国立感染症研究所

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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌病原体サーベイランス報告状況

(IASR Vol. 40 p19-20: 2019年2月号)

2017年3月に発出された通知(健感発0328第4号)により, カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症の届出があった際には, 地方衛生研究所等で当該患者より分離された病原体の試験検査を実施し, 結果を病原体検出情報システムに報告することとされた。本稿では, 病原体検出情報システムへの検査結果報告状況を示す。集計対象は, 病原体検出情報システムに報告された, 検体採取日が2017年1月1日~12月31日の865株1)および2018年1月1日~6月30日(以下, 2018年上半期)の575株(2019年1月15日現在)とした。

検査項目は上述の通知に示されており, 原則実施する項目と推奨される項目に大別される。そのうち, 13検査項目が病原体検出情報システムへの報告対象である()。遺伝子検査としてPCR法によるカルバペネマーゼ遺伝子検出, 表現型検査としてディスク拡散法等によるβ-ラクタマーゼ産生性の確認試験があり, これらの検査結果に矛盾がないことを確認することとされている。検査実施数と陽性数を表に示す。原則実施する検査項目のうち, 主要なカルバペネマーゼ遺伝子(IMP型, NDM型, KPC型, OXA-48型)の検出はすべての株で実施, 表現型検査もほぼすべての株で実施された。推奨される検査項目のうち, 比較的稀なカルバペネマーゼ遺伝子(VIM型, GES型, IMI型, KHM型, SMB型)の登録機関数や検査実施率は, 2018年上半期に上昇したが, カルバペネマーゼ産生性を確認するCarba NP testやCIMの登録機関数はやや減少した。これらの表現型検査は, 原則実施する検査項目ではないが, 結果解釈に有用であり, マニュアルの整備や研修等により実施率を高めていきたい。

精度管理として, 以下の報告は登録機関に問い合わせ, 内容の確認と必要に応じて修正依頼した。2019年1月15日現在のそれぞれの問い合わせ対象株数と修正株数を( )に示す。

①海外型カルバペネマーゼ遺伝子とされるNDM型, KPC型, OXA-48型陽性株の渡航歴のない患者からの報告(18株, 修正2株, 確認中1株), ②遺伝子検査と表現型検査の結果が矛盾する報告(13株, 修正12株, 確認中1株), ③入力形式の異なる報告(165株, 確認中1株を除き修正)。①についてはPCR増幅産物のシークエンスによる結果確定を依頼し, 修正された2株はPCR非特異バンドであったことが確認された。

原則実施する検査項目結果がすべて報告された株は, 2017年798株, 2018年上半期566株であった。これらの数をCRE感染症発生動向調査届出数(患者報告)である2017年1,660例(2018年10月27日現在), 2018年1月~6月末日849例(2018年12月14日現在)で除した値を報告率とした場合, 2017年は48%, 2018年上半期は67%であった。に都道府県別の報告率を示す。中央値は2017年が56%であったのに対し, 2018年上半期は80%と上昇した。さらに, 報告率50%以上は2017年には26府県であったが, 2018年には36府県と増加した。また, 県と市の登録機関によって報告率が異なる地域もあった。なお, 報告率100%を超える自治体があるが, これは届出対象以外の患者分離株や同一患者の複数分離株の報告が一部含まれるためと考えられる。

通知が発出されて1年半以上が経過し, CRE病原体サーベイランス体制が整いつつある。2017年の結果より, カルバペネマーゼ遺伝子保有株の分離は地域特性が認められることが示されており1), 今後も継続的かつ全国的な偏りのないサーベイランスのため, 集計結果の迅速な還元などの情報発信を通じてさらなる報告率と検査精度の向上も目指して取り組んでいきたい。病原体サーベイランスにご尽力いただいております皆様に心よりお礼申し上げます。

 

参考文献

 

国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
 松井真理 鈴木里和 菅井基行

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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