後に症状が軽快するが、呼吸筋麻痺の進行等により数%が死亡する1)。GBSの先行感染の病原体としては、カンピロバクター、特にCampylobacter jejuniC. jejuni)が最も多いと報告されている2)

高知県が事前に実施した県内6医療機関対象の別の調査から、2023年の高知県内におけるGBS診断数が、2020~2022年の同県における年間診断数と比べて2倍以上であったことが示唆された(2020年: 8例、2021年: 8例、2022年: 4例、2023年: 16例)。今回、2023年の高知県内におけるGBS症例集積事例の全体像の把握や原因の特定を目的に、高知県、国立感染症研究所(感染研)実地疫学専門家養成コース(FETP)、実地疫学研究センター(CFEIR)および細菌第一部が実地疫学調査および菌株解析を実施したので、その内容を報告する。

方法

症例定義は、2020年1月~2023年12月に、高知県内の4医療機関においてGBSの診断基準である「Brightonの診断基準(レベル3以上)」に合致する者とした〔ただし2医療機関については2022年1月~2023年12月に診断された症例のみ、2020~2021年と2022~2023年で医療機関数が異なるが、2023年と過去数年間(2020~2022年)のGBS症例の特徴を比較するために2020~2021年の症例も含めた〕。各医療機関において後ろ向きに症例情報を収集し、記述解析を行った。また、自治体(保健所・地方衛生研究所)担当者とGBS症例を診療した医師等へ聞き取り調査を実施した。さらに、上記GBS症例と高知県内のカンピロバクター食中毒事例の症例から得られた便検体から高知県衛生環境研究所および高知市保健所でC. jejuni菌株を分離し、感染研細菌第一部で遺伝子解析を実施した。

結果

GBS症例の調査結果

2020年1月~2023年12月に計25例(2020年: 3例、2021年: 5例、2022年: 4例、2023年: 13例)のGBS症例が確認された()。症例の年齢中央値は66.0歳 (範囲: 14-90歳)、男性が15人(60%)であった。症例25例のうち3例(12%)に人工呼吸器装着が確認され、観察できうる範囲で死亡例は確認されなかった。

2023年において、幡多保健所管内を除く県内5保健所管内で、GBS症例が確認された。2023年は2020~2022年の症例と比較して、先行症状に胃腸炎を有する者の割合が高く〔92%(12/13) vs 50%(6/12)〕、C. jejuni 便培養陽性もしくは抗体陽性の割合が高く〔54%(7/13)[69%(9/13)→54%(7/13)に変更] vs 33%(4/12)〕、さらに鶏肉喫食歴(生および加熱不十分な状態の鶏肉を喫食したかどうかまでは不明)を有する割合も高かった〔38%(5/13) vs 8%(1/12)〕。また、便培養陽性患者(1例)から採取された菌株の解析から、MLST(multilocus sequence typing)のsequence type(以下STとする)-22であることが判明した。

高知県内食中毒事例の調査結果

2023年の食中毒8事例 [9事例 →8事例に変更](疑い事例含む)のC. jejuni便培養陽性症例から採取された菌株を解析した結果、6事例(75%)[7事例(78%)→6事例(75%)に変更]の菌株からC. jejuni(ST-22)が検出され、これらの事例は県内4保健所所管区域内(安芸・中央西・中央東・高知市)で発生していた。

自治体(保健所・地方衛生研究所)への聞き取り調査では、C. jejuniを含めて、食中毒事例の増加およびGBSを引き起こす感染症の流行やイベント等は確認できる範囲で認められなかった。ただし、2023年に例年と比較してC. jejuniによる胃腸炎患者数が増加した医療機関が確認された。

考察

2023年は、GBS症例が幡多地域を除く高知県内広域で報告された。症例調査から、先行症状に胃腸炎を呈している割合、C. jejuni 抗体もしくは便培養が陽性である割合、鶏肉喫食歴(生および加熱不十分な状態の鶏肉を喫食したかどうかまでは不明)を有する割合が2020~2022年と比較して高かった。これらの所見は、2023年において、報告された患者らがGBS発症に先行してC. jejuniに感染していた可能性を示唆している。

菌株の遺伝子解析検査では、2023年に回収された食中毒事例の便培養検体より、C. jejuni(ST-22)が高い割合かつ県内広域において確認され、GBS症例の1例からも検出された。C. jejuni(ST-22)は、神経細胞表面のガングリオシド構造(GM1、GD1a、GQ1b/GT1a等)に対する自己抗体(抗GM1、抗GD1a等)の産生を誘導する傾向のある、LOS(lipooligosaccharide)class A遺伝子型を有することが多いため、GBS発症リスクが高い菌株であると考えられている3)。調査結果より、GBS発症リスクの高いC. jejuni(ST-22)が高知県内広域に分布していたことが、2023年の県内GBS症例数が2020~2022年と比較して増加した可能性として考えられる。

制限として、本調査がecological studyであり症例対照研究等は実施しておらず、鶏肉喫食歴については生および加熱不十分な状態の鶏肉を喫食したかどうか区別できていないため、本事例における鶏肉喫食とGBS発症の因果関係は不明であることから解釈に注意が必要である。また、他のすべてのGBS発症要因を問診・検査等で除外できておらず、他の発症要因との関連性を十分に評価できていない。さらに、C. jejuni感染症は感染症発生動向調査における届出疾患ではないため、県内のC. jejuni感染症の発生動向そのものが十全に把握されていない。

引き続きGBS症例の発生動向注視および情報収集、C. jejuniの菌株収集と遺伝子解析を継続し、C jejuni感染症の感染源・感染経路を追究していくことが必要である。

謝辞: ご協力いただいた自治体, 届出医療機関の関係者の皆様に深謝申し上げます。

 

参考文献
  1. Rajabally YA and Unchini A, J Neurol Neurosurg Psychiatry 83: 711–718, 2012
  2. 日本神経学会, ギラン・バレー症候群, フィッシャー症候群診療ガイドライン2013
    https://www.neurology-jp.org/guidelinem/gbs.html
  3. Heikema AP, et al., Clin Microbiol Infect 21: 852.e1-852.e9, 2015
高知県健康政策部健康対策課
 濱田一功 宮地美智子 松岡智加 川内敦文
高知県薬務衛生課
 清岡有紀 小野邦桜 大森真貴子
高知県衛生環境研究所
 影山温子 下元かおり 松本一繁 山村展子
国立感染症研究所
 実地疫学専門家養成コース(FETP)
  高橋佑紀 後藤滉平
 実地疫学研究センター
  加藤博史 八幡裕一郎 島田智恵 砂川富正
 細菌第一部
  山本章治 泉谷秀昌 明田幸宏

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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