デング熱とは

(2014年10月14日改訂) ネッタイシマカなどの蚊によって媒介されるデングウイルスの感染症である。デングウイルスはフラビウイルス科に属し、4 種の血清型が存在する。比較的軽症のデング熱と、重症型のデング出血熱とがある。

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デング熱・デング出血熱 2015~2019年

(IASR Vol. 41 p89-90: 2020年6月号)

デング熱は, デングウイルス(dengue virus: DENV)の感染によって生じる感染症である。DENVは, フラビウイルス科, フラビウイルス属に分類されるウイルスであり, 1-4型の4つの血清型からなる。DENVは蚊によって媒介される節足動物媒介性ウイルスの一つである。主な媒介蚊はネッタイシマカ(Aedes aegypti)およびヒトスジシマカ(Aedes albopictus)であり, ヒト→カ→ヒトの感染環により自然界に存在している。現在, ネッタイシマカは日本国内には分布していないが, ヒトスジシマカは北海道を除く広範な地域に分布している(本号3&4ページ)。ヒトはDENVに感染すると, 4~14日程度の潜伏期を経て発熱, 発疹, 疼痛(関節痛, 筋肉痛)などの症状を呈する(デング熱)。多くの場合, 後遺症を残すことなく回復するが, 時に出血症状や意識障害を呈し, 多臓器不全により死亡する場合もある。このような病態は重症デング熱と呼ばれ, デング出血熱, デングショック症候群等が含まれる。デング熱に対する特異的な治療法はない。デング熱に対するワクチンは, 海外の一部の国々では認可・使用されている(本号11ページ)。デング熱の主な流行地は, 世界の熱帯・亜熱帯地域である(本号5ページ)。日本国内で報告されているデング熱患者のほとんどは, 流行地域からの入国者(帰国者を含む)である。2019年には国内で2014年以来, 5年ぶりにデング熱の国内流行が発生した(本号6ページ)。

感染症発生動向調査

デング熱は感染症法において全数把握が必要である4類感染症に分類されている。そのため, デング熱を診断した医師は保健所を通して直ちに都道府県知事に届け出る必要がある。

デング熱の届出数は, 集計を開始した1999年の9例以降増加傾向にある。2015~2018年のデング熱・デング出血熱の届出数は, 201-343例で推移していた。また, 2019年には463例と過去最多であった(図1, 表1)。なお, 2014年には162例が, 2019年には4例が国内感染例として届け出されている(本号9ページ)。毎年1-4型それぞれの血清型のDENVによる感染例が確認されている。2011~2015年と2019年ではDENV-1型感染例が, 2016~2018年ではDENV-2型感染例が最も多かった。さらに近年ではDENV-3型も多く検出されている(IASR 36: 33-35, 2015参照)(表2)。

患者発生の季節性:8~9月に患者報告数が多い(IASR 36: 33-35, 2015参照)(図1)。これは旅行者の増加と渡航先のデング熱の流行状況に起因すると考えられる。これまでのデング熱国内発生例は夏季~秋季に認められた(図1)。

推定感染地:2015~2019年にデング熱と診断された患者(国内感染例は除く)の渡航先は少なくとも45カ国/地域である(表3)。輸入例1,540例のうち1,350例(88%)の渡航先はアジアであった。特に東南アジアが多く, これらの地域でのデング熱の流行状況と, 日本への入国者数の増加を反映していると考えられる。その他にはオセアニア, 中南米・カリブ, 中東・アフリカ, 欧米で感染したと推定される輸入例が報告されている。2019年は東南アジアをはじめ世界的にデング熱の流行規模が大きく, これらの地域からの輸入例が増加した(本号512ページ)。また2019年には感染地が日本国内である事例が確認された(本号8ページ)。

性別と年齢:2015~2019年に報告された海外感染例1,540例の性別は男969例(63%), 女571例(37%)であり, 20代, 30代, 40代の症例がそれぞれ259例(17%), 230例(15%), 187例(12%)であった(図2)。傾向として男性に多く, 20代の感染者数が最も多かった。

デング出血熱:デング出血熱症例は, デング熱として報告されている届出数のうち, 2015~2019年にかけて, 各年5例(1.7%), 12例(3.5%), 6例(2.4%), 4例(2.0%)および, 7例(1.5%)が報告されている(表1)。これら34例の年齢は13~79歳(中央値31.5歳)であった。男性は20例, 女性は14例で, それぞれ全体に占める割合はともに2%で男女差はなかった。デング出血熱による死亡例が2016年に1例報告された。

実験室診断:発症後間もない急性期にはウイルス分離検査, RT-PCR法による遺伝子検出, 非構造タンパク質NS1抗原検出等のウイルス学的診断が有用である。ウイルス分離や遺伝子検出によりDENVの血清型を同定することが可能である。NS1抗原検出キットを用いることで, 簡便にかつ迅速に結果を得ることができる。血清学的診断では, 特異的IgM抗体の検出や, 急性期と回復期のペア血清を用いた特異的IgG抗体や中和抗体の有意な上昇の検出が有用である(表4)。しかし, デング熱流行地ではDENVと血清学的に交叉する他のフラビウイルスの流行も認められることから, 必要に応じてこれらのウイルスに対する抗体価も調べる必要がある。デング熱の検査は, 地方衛生研究所, 国立感染症研究所(ウイルス第一部)等において実施されている。

日本におけるデング熱対策

日本はデング熱の非流行国である。2014年, 2019年に国内でDENVに感染してデング熱を発症した症例が報告されたが, いずれの流行もヒトスジシマカの活動が低下する晩秋から冬季にかけて終息し, 散発的であった。しかしながら近年デング熱の輸入症例が毎年数百例報告されていることから, 蚊の活動が活発化する季節にデング熱が国内で流行するリスクがある。

デング熱だけでなく, ジカウイルス感染症やチクングニア熱等蚊媒介感染症の流行に備えて2015年に厚生労働省より「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」が示されており, 平時からの媒介蚊対策の励行, 蚊媒介感染症発生の迅速な把握, 蚊媒介感染症発生時の媒介蚊に対する対策, 患者への適切な医療の提供等の指針が定められている。また, 実務的なガイドラインとして「蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5版)」が国立感染症研究所においてまとめられており, 疫学, 病態, 診断から届出, 治療, 予防に至る一連の手順等が示されている。国や地方の行政機関, 医療機関, 研究機関が連携して, デング熱をはじめとした蚊媒介感染症対策に当たることが求められる。サーベイランスを通じて, デング熱の国内流行を早期検出することが重要である。近年, デング熱症例が増えていることから, 海外デング熱の流行地に渡航する場合には, 虫よけスプレー等の忌避剤を適切に使用して, 蚊に刺されないようにすることがDENVの感染予防に重要である。

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