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日本における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者から分離されたSFTSウイルスゲノム配列による系統学的解析

(IASR Vol. 35 p. 35-37: 2014年2月号)

 

国内で初めて重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)と診断された患者および後方視的に診断された患者10名の計11人中8人の患者血液から、SFTSウイルス(SFTSV)遺伝子配列が検出された。SFTSV ゲノムS、M、Lセグメント全長の塩基配列をRT-PCRと次世代シークエンシングを用いて決定し、各セグメントの塩基配列を中国で分離されたSFTSV株を含め系統学的に解析した(図1)。中国株は塩基配列の違いによって4系統のクラスターを形成していることが知られている。一方、日本で分離された8株のSFTSVは中国株とは独立したクラスターを形成し、さらに日本株が形成するクラスターには既存の中国株は一つも含まれていなかった。この結果はS、M、Lセグメントの解析に共通して認められた。すなわち、日本には土着のSFTSVが存在し、中国株との遺伝子交雑や遺伝子再集合という現象は起きていないことが示唆された。日本株8株のSFTSVは中国、四国、九州の3地方6県の患者から分離されたが、株間における塩基配列の類似性と地域性との関連は認められなかった。さらに日本株のうちひとつの株(SPL004A株)は他の7株が形成するクラスターから外れたものであった。このことより中国株同様、日本株でも少なくともクラスターの異なる2系統が存在することが示唆された。

次にSFTSV各株についてS、M、Lセグメントの塩基配列、そしてLセグメントがコードするRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)、Mセグメントがコードする膜糖タンパク質(GPC)、Sセグメントがコードする核タンパク質(N)、非構造タンパク質(NS)のアミノ酸配列の相同性を比較した(表1、日本株間での比較は灰色で強調してある)。日本株間のS、M、Lセグメントそれぞれにおける塩基配列の相同性は、SPL004Aを除いた日本株間では98%以上であった。これが日本株と中国株の比較になると、特にMセグメントにおいて94%(17塩基あたりに1塩基程度の違いがある)と比較的低い値であった。一方、アミノ酸配列の相同性は日本株間では99%以上、中国株と比較しても97%以上の値であった。つまりSFTSV各遺伝子のアミノ酸配列は中国株と日本株の区別なく良く保存されており、多くの塩基配列の違いは同義置換であることが分かる。2013年の1年間でさらに40人のSFTS患者が確認されており、今後より詳細な分子疫学的な調査研究がなされ、さらには遺伝子交雑やクラスターに関する情報が蓄積されていくものと考えられる。

 

国立感染症研究所ウイルス第一部 吉河智城 西條政幸

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