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2つの社会福祉施設で発生した腸管出血性大腸菌 O26 による集団感染事例―島根県

(IASR Vol. 33 p. 125-126: 2012年5月号)

 

2011年5~7月にかけ、島根県東部の2つの社会福祉施設で腸管出血性大腸菌O26:H11 (VT1&2 産生)(以下O26 )による集団感染事例が発生したので、その概要を報告する。

事例1
5月3日、医療機関から管轄保健所にO26 感染症の発生届があった。患者はA市のB社会福祉施設(幼児 108名、職員25名)の職員で、4月29日から腹痛、下痢、血便の症状を呈し、5月1日に受診した医療機関での検査の結果、便からO26 が検出された。保健所は直ちに患者家族や施設に健康調査、衛生指導を開始し、この施設においては、4月上旬から胃腸炎症状を呈する幼児が複数いたことが判明した。その後、同月5~17日にかけて複数の医療機関からこの施設の幼児6名を含む7件(1件は施設幼児の兄弟)のO26 感染症発生届が提出された。

5月4日から家族等の接触者69名(15家族)、4月以降胃腸炎症状のあった幼児20名、同症状のあった職員6名の検便を行ったところ、さらに23名[接触者14名(8家族)、幼児9名]からO26 を検出し、まん延防止を図るため、保健所は5月6日からの社会福祉施設の利用自粛等について助言した。すべての感染者の陰性化を確認し、最後の患者が社会福祉施設を利用した日(5月11日)から2週間以上患者が発生していないことから、6月2日に本事例が終息したと判断した。

その後、医療機関から新たなB社会福祉施設幼児2名のO26 患者発生届が提出され(6月15日に1件、17日に1件)、家族3名への感染も判明したが、終息後の発生については施設内で感染が持続していたのか別の感染があったのか明らかにならなかった。

有症者20名の症状は腹痛、軟便(各50%)が最も多く、次いで水様性下痢(45%)、血便(30%)、発熱(15%)であった。

事例2
6月8日、医療機関から管轄保健所にO26 感染症の発生届があった。患者はA市のC社会福祉施設(幼児 119名、職員23名)に通う4歳の幼児で、同月3日から胃腸炎症状を呈し、5日からは血便が出現したため6日に医療機関を受診、検査の結果、便からO26 が検出された。さらに同月11~17日の間に複数の医療機関からこの施設に通う幼児4名のO26 感染症発生届が提出された。

6月9日から家族等の接触者40名(7家族)、届出のあった幼児と同じクラスの幼児51名の検便を行ったところ、接触者9名、幼児2名からO26 を検出した。すべての感染者の陰性化を確認し、最後の患者がこの施設を利用した日(6月14日)から2週間以上患者発生がないことから、7月8日に本事例が終息したと判断した。

有症者9名の症状は腹痛(89%)が最も多く、次いで水様性下痢(44%)、軟便(33%)であった。

病原体の検査
2つの事例で分離された52株について薬剤感受性試験を実施したところ、事例1で得られた4株(3家族)がABPCに耐性であり、他の株は供試したすべての薬剤に感受性であった(表1)。パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による解析では、6パターンに分けられたものの、3バンド以内の違いであった(表1)。この2事例に先立つ4月に隣市の1家族に発生した散発事例の3株も同じパターンであり(表1)、2カ月以上の間汚染されたものが流通していた可能性が示唆されたが、疫学的関連は見出せなかった。

考 察
O26 は症状が比較的軽いことが知られている。今回の2つの事例でも症状は比較的軽度で、事例1では施設内でのロタウイルス感染症の流行もあったため、施設でのO26 発生の探知が遅れ、まん延を防ぐことができなかった。普段の健康観察と、胃腸炎症状のある者が確認された場合の感染防止対策レベルの引き上げが重要であると思われる。事例2においては同じトイレを使用しているクラスに患者が集中していた。トイレは汚染区域であり、清潔区域と明確に区別する意識付けをする必要があると思われる。

島根県保健環境科学研究所
黒崎守人 角森ヨシエ 川瀬 遵 樫本孝史 寺本彩香
島根県雲南保健所 来待幹夫 狩野ゆう子 (平成23年度所属による)

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