国立感染症研究所

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東京都における梅毒の届出状況

(IASR Vol. 38 p.62-64: 2017年3月号)

はじめに

梅毒の届出数は近年著明な増加を認め, 2016年全国の届出数は4,518例, そのうち東京都(以下, 都)は1,673例で全国の37%を占めた。今回, 2007~2016年の10年間の都の梅毒届出症例に関し, 特に2016年の傾向に焦点を当てて検討を行った。

 方 法

感染症発生動向調査システム(National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases: NESID)に登録された症例より, 管轄保健所の受理日を基準に, 2007~2015年に都で診断され届出られた梅毒症例を2016年10月11日に抽出, さらに2016年の同症例を2017年1月13日に抽出し, 各年の疫学的分析を行った。人口当たりの届出率の算出においては, 人口動態統計による各年1月1日現在の人口を用いた。

結 果

都における梅毒患者届出数は, 2011年以降男女ともに増加傾向にあり, 2016年全体の届出数は1,673例(届出率, 人口10万対12.3)で, これは2007年の162例(同1.3)の10.3倍であった。男性の届出数は, それぞれ1,218例(同18.1), 131例(同2.1) で9.3倍, 女性は455例(同6.6), 31例(同0.5)で14.7倍であった(図1)。2007年の男性割合は全体の80.9%であったが, 2009年以降男性割合がより増加し, 2011年には89.1%に達した。2014年以降は女性が増加し, 2016年の男性割合は72.8%まで低下した。

年齢の中央値は, 2016年全体で36歳, 男性は39歳(範囲0-87歳), 女性は27歳(範囲16-94歳) であった。2016年の5歳階級別の人口当たり届出率を検討すると, 15-19歳, 20-24歳においては女性の届出率が高く, 他の年代においては男性の届出率が女性を上回った(図2)。

推定感染経路別は, 全体では2007年は性的接触82.7%, その他および不明が17.3%であったのに比べ, 2016年ではそれぞれ95.3%, 4.7%であった。性的接触の内訳は, 2016年全体で異性間性的接触55.5%, 同性間性的接触26.5%であった。男性の異性間性的接触割合は, 2013年の16.0%を最小にその後増加し, 2016年は43.8%であった。一方, 男性の同性間性的接触割合 (両性間含) は2013年68.8%を最大にその後減少し, 2016年は37.1%となっており, 2015年の段階で男性の異性間性的接触割合が同性間性的接触割合を上回った(図1)。女性の異性間性的接触割合は, 2007年 (61.3%), 2016年 (86.6%) と大半が異性間性的接触によるものであった。

病期別では, 2016年全体で早期顕症梅毒(I期) 32.0%, 早期顕症梅毒(II期) 39.7%, 晩期顕症梅毒1.3%, 無症状病原体保有者26.8%であった。また, 2016年には, 先天梅毒2例 (0.1%) の報告があった。2007年はそれぞれ27.8%, 38.3%, 7.4%, 26.5%であった。

届出医療機関の種別では, 2016年全体で診療所64.3%, 病院35.6%, 保健所0.1%であった。2007年全体はそれぞれ48.1%, 50.6%, 1.2%であり, 近年診療所からの届出割合が増加した。推定感染地域は, 2016年全体では東京都72.9% (男性71.8%, 女性75.6%), 東京都の近隣県 (埼玉県, 神奈川県, 千葉県) 3.3% (男性3.4%, 女性3.1%) で, 男女共に大半が東京都内であった。

まとめ

近年における梅毒患者届出数の著しい増加が認められた。男女ともに, 異性間性的接触による感染の届出が増えていることと, とりわけ, 妊娠可能な若年層の女性の間で梅毒が著増していることは, 先天梅毒予防の視点からも, 公衆衛生上の対策を推進することは急務である。東京都では, 都民向けに, 感染症情報センターのホームページでの梅毒の発生動向や基礎知識についての情報や, 医療従事者向けに, 四半期ごとに発行しているエイズニューズレターやHIV/エイズ研修会での梅毒の増加について情報を発信している。また, 東京都南新宿検査・相談室や一部の保健所では, 希望者にHIV検査とともに梅毒検査を実施しており, 早期発見・治療につなげている。今後, 症例の属性について, より明らかにするためにさらなる情報の収集と分析が必要であり, そのためには, 関係機関との連携強化を図り, 課題の克服のために必要な新たな取り組みを進めていく必要がある。

(本報告は, 厚生労働省新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業梅毒感染リスクと報告数の増加の原因分析と効果的な介入手法に関する研究の一部として行った。)


 

東京都健康安全研究センター企画調整部健康危機管理情報課
 村上邦仁子 小林信之
東京都健康安全研究センター微生物部病原細菌研究科
 新開敬行
東京都福祉保健局健康安全部感染症対策課
 カエベタ亜矢 杉下由行
国立感染症研究所感染症疫学センター
 錦 信吾 有馬雄三
国立感染症研究所細菌第一部 大西 真

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