国立感染症研究所

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<速報> 神戸市における風疹発生状況と脳炎患者からの風疹ウイルスの検出

(掲載日 2012/10/23)

 

はじめに
神戸市の2011年の風疹患者発生届出数は2名(IgM抗体による検査診断)であったが、2012年3月以降増大し始め、8月31日までに54名(男性39名、女性15名)の発生が届けられた(図1図2)。届出は20~50歳代の男性が63%を占めており、ワクチン未接種者かつ未感染者が多いと考えられる年代の男性層に集中している。

検査診断
1.材料と方法 
神戸市環境保健研究所では3月以降、風疹および風疹疑い患者27名、麻疹疑い患者9名、脳炎患者1名の検体から風疹ウイルスの検出を試みた。遺伝子検査は、咽頭ぬぐい液、血漿、尿からRNAを抽出し、感染研より推奨されたNS領域またはE1蛋白質領域を対象としたnested RT-PCR法を実施した。

また、風疹ウイルス遺伝子が検出できた咽頭ぬぐい液はVero-E6に接種し、ウイルス分離を実施した。分離培養液はイーグルMEM 100mlにMEM vitamins solution(×100)を 4ml、トリプシン(1mg/ml)を0.2ml、10%glucoseを2ml添加したものを使用した。約1週間培養後、培養液を回収した。

型別はE1領域の739bpについてダイレクトシークエンスを行い、標準株を使用して近隣結合法による系統解析(ClustalW)を行い決定した。NS領域の増幅が確認されながらもE1領域での型別ができないものは分離ウイルスを使用して型別を実施した。

2.結 果
14名(男性9、女性5)から風疹ウイルスを検出した(表1)。ウイルス分離は遺伝子検出された検体のうち11検体(咽頭ぬぐい液)で実施した。ウイルス分離中に顆粒状の円形細胞が出現した検体もあったが、円形細胞が顕著に増えることがなく途中で消失するものもあり、著明なCPEの出現はなかった。接種約1週間後に回収した培養上清の抽出RNA液を10-1~10-6階乗希釈し、NS遺伝子のRT-PCR法による検出を実施したところ、first stepにおいて10-5~10-6希釈までNS遺伝子が検出され、ウイルスが分離されたことを確認した。

風疹ウイルスが検出された患者の診断名は風疹(疑いも含む)10名、麻疹疑い3名、脳炎(詳しくは後述)1名であった。検出患者の年齢中央値は34.3歳であった。麻疹疑い患者3名の麻疹ウイルスの遺伝子検査およびウイルス分離の結果は共に陰性であった。なお、神戸市では2012年1~8月まで麻疹疑い患者14名について実施した遺伝子検査および分離による麻疹ウイルスの検出はゼロである。

14名中1名のみは発熱が無く、有熱者の平均体温は38.1℃であった。14名全員に発疹がみられた。リンパ節腫脹のあったものは12名で、頚部の腫脹がほとんどであったが、少数ながら耳介後部、顎下の腫脹もみられた。その他、関節痛・結膜炎(眼球発赤)・頭痛等の症状がみられた。ワクチン接種歴がある患者は1名のみで、無しが9名、不明が4名であった。

検体から直接行ったRT-PCR法において、NS領域の増幅が見られた14名のうち11名においてE1蛋白質領域の739塩基を決定することができた。No.9、13は検体ではE1領域の一部しか増幅できず、またNo.7はE1領域が増幅できなかったため、分離したウイルス液を使用してE1蛋白領域を増幅し配列を決定した。No.7、9、13の接種1週間後の培養上清の抽出RNAは10-4~10-5希釈までE1領域の遺伝子が検出された。

系統解析の結果(図3)、遺伝子の型別はNo.6が1Eであったが、それ以外はすべて2Bであった。2Bの13株の遺伝子配列は99~100%の相同性があり、11株の配列は100%一致した。No.4はその他の配列と2塩基の同義置換があり、No.11はその他の配列と1塩基の非同義置換(Ile→Met)が存在した。検体から直接E1領域による遺伝子型が決定できなかったNo.7はワクチン既接種で、排出ウイルス量が他と比較して少なかった可能性が示唆された。

脳炎の症例
27歳男性、既往歴はアレルギー性鼻炎、常用薬無し。風疹ワクチン接種歴無し。2012年7月25日頃から発熱・咳・発疹が出現し、近医受診。両手・背中・腹部に水疱形成を伴わない赤い発疹を認めた。掻痒感無し。コプリック斑無し。眼脂無し。左頚部リンパ節腫脹あり。鎮咳薬、胃薬、解熱薬が処方された。この時の血液検査では風疹IgM陰性、麻疹IgM陰性であった。7月29日頃にはいったん皮疹は消退したが、37℃と微熱が続いていた。7月30日朝から嘔吐あり。同日21時頃、上肢中心にぴくぴく動くような震えがあり、座位が保持できず、救急搬送された。搬送時、意識レベルは呼びかけで開眼、痛み刺激で少し顔をしかめるが発語はほとんどみられなかった。また、1分程度の全身強直性痙攣が認められた。項部硬直あり。顔面に1mm未満程度の紅色皮疹が散在。両側下顎リンパ節、頚部リンパ節腫大あり。眼振を認めた。髄液検査では細胞数 205/3 mm3(単核球 142、多核球63)、蛋白141 mg/dlと、髄膜脳炎を示唆する所見を得た。頭部CT・MRI検査上、脳腫脹や出血等の異常無し。脳波検査では2-8Hz程度の全般性徐波を認めた。

7月31日よりステロイド大量療法を開始し、8月1日には意識レベル改善を認め、8月2日より食事摂取開始とした。経過良好であり、8月3日から後療法としてプレドニゾロン50 mg/日から内服開始。明らかな高次脳機能障害や四肢麻痺もなく、8月12日プレドニゾロン30 mg/日内服で自宅退院となった。

脳炎症例の風疹および麻疹検査
7月31日に血液と髄液、8月2日に髄液、8月3日に血液、咽頭ぬぐい液、尿が採取され、風疹ウイルスおよび麻疹ウイルスのRT-PCRを実施した(表2)。7月31日採取の血漿はNS領域陽性・E1領域陰性、8月3日採取の咽頭ぬぐい液はNS領域およびE1領域ともに陽性であった。しかし8月3日採取の血漿と尿は陰性で、咽頭ぬぐい液は発症後遅くまで検出できる可能性が高いことが示唆された。また7月31日と8月2日採取の髄液はともに陰性であった。なお、麻疹ウイルスのRT-PCR法(血液はPBMCで実施)はすべて陰性だった。医療機関における7月31日(7病日目)採取検体の抗体検査(デンカ生研のEIAキットを使用)で風疹のIgM指数は8.45 で陽性であった。しかしながら麻疹のIgM指数も3.3と陽性で、風疹罹患の場合も麻疹IgMが陽性となる症例があることが判明した(表2)。

まとめ
今年の国内での風疹流行は都市部を中心に関西地方から始まり関東に広がっている。国内流行中の遺伝子型は2Bと1Eがほとんどである。神戸市では今年の3月以降より、20~50代男性を中心に風疹の流行が見られた。神戸市で検出した風疹ウイルス(3~8月)の遺伝子型は2Bが93%を占め、1例(7%)のみが1Eであった。また、今回風疹ウイルスを検出した14名のうち3名は当初麻疹の罹患を疑われていた。両疾患とも特徴的な症状が見られない場合も多く、検査診断が重要になってくる。今回風疹による脳炎において、風疹IgM抗体だけでなく麻疹IgM抗体も同時に陽性となる例が存在することが判明した。麻疹IgMは伝染性紅斑や突発性発疹の際も陽性となることが知られている。麻疹および風疹の排除に向けて確実な診断のためには、抗体検査ではなくウイルスを直接検出するRT-PCR法およびウイルス分離が一層重要となると考えられる。

謝辞:風疹ウイルス検出および遺伝子型別に関し、ご指導いただきました国立感染症研究所ウイルス第三部の森嘉生先生に深謝いたします。

 参考文献
1) WHO, WER 80: 126-132, 2005
2) 病原体検出マニュアル 風疹:平成14年3月        
3) IASR 32: 250-267, 2011

神戸市環境保健研究所 秋吉京子 須賀知子 森 愛
神戸市立医療センター中央市民病院 東田京子 吉村 元 春田恒和
神戸市保健所 黒川 学 竹内三津子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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