デング熱とは

(2014年10月14日改訂) ネッタイシマカなどの蚊によって媒介されるデングウイルスの感染症である。デングウイルスはフラビウイルス科に属し、4 種の血清型が存在する。比較的軽症のデング熱と、重症型のデング出血熱とがある。

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<速報>成田空港検疫所で確定診断されたデング熱・チクングニア熱・マラリア症例(2014年)

(掲載日 2015/5/27)  (IASR Vol. 36 p. 140-142: 2015年7月号)

はじめに:検疫所では検疫法第2条に基づき政令で定められた検疫感染症としてのデング熱、チクングニア熱、マラリアが疑われる場合に対し、同法第13条により診察および血液検査を実施している。昨年に引き続き、成田空港検疫所で2014年にこれらの血液検査において陽性と確認された症例についてまとめたので報告する。

対象および方法:成田空港検疫所では2014年1月1日~12月31日までにデング熱、チクングニア熱、マラリアが疑われた有症者266名に対して血液検査を実施した。検査実施の基準は、帰国時に38℃以上の発熱または38℃未満でも解熱剤を使用している場合で、検疫感染症に感染しているリスクが高いと診断された有症者とした。これらの有症者に対し採血を行い、デング熱にはReal-time RT-PCR法および迅速NS1検査が、チクングニア熱にはReal-time RT-PCR法が、マラリアにはpLDH/HRP2 Combo Card簡易試験および塗抹標本のアクリジンオレンジおよびギムザ染色での顕微鏡検査、Real-time PCR法が実施された。採血時には、渡航地、渡航期間、蚊刺の有無などの基本情報と体温、自覚症状なども聞き取られ、一部の検体では血球検査も実施された。

結 果:2014年の血液検査で、デング熱3例(男性2例、女性1例)、チクングニア熱3例(男性1例、女性2例)、マラリア1例(女性)が陽性と判定された。年齢、性別などの基本情報を表1に示す。デング熱の推定感染国は、ケニア(1例)、フィリピン(2例)であった。チクングニア熱3例は、ドミニカ国(1例)、フランス領ポリネシア(2例)であった。マラリアは、ブルンジ(1例)からであった。滞在期間は、デング熱が14~22日間(平均16.7日間)、チクングニア熱が8~22日間(平均13日間)であった。マラリアは24日間であった。蚊刺の自覚について、デング熱、チクングニア熱、マラリアともに全例で自覚があった。最初に症状を自覚してから検査までの発症病日はデング熱では3例とも3日間であり、チクングニア熱では1日~4日間までの幅がみられた。マラリアでは2日間であった。

検査時の体温はデング熱では1例を除いて38℃以上、チクングニア熱も1例を除いて38℃以上であった(表2)。マラリアでは37.5℃(マラリア治療薬の服用有り)であった。発熱以外でみられた自覚症状は、デング熱では倦怠感(2例)、頭痛・頭重感(2例)、関節痛(2例)、下痢(1例)であった。眼窩痛を示したものはいなかった。チクングニア熱では倦怠感(3例)、頭痛・頭重感(2例)、関節痛(3例)、発疹(1例)、寒気(1例)、下痢・腹痛(1例)、咽頭痛(1例)であった。マラリアでは倦怠感(1例)、頭痛・頭重感(1例)であった。

考 察:2014年1年間に当所で血液検査で陽性と判定されたデング熱3例は2013年の報告1)よりも少ないものの、チクングニア熱3例は2013年と同数であった。2013年になかったマラリア1例も検出された。検査件数266件(1~3月:106件、4~6月:55件、7~9月:75件、10~12月:30件)は、2013年の283件(1~3月:52件、4~6月:46件、7~9月:128件、10~12月:57件)より少ないものの、デング熱の輸入感染例249例から178例への減少よりは小さく、チクングニア熱は同数あったことから検出力は2013年と同等と考えられた。

デング熱について、2014年は国内で342例の届出があり、輸入感染例は178例であった2)。2014年も夏期に2例の検出があり、夏に多い傾向は続いていた。また、2013年と大きく異なる症状などもみられなかった。一方、成田空港で検出された例は2型と4型であった。国内感染例162例は、ほとんどが同一のウイルスからのデング熱1型で3)、国内に流行発生の大きな潜在性が示されており、これら2型と4型からの流行発生の可能性も存在していたことが示された。したがって、デング熱に対して出国前からだけでなく、帰国後にも発症時に迅速な対処ができるよう予防への情報発信が重要であることが示された。

チクングニア熱について、2014年の国内報告例数16例に対し、成田空港検疫所での検出数3例は、2013年(3/13例)と同様に高い検出割合である。2014年の3例は流行地からの帰国者である。2014年、デング熱の国内発生が注目された一方で、大洋州4)や中南米5)ではチクングニア熱の感染域も急速に拡大していた。チクングニアウイルスも流行の潜在性が増している。したがって、この検出は、水際での一定の役割を果たしていた。デング様疾患とも呼ばれるこれらのウイルスを、日本でも包括的に予防する対策を考える必要がある。さらに、チクングニア熱はデング熱と比べて感染輸入への意識が薄い。そのため、既に国内に感染輸入されている可能性も考えなければならない。

マラリアについて、2014年には熱帯熱マラリア1例が確認された。マラリアは東南アジアに限らず世界から感染輸入される可能性があり、既に毎年国内では70例前後の輸入感染例が報告されている6)。特に、熱帯熱マラリアは致命率が高いために、迅速な対処が必要である。海外渡航者数の増加に伴い、あらゆる輸入感染症のリスクが高まっている。発症時の迅速な対処および連携が強化されるべき課題となる。

謝辞:本報告にあたり、データをまとめる際に支援をいただいた足立玄洋氏をはじめ、検疫課職員、および検査課職員に厚くお礼申しあげます。

 
参考文献
  1. 牧江俊雄, 本馬恭子, 古市美絵子, 磯田貴義, 三宅 智, 成田空港検疫所で確定診断されたデング熱・チクングニア熱症例(2013),
    IASR 35: 112-114, 2014
  2. 国立感染症研究所感染症疫学センター, ウイルス第一部, デング熱報告例に関する記述疫学(更新)(2014年1~12月), 13 Feb 2015 http://www.niid.go.jp/niid/ja/dengue-m/dengue-iasrs/5410-pr4211.html
  3. 忽那賢志, 篠原 浩, 太田雅之, 金久恵理子, 小林鉄郎, 山元 佳, 藤谷好弘, 馬渡桃子, 竹下 望, 早川佳代子, 堀 成美, 加藤康幸, 金川修造, 大曲貴夫, 日本国内で感染した17例のデング熱症例, IASR 35: 241-242, 2014
  4. Roth A, Mercier A, Lepers C, Concurrent outbreaks of dengue, chikungunya and Zika virus infections - an unprecedented epidemic wave of mosquito-borne viruses in the Pacific 2012-2014, Euro Surveill 19(41): pii 20929, 16 Oct 2014
  5. Mowatt L, Jackson ST, Chikungunya in the Caribbean, An Epidemic in the Making, Infect Dis Ther, 23 Sep 2014
  6. 国立感染症研究所感染症疫学センター, 寄生動物部, 他, 感染症発生動向調査におけるマラリア報告症例の特徴 2006年~2014年前期,
    IASR 35: 224-226, 2014
 
成田空港検疫所
  検疫情報管理室 髙橋麻季子 牧江俊雄
  検疫課 磯田貴義 嶋田武文
  検査課 森脇奈緖子 佐々木さおり
  所長 原 德壽
 

 

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