(2014年05月13日改訂)
海産魚介類の生食を原因とする寄生虫症の中でも,我が国で最も多発するものがアニサキス症である.日本人の食習慣からみて,アニサキス症は我が国でかなり古くからあった病気と考えられるが,原因となる虫種が確定されたのは1960年代である.当初は診断の方法がなく,激しい腹部症状から開腹して患部が切除され,病理学的に初めてアニサキス症であると証明された事例がほとんどであった.しかし1970年代以降には内視鏡検査の普及とともに,生検用鉗子での虫体摘出が可能となり,予想外に多数の本症例が発生していることが明らかにされた.このような診断技術の高度化に平行するように,生鮮食料品の輸送体系が近代化されてきたことが,現在に至るアニサキス症発生の増加と広域化の前提となっている.