logo40

リケッチア感染症と臨床的鑑別が困難であった軽症の重症熱性血小板減少症候群の1例

(IASR Vol. 35 p. 39-40: 2014年2月号)

 

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)は、2011年に中国の研究者らによって発表されたブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新しいSFTSウイルス(SFTSV)によるダニ媒介性感染症である1)。2013年1月に国内の最初の症例が報告され、2005年の我々の自験例も含め本邦におけるSFTS感染症の臨床的特徴が報告されている2)。現在のところ、本邦における致死率は32.5%ときわめて高い感染症である。今回、臨床症状、所見が軽症で、救命しえた症例を経験したので報告する。

症例:60歳 男性
既往症:膜性腎症、前立腺癌(術後)
家族歴:特記事項無し
ペット飼育歴:野鳥(1990年頃)
生活歴:広大な裏庭を保有しており、農作業が趣味。2013年2月にハワイ、同年3月にタイへの渡航歴あり
主訴:発熱、発疹、皮疹
現病歴:2013年4月14日と21日に、自宅裏の草むらを含む複数の場所で作業を行っていた。4月21日夜より39℃台の発熱が出現し、翌日、近医を受診した。cefepimeが3日間処方されるも解熱がみられず4月26日に再受診した。受診時に膝の裏に点状皮疹を認め、血液検査でWBC 2,000/μL、Plt 5.1万/μL、AST 607 IU/L、ALT 209 IU/Lと、2系統の血球減少と肝機能障害を認めたため、精査加療目的で同日、当科紹介受診となった。意識障害、消化器症状、出血症状は認めていなかった。
身体所見:身長165cm、体重63kg、意識清明、血圧120/70mmHg、脈拍76/min、体温39.2℃、SpO2 94%(室内気)、心音・呼吸音:異常なし、腹部:平坦、軟、圧痛なし、肝脾腫:なし、神経学的所見:異常なし、表在リンパ節:触知なし、右大腿外側面と左膝裏の刺し口様皮疹とその周囲に点状皮疹
検査所見: WBC 1,700/μL、Plt 4.4万/μL、AST 614 IU/L、ALT 211 IU/L、γ-GTP 51 IU/L、LDH 771 IU/L、CK 530 IU/L、BUN 11mg/dL、Cr 0.97 mg/dL、CRP 0.21 mg/dL、BUN 16.6 mg/dL、プロカルシトニン 0.19 ng/mL、フェリチン 2,910 ng/mL、sIL-2R 1,282 U/mL、PT INR 1.07、APTT 40.2 sec、FDP 11.9 μg/mL、D-dimer 6.3 μg/mL、尿タンパク 4+、尿潜血 3+、骨髄穿刺所見:slight hypocellular bone marrow、明らかな血球貪食像はなし、胸部単純X線、CT、腹部CT:異常所見なし
血清学的検査:
① SFTSV RT-PCR検査:陽性、IgG、IgM抗体検査:急性期(4/26)陰性→回復期(5/15)陽性
Orientia tsutsugamushiRickettsia japonica IgG、IgM抗体検査:急性期(4/26)、回復期(5/15)ともに陰性

考察:発熱出現後5日目の受診で、病歴、ダニ刺し口様所見、検査所見などから、当初よりダニ媒介性感染症を疑っていた。入院後の臨床経過を図1に示す。SFTSVの検出まで時間を要することもあり、リケッチア感染症の治療として、minocycline、ciprofloxacinを開始し、免疫グロブリン製剤も使用した。また、急性期DIC診断基準を満たしており、トロンボモジュリンを使用した。血球貪食症候群は認められず、ステロイド薬は使用しなかった。これらの治療開始翌日には解熱がみられ、その後、順調に改善した。解熱する経過はリケッチア感染症のminocyclineやciprofloxacinに対する治療反応性にきわめて類似していたため、リケッチア感染症を強く疑った症例であったが、結果的に、リケッチア感染症の血清学的検査は陰性であり、SFTSVによる単独感染症と診断された。SFTS感染症の予後不良因子3)である多臓器不全、出血症状、意識障害を有しない軽症のSFTS症例であり、救命しえたが、現在のところ、治療法は確立されていない。

 

参考文献
1) Yu XJ, et al., N Engl J Med 364(16): 1523-1532, 2011
2) Takahashi T, et al., J Infect Dis, 2013 Dec 12, doi: 10.1093/infdis/jit603 [Epub ahead of print]
3) Gai ZT, et al., J Infect Dis 206(7): 1095-1102, 2012

 

長崎大学医歯薬学総合研究科呼吸器病態制御学(第二内科) 
  泉川公一 宮村拓人 原信太郎 住吉 誠  髙園貴弘 中村茂樹 今村圭文 宮崎泰可 河野 茂    
長崎大学熱帯医学研究所ウイルス学分野  
  早坂大輔 余 福勲 森田公一

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan