国立感染症研究所

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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)病原体サーベイランスにおける海外型カルバペネマーゼ遺伝子検出株, 2017~2018年

(IASR Vol. 40 p158-159:2019年9月号)

CRE病原体サーベイランスにおける海外型カルバペネマーゼ遺伝子検出株の概要を示すため, 2019年6月28日現在の病原体検出情報システム報告情報を集計した。対象は検体採取日が2017年1月1日~12月31日の899株および2018年1月1日~12月31日の1,684株とした。対象株の約15%は感染症発生動向調査届出IDの記載がなく, 感染症発生動向調査に基づくCRE感染症届出症例以外の患者分離株も一部含むと思われる。海外渡航歴無し・不明患者由来株からの海外型カルバペネマーゼ遺伝子検出は, 精度管理のためPCR増幅産物等のシークエンスによる結果確定を依頼した(以下は, 2019年6月28日現在シークエンス確認中7株を含む)。

海外型カルバペネマーゼ遺伝子検出株数をに示す。CRE病原体サーベイランスが開始された2017年の全報告数(n=899)は2018年の全報告数(n=1,684)に比べて少ないため1), 検出株数を単純に比較できないものの, 海外型カルバペネマーゼ遺伝子検出株は2017年には全報告数の1.4%(n=13)であったのに対し, 2018年は2.5%(n=42)に増加し, 特に海外渡航歴無し・不明患者由来株の増加が顕著であった。一方, 海外渡航歴有りの患者(n=14)の渡航先はアジアが多く, ベトナム(n=4), 中国(n=3), インド(n=2), タイ, フィリピン, バングラデシュ, ネパール, カンボジア, ブラジル(各n=1)であった (1名は2カ国記載)。

2018年検体採取株のうち, NDM型検出株(n=31)の菌種は, Escherichia coli(n=21, 67.7%)が最も多く, Klebsiella pneumoniae(n=5, 16.1%), Enterobacter cloacae(n=2, 6.5%), Citrobacter sp., Klebsiella aerogenes, Leclercia adecarboxylata(各n=1)であった。海外渡航歴無し・不明患者由来24株のうち17株は塩基配列決定による遺伝子型別結果が報告され, NDM- 1が2株, NDM-5が15株であった。一方で, 2017年の海外渡航歴無し・不明患者由来の5株はすべてNDM-1であった。2018年のKPC型検出株 (n=10) の菌種は, K. pneumoniae(n=9, 90.0%)が最も多く, 1株のみE. coliであった。OXA-48型検出株は, E. coli, K. pneu-moniae, S. marcescens各1株であった。

報告地域は, 2017年は6都県(うち海外渡航歴無し・不明患者由来株からの報告は3都県)であったが, 2018年は16都道府県(同12都道府県)と大幅に増加し, 大都市圏のみならず複数の地域で報告があった()。

2017年以降に病原体サーベイランスに報告された55株の海外型カルバペネマーゼ遺伝子検出株のうち41株(74.5%)が海外渡航歴無し・不明患者由来でありこれまで2)とは異なる疫学を呈してきている。調査によって海外での手術歴のある患者が確認された海外型カルバペネマーゼ産生株の院内感染事例3)の報告もあることから, 海外渡航歴のない入院患者から海外型カルバペネマーゼ遺伝子保有株が分離された場合は, 周辺に他の保菌者の存在を疑う必要があると考えられる。今後もCRE病原体サーベイランスにおいてその動向を注視するとともに, その情報を迅速に還元していく必要があると思われた。

 

参考文献
 
 
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
国立感染症研究所感染症疫学センター
全国地方衛生研究所

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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