国立感染症研究所

IASR-logo

幼稚園で発生した細菌性赤痢の集団感染事例―北九州市

(IASR Vol. 38 p.103-104: 2017年5月号)

細菌性赤痢は赤痢菌(Shigella spp.)によって引き起こされる腸管感染症である。本疾患は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)における3類感染症に分類され, Shigella属は4菌種(S. dysenteriae, S. flexneri, S. boydii, S. sonnei)である。通常は潜伏期(1~3日)を経て発症し, 発熱, 腹痛, しぶり腹, 膿粘血便などの赤痢症状を呈する1)

 北九州市において, 2014年第42週以降にShigella sonnei(以下, S. sonnei)による細菌性赤痢症例が感染症発生動向調査に短期間で17例報告された。初期の3例から分離された株が北九州市環境科学研究所より国立感染症研究所細菌第一部に送付されMultiple-locus variable-number tandem repeat analysis(MLVA)法による遺伝子解析を実施した。これら初期の3株はMLVA法による解析結果が互いに一致していた。また, MLVA解析による型別結果からこの3株の所見と一致する株は国内の他県において認められなかった。このことから, 北九州市保健所は同一株の伝播によるアウトブレイクと判断し, 国立感染症研究所へ疫学的調査の専門技術的支援依頼がなされた。

17症例中14例がZ幼稚園に関連した症例であったが, 給食等飲食物を介した伝播の可能性は低かった。流行曲線上は, Z幼稚園内でのアウトブレイクは2つの期間に分かれて発生していた()。前半の症例群(10月5日~9日発症)は感染源・感染経路の共通項が見出せなかった。また, 前半の症例から後半の症例群(10月19日~25日発症)への感染伝播について検討したが, 症例群間のリンクは見出せなかった。一方, 後半の症例群は運動会後に発生していた。また, 運動会(10月19日開催)のチーム別では赤組(発症率10%)が白組(発症率0%)に比べて有意に高かった。よって後半の症例群は運動会を契機に感染伝播した可能性が高いと考えられた。後半の症例群の発端者は10月19日朝に腹痛および軟便の症状を呈し, 運動会の一部に参加した。さらに, 後半の症例群は園児から家族への感染伝播も認められた。Z幼稚園関連の症例発生は10月25日に発症した症例を最後に終息した。

市内の散発的発生はZ幼稚園と疫学リンクの無かった1家族と, リンクを有した2家族の計3家族の症例が発端となっていた。これらの家族間の共通因子としてはスーパーAのパン喫食があったが, 喫食から発症までの期間が赤痢の一般的な潜伏期に比べて短いことや喫食日が不明な家族がいたことから, さらなる検討は行っていない。その他に, 共通食材やイベントの可能性を検討したが, これらの共通性は認められず, 市内の散発発生の原因は不明であった。2015年1月22日の時点で, 北九州市において10月25日以降今回の事例に関連する細菌性赤痢の症例は発生していない。

赤痢菌は少量の菌量でも感染が成立することから, 手指衛生などの衛生管理が難しい幼児が長時間を過ごす場である幼稚園内で感染が拡がりやすい2-4)。また, 同じ理由で幼児を抱える家族内においても容易に二次感染を起こす5)。このため, 幼稚園児に細菌性赤痢が発生した場合は, 幼稚園および自治体は速やかに保護者へ情報提供を行い, 幼稚園内および家庭内における感染伝播防止に協力してもらうことが重要である。この際, 体調不良の児については運動会に限らず登園を避けるように保護者に依頼することが望ましい。さらに, 症例探知後は早急に積極的疫学調査を実施し症例の把握に務めること, 日常より園児, 教諭, 保護者の3者が一体となって感染症対策の向上に取り組むことが重要であると考えられた。

 

参考文献

 

国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース 加藤博史
同 感染症疫学センター 八幡裕一郎 松井珠乃 大石和徳
同 細菌第一部 泉谷秀昌 大西 真
北九州市保健医療課 城戸妙子 堀 優子
同 保健所 大浦範子 戸根珠美 吉本勝彦
同 環境科学研究所

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version