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重症熱性血小板減少症候群の検査法

(IASR Vol. 35 p. 40-41: 2014年2月号)

 

2011年に中国で初めて報告1)がなされた重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)は、日本国内で発生していることが明らかにされた。そのため日本国内でSFTSウイルス(SFTSV)に感染する場合と中国でSFTSVに感染して帰国後にSFTSを発症(輸入感染症)する場合も考えられる。2013年1月に国内でのSFTS患者発生が確認されて以来、日本全国の医療機関、検査機関の協力を得て、SFTSに関する後方視的および前方視的な調査研究が継続して行われている。今後もSFTSに関するウイルス学的検査が広く行われることが必要となると考えられる。そこで、現在、国立感染症研究所(感染研)ウイルス第一部で開発され、実施されているSFTSV検査法の概要を紹介する。

SFTSV遺伝子検出法
PCRによる病原体遺伝子検出は、感度、特異性が比較的高く、現在では感染症診断に不可欠の検査法のひとつである。SFTS疑い患者血液中のSFTSV遺伝子検査にはコンベンショナルRT-PCR法が使用されている。本法は、1本の反応チューブ内で逆転写反応・遺伝子増幅を連続的に行い、SFTSV遺伝子を検出する、いわゆるワンステップRT-PCR法である。なお、単独のプライマーセットでは増幅できないウイルス株が存在する可能性を考慮して、1検体につき、2種類のプライマーセットが用いられている。今後、遺伝子配列情報を蓄積し、遺伝子検出法を改良することにより、どちらか一方のプライマーセットで対応できるようになると思われる。また、陽性コントロールサンプルの汚染により擬陽性と判定されることを防ぐため、本法に用いられる陽性コントロールはSFTSV遺伝子のそれとは異なるサイズのPCR増幅産物を示すように合成されている(図1)。増幅されたPCR産物サイズが陽性コントロールのサイズを示す場合は、コンタミネーションによる結果と考えられる。陽性コントロールには人工的に遺伝子配列(EcoRIの認識配列)が挿入されているため、制限酵素 (EcoRI)処理により容易に判別できるように工夫されている(図1)。2013年3月に各地方衛生研究所(地衛研)に本検査システムを提供した。現在、地衛研では本法によるSFTSV遺伝子検出の実施が可能である。各地衛研でSFTSV遺伝子陽性と判定された場合には、感染研ウイルス第一部において、当該検体を再検査し、判定結果を二重にチェックしている。

SFTSV抗体検出法
血清学的診断には急性期および回復期(発症2週間以降)のペア血清を用い、IgG抗体価の有意な上昇の確認またはIgM抗体の検出が必要である。感染研ではSFTSV感染細胞と非感染細胞を1:3の比で混合し、これを抗原とした間接蛍光抗体法により(図2)、SFTSVに対するIgG抗体価あるいはIgM抗体価を測定している。また、SFTSの血清疫学的調査に有用な、SFTSV感染細胞を抗原としたIgG ELISA法も整備している。

ウイルス分離法
急性期患者血清をVero細胞に接種し、数日~数週間培養後、ホルマリン固定してから細胞中SFTSV抗原の有無を判定する。その判定はSFTSVに対する特異的抗体を用いた間接蛍光抗体法による。SFTSVは、感染症法上の三種病原体に指定されている。ウイルス分離検査は感染研の三種病原体等取り扱い施設の基準を満たしているBSL3実験室内で行われている。検体の保存状態、発症後から採取までの日数等により、SFTSV遺伝子検査で陽性の検体であってもウイルス分離が不可能な場合がある。

今後の課題
我々は、これまでに蓄積されてきたSFTSV遺伝子配列情報をもとに、遺伝子定量PCR法の開発・改良を行っている。本法により、患者血清中のウイルス量を測定することが可能となると予測される。また、SFTSVの患者血清中のウイルス量をさらに簡便に測定可能とするための抗原補足ELISAの開発にも着手している。今後もSFTS診断法を改良し、より正確にかつ迅速に診断できるようにする必要がある。さらに迅速に簡易に診断するためのキットの開発が必要である。

 

参考文献
1) Yu XJ, et al., N Engl J Med 364: 1523-1532, 2011

 

国立感染症研究所ウイルス第一部 
 福士秀悦 吉河智城 谷 英樹 福間藍子 下島昌幸 西條政幸

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