国立感染症研究所

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国立感染症研究所

インフルエンザウイルス研究センター 第1室

全国地方衛生研究所

流行株抗原性解析

 国立感染症研究所(感染研)では、国内で流行するインフルエンザウイルスの性状を把握し、インフルエンザ対策およびワクチン株選定に役立てるため、全国地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、解析を行っている。

 流行株とワクチン株の抗原性を比較する目的で、フェレット感染血清を用いた赤血球凝集阻止(HI)試験または中和試験による抗原性解析を実施した。

 現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。

 抗原性解析試験:結果の見方

2018/2019シーズン抗原性解析結果 (データ更新日:2019年10月1日)NEW

A(H1N1)pdm09 : 2019年2月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したほぼ全ての株において、WHOのワクチン推奨株であるA/ミシガン/45/2015(細胞分離株)、および国内のワクチン製造株で、A/ミシガン/45/2015と抗原的に類似しているA/シンガポール/GP1908/2015(ワクチン製造株)と抗原性が類似していた(図1)。

A(H3N2) : 2019年2月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したほぼ全ての株において、A/シンガポール/IFNIMH-16-0019/ 2016の細胞分離株に対するフェレット感染血清とよく反応した。
 一方で、国内ワクチン製造株であるA/シンガポール/IFNIMH-16-0019/ 2016 (IVR-186)に対するフェレット感染血清では、解析したほぼ全ての株において反応性の低下が認められた。これは鶏卵での増殖能獲得(鶏卵馴化)に伴い、元株からの抗原性変化が生じたことに起因している。したがって、ワクチン抗原と流行株の抗原性相違が推定される(図2)。
  

B(ビクトリア系統):2019年2月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した流行株の約7割が、WHOのワクチン推奨株であるB/コロラド/06/2017(細胞分離株およびワクチン製造株)と抗原性が類似していた(図3)。

B(山形系統):2019年2月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したほぼ全ての株において、WHOのワクチン推奨株であるB/プーケット/3073/2013(細胞分離株およびワクチン製造株)と抗原性が類似していた(図4)。

 

遺伝子系統樹
 国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室が解析した季節性インフルエンザウイルスの遺伝子配列を用いて、HA遺伝子系統樹を作成した。国内外で流行しているウイルスと比較するため、各地方衛生研究所にて分離された株の遺伝子配列だけではなく、海外で分離された株の遺伝子配列も解析に加えている。なお、海外の研究機関で解析された遺伝子配列はインフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data:http://platform.gisaid.org/epi3/frontend)から入手している。 
2018/2019シーズン系統樹(データ更新日:2019年10月1日)NEW

A(H1N1)pdm09:国内株はHA遺伝子系統樹上のクレード6B.1(共通アミノ酸置換:S84N, S162N, I216T、代表株:A/Singapore/GP1908/2015)内の6B.1A(S74R, I164T, I295V)に属していた(図1)。さらにS183Pを含む複数の群[183P-1:N451T/R45G, P282A, I298V, 0.8%、183P-2:L233I, 21.6%、183P-4:N129D+A141E, 4.1%、183P-5:N260D, 54.8%、183P-6:T120A, 2.9%、183P-7:K302T+I404M, 8.7%]、およびT120A群 (4.6%)、L161I+I404M群 (2.1%)など複数の集団を形成した。183P-2群内に、抗原性変異が疑われるN156Kアミノ酸変異を有する集団が形成されており、今後の流行状況に注視したい。NAタンパク質にH275Y置換を有するオセルタミビル耐性株は散発的に検出されているが、耐性株の流行は確認されていない。

A(H3N2):国内株は全て、HA遺伝子系統樹上のサブクレード3C.2a(L3I+N144S+F159Y+K160T+Q311H+D489N、代表株:A/Hong Kong/4801/2014)に属していた(図2)。解析株のほとんどは3C.2a内のサブクレード3C.2a1(N171K+I406V+G484E、代表株:A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016, 89.1%)、または3C.2a2(T131K+R142K+R261Q, 10.5%)に属し、1株のみ3C.2a3(N121K+S144K, 0.4%)に属した。3C.2a1はさらに、3C.2a1a(N121K+G479E+T135K+N122D)、3C.2a1b(N121K+K92R+H311Q)に分岐する。しかし解析された3C.2a1株は全て3C.2a1b内の3C.2a1b+135K (3C.2a1b+E62G+R142G+T135K, 7.1%)群、3C.2a1b+135N群 (0.8%)、あるいは3C.2a1b+131K (E62G+T131K+V529I, 81.2%)群に属した。なお、欧米では3C.2aとは抗原性が異なる3C.3aに属するウイルスが検出されているが、国内では今シーズンは検出されていない。今後の流行状況の変化に注視する必要がある。

B (ビクトリア系統):海外を含めて今シーズンの流行株はHA遺伝子系統樹上のクレード1A(共通アミノ酸置換N75L, N165K, S172P、代表株:B/Brisbane/60/2008、B/Texas/02/2013)内の、N129D+I117V+V146Iを有する集団に属していた(図3)。クレード1A内には、抗原性変異を示すサブクレード1A.1[共通アミノ酸置換I180V+R498K+2アミノ酸欠損(162, 163番目のアミノ酸)、代表株:A/Maryland/15/2016]および、K136E+3アミノ酸欠損(162〜164番目のアミノ酸)群、I180T+K209N+3アミノ酸欠損(162〜164番目のアミノ酸)群が検出されている。国内では、シーズン当初は各群のウイルスが混在していたが、シーズン後半にはK136E+3アミノ酸欠損株が主流となった。

B (山形系統):解析できた流行株は少ないが、HA遺伝子系統樹上のクレード3(共通アミノ酸置換S150I, N165Y, N202S, S229D)内でB/Phuket/3073/2013株を代表とする群(共通アミノ酸置換N116K, K298E, E312K)内のL172Q+M251V群に属した(図4)。 

 

 

 

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