国立感染症研究所

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SFTSウイルスの国内分布調査(第三報)

(IASR Vol. 37 p. 50-51: 2016年3月号)

1.マダニにおけるSFTSV遺伝子保有状況
九州から北海道の26自治体で2013~2015年にかけて国内のマダニの重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)遺伝子保有状況をリアルタイムRT-PCRで調査した結果、複数のマダニ種(タカサゴキララマダニ、フタトゲチマダニ、キチマダニ、オオトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ等)から、SFTSV遺伝子が検出され、患者が発生している自治体に限らず全国的にウイルス遺伝子陽性マダニが分布していた(図1)。植生マダニとシカに付着していたマダニにおけるウイルス遺伝子陽性率には有意差(Fisher’s exact testでp=0.0001で有意)が認められた。植生マダニは複数匹をプールして遺伝子検出しているため陽性率は7~16%、シカに付着していたマダニは1匹ずつ遺伝子検出した結果、44%がウイルス遺伝子陽性であった。このことから動物付着マダニ間で水平感染することが推測された。また、抗体陽性シカに付着しているマダニでも遺伝子陽性率が高いことが明らかにされた。他のマダニ媒介性ブニヤウイルスでは抗体陽性動物に付着したマダニ間でも水平感染することが知られているが、SFTSVでも同様に抗体陽性動物に付着したマダニ間でも水平感染する可能性がある。

2.ニホンジカのSFTSV抗体保有状況
九州から北海道の28自治体で2007~2015年にかけて捕獲されたニホンジカのSFTSV抗体保有率を調査した。その結果、患者の発生している自治体、発生していない自治体のいずれからも抗体陽性動物が見出され、全体で抗体陽性率は24%であった(図1)。患者が発生している自治体ではニホンジカの抗体陽性率は37%で、発生していない自治体での陽性率は8.4%と有意差(Fisher’s exact testでp=0.0001で有意)が認められた。この結果から、動物の抗体陽性率と患者数には相関関係があると推定された。そこで、2015年度に捕獲されたニホンジカのSFTSV抗体保有率と、SFTS患者が発生している自治体の2015年の患者数に相関があるかを解析した。その結果、相関係数0.82(決定係数0.68)と正の相関があることが明らかとなった(図2)。

3.まとめ
今回の調査は、前回の調査〔SFTSウイルスの国内分布調査結果(第二報);IASR 35: 75-76, 2014〕をさらに拡大して実施されたものである。マダニ、動物に関する研究調査は全国的になされてはいないが、SFTSVは調査がなされていない自治体を含めて国内に広く分布していると考えられる。また、ニホンジカを含めて動物でのSFTSVの感染率が高くなると患者が発生するリスクが高くなることが分かった。野生動物とマダニ間でSFTSVの感染環が成立していたが、この感染環と人の生活圏があまり重ならない状況では人へのリスクは低くなると考えられる。患者が発生している西日本ではウイルスの感染環が人の生活圏へと拡大していると考えられる。患者発生地域に限らずマダニ刺咬予防、イヌなどの飼育動物のマダニ対策等が重要と思われる。狩猟等により捕獲された野生動物のジビエ等利用のための解体等には手袋着用なども有効と思われる。また、患者発生がない地域でも継続的な動物の血清疫学等により患者発生のリスクを評価することが重要である。

なお、今回の調査にあたって御協力をいただいた、大日本猟友会、各自治体の猟友会、猟師の皆様ならびに多くの自治体関係者の皆様に深謝申し上げます。

 

国立感染症研究所獣医科学部
  森川 茂 木村昌伸 朴ウンシル 今岡浩一 宇田晶彦 堀田明豊 藤田 修 古山裕樹 加来義浩
 同昆虫医科学部 澤辺京子
 同細菌第一部 川端寛樹
 同ウイルス第一部 安藤秀二 西條政幸
山口大学共同獣医学部
  前田 健 鍬田龍生 下田 宙 高野 愛
馬原アカリ医学研究所 藤田博己
福井大学医学部 高田伸弘

 

 

 

 

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