国立感染症研究所

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家族内発症2名の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者を含むSFTS患者5名の臨床的特徴

(IASR Vol. 34 p. 312-313: 2013年10月号)

 

2013年1月に国内で初めて重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス(SFTSV)による感染症患者が報告された1)。その後、西日本にて38例の報告があり、うち16例が死亡している(2013年8月16日現在)。

2013年5~7月にかけて家族内発症の患者2名を含む5名のSFTS患者を経験した。国内のSFTS患者において高い死亡率が報告されているが、今回治療介入した5名のうち4名が回復した。その臨床的特徴と治療経過について報告する。

5名とも愛媛県中南西部在住者で、発症前の海外渡航歴や県外移動歴はなかった。5名の年齢は50歳以上(50代男性1名、70代女性2名と男性1名、90代女性1名)で、そのうち2名は同居している親子であった。5名とも何らかの形で農作業に従事し、4名にはダニ刺咬痕が認められた。5名で38℃以上の発熱、消化器症状(下痢、嘔気)、血小板減少、白血球減少、肝機能障害、血清フェリチンの上昇、DダイマーとFDP上昇が認められ,CRPは陰性であった。3名で尿検査にて顆粒円柱、蛋白尿など尿細管障害を示唆する所見が認められた。5名で骨髄穿刺にてマクロファージによる血球貪食像が確認された。全員の急性期血液からSFTSV遺伝子が検出され、SFTSと診断された。治療として消化器症状に対する対症療法、日本紅斑熱を考慮して4名にミノサイクリンを投与し、血球貪食症候群に対する治療として4名にステロイドを投与した。

患者:50代男性、70代女性、70代男性
3名に対してメチルプレドニゾロン1,000 mg/日を3日間投与した。数日内に白血球数、血小板数は増加に転じ、消化器症状も改善した。肝機能障害、フェリチンなどその他検査値異常も1週間前後の経過で正常化し、特に合併症なく退院した。

患者:90代女性
来院時発熱は認められたが、バイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸状態)は安定していた。しかし、失見当識障害がみられ、意思疎通は困難であった。血清フェリチン値が6,507 ng/mlと著明に上昇し、血小板数は2.5万/μlと低下していた。メチルプレドニゾロン500 mg/日を3日間投与し、第3病日を境にして白血球数と血小板数は増加に転じた。第5病日に急性硬膜下血腫および肺炎を発症し、喀痰の分泌が増加し、呼吸状態も悪化し、さらに意識レベルが低下した。対症療法と抗菌薬治療を施行したが呼吸状態が改善せず第9病日に死亡した。

患者:70代女性
前述の90代女性の娘で、母親が発症した3日後に発熱と消化器症状が出現した。骨髄検査で血球貪食像を認めたが、顆粒系細胞の増加が認められた。血小板数は9万/μl、血清フェリチン値170 ng/mlと上昇していたが、その程度は軽度だったことから血小板数の自然回復が期待できたためステロイドを使用せず加療した。症状、血液検査異常も第2病日には改善傾向がみられ、徐々に軽快した。また、この患者から増幅されたSFTSV遺伝子の塩基配列が母親から増幅されたそれと一致し、由来を同じくするSFTSVによる感染と考えられた。SFTSVは体液を介してヒト-ヒト感染することが報告されている2)。本患者も母親の介助、汚物の処理や衣類の交換を行っていたが、本患者においても大腿部にダニ刺咬痕が認められていた。そのため、ヒト-ヒト感染による発症であるのか、ダニ刺咬による発症であるかは断定できていない。いずれにしても、消化器症状を伴う発熱患者を診察する医療機関においては普段から標準予防策を行い、SFTSが疑われる患者に対しては接触予防策を併せて行うことが重要である。

血球貪食症候群に対する治療として小児ではデキサメサゾン、エトポシドの使用が推奨されているが3)、成人において確立された治療法は存在しない。4名の回復患者に早期のステロイド投与がなされ、3名は合併症を発症することなく回復した。また、今回提示したようにステロイド未使用でも改善する患者の場合もある。今回の報告は、SFTSにステロイド投与を必ずしも推奨するものではない。これまでにSFTSに対してステロイド治療が有効だったという報告はなく、今後の報告の蓄積が待たれる。また高フェリチン血症を呈する疾患として一般的に血球貪食症候群、成人スチル病等が考えられ、その他の鑑別疾患として悪性リンパ腫など悪性腫瘍、SLEや血管炎など自己免疫疾患、血流感染、日本紅斑熱などダニ媒介性リッケチア感染症も考慮される。病歴聴取や身体診察、血液培養の採取など発熱患者に対する通常の診断アプローチは当然なされるべきである。

最後に、SFTSVの検出に協力いただいた国立感染症研究所の関係各位に深謝する。

 

参考文献
1) 西條政幸, 他,IASR 34: 40-41, 2013
2) Gai Z, et al., Clin Infect Dis 54: 249?252, 2012
3) Henter JI, et al., Pediatr Blood Cancer 48(2): 124, 2007

 

愛媛県立中央病院 総合診療科 本間義人 村上晃司     
            呼吸器内科 山本千恵    
伊方町国民健康保険瀬戸診療所内科 川上貴正    
市立大洲病院内科 清水祐宏    
愛媛県立衛生環境研究所  山下育孝 青木里美 菅 美樹 四宮博人

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