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保育所で発生した腸管出血性大腸菌O157:HNMの集団感染事例―福井県

(IASR Vol. 33 p. 196-197: 2012年7月号)

 

2011(平成23)年12月9日に福井県嶺南振興局二州健康福祉センターに腸管出血性大腸菌感染症発生届(初発)が提出された。初発患者の疫学調査等の結果、患者が通う保育所で数名の有症者がいたことから、患者の濃厚接触者(家族)、患者の便を処理した保育所の職員および有症園児の検便を当センターが実施した。

12月10日に搬入された便のうち、有症園児2名および職員1名からO157:HNM(stx 1&2)が検出されたため、検便対象を全園児(142名)および全職員(24名)に広げた。最終的に園児131名、職員24名および濃厚接触者75名の計230名の検査を当センターで実施し、園児10名、職員2名、濃厚接触者10名がO157:HNM(stx 1&2)陽性となった。医療機関で検便を実施し陽性となった4名を含めると、27名のO157:HNM(stx 1&2)感染が確認され、うち有症者は18名で無症状病原体保菌者が9名であり、有症かつ菌が陽性となった者の発症状況は図1のとおりであった。

園児および職員の発症日は、12月2~10日の間で散発しており、保育所給食による食中毒の可能性は否定された。また、菌陽性者は3~4歳が多く、症状は腹痛、軽い下痢や軟便もしくは無症状で、血便症状のある者はいなかった。初発患者の感染源は疫学調査等の結果からは不明であった。

分離培地はCT-SMACおよびクロモアガーO157を併用し、糞便の直接塗抹培養およびノボビオシン加mEC(NmEC)で増菌後に免疫磁気ビーズ(デンカ生研)で集菌して塗抹培養した。直接塗抹によるCT-SMACの感度は81.8%、特異性は62.1%であった。一方、クロモアガーO157の感度は68.2%、特異性は28.8%で、本事例においてはCT-SMACの方が分離に適していた。また、増菌後免疫磁気ビーズ処理でのみ陽性となった検体も4検体あり、増菌および免疫磁気ビーズ処理の必要性も再確認された。

医療機関からの発生届5件のうち、4件はstx 1のみの検出報告で、当センターのRPLA結果[stx 1陽性、stx 2陽性(1:4)]およびPCR結果(stx 1&2陽性:小林らのPrimerを使用)と食い違ったため、検査方法について調査したところ、2件がデュオパスベロトキシン(極東製薬)、2件がVTEC-RPLA(デンカ生研)を使用とのことであった。その後、当センターにおいてWangらのprimerによるPCRを実施し、stx 2c保有を確認した。さらに、Tylerらの報告に基づくPCR-RFLPを実施したところ、stx 2vhaを保有することが判明したため、結果の食い違いはstx 2のバリアントに起因するものと考えられた。分離株について制限酵素Xba I処理によるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施したところ、ほぼ同一パターンを示した(図2)。

以上の結果より、本事例はstx 1およびstx 2vhaを保有するO157:HNMが、初発患者から直接または患者の便処理をした職員等を介して、他の園児に感染し、さらに各園児の家族へと感染が広がったのではないかと推察された。

 

福井県衛生環境研究センター 永田暁洋 大村勝彦 津持文子 石畝 史
嶺南振興局二州健康福祉センター 定由道子 武藤 眞

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan