国立感染症研究所

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地方衛生研究所におけるAFP病原体検査の現状と課題

(IASR Vol. 41 p27-28: 2020年2月号)

世界保健機関(WHO)は, ポリオ対策の観点から, 各国で急性弛緩性麻痺(AFP)を発症した15歳未満の患者を把握し, 当該患者に対してポリオに罹患しているか否かの検査を実施することでポリオが発生していないことを確保することを求めている。

わが国においても, AFPを発症した15歳未満の患者に対してポリオウイルス検査が確実に実施されることを担保するために, 2018年5月1日より「急性弛緩性麻痺(急性灰白髄炎を除く。)」が5類感染症(全数把握)の対象とされた1)。これと関連して同年4月に, 厚生労働科学研究費補助金研究班においてとりまとめられた 「急性弛緩性麻痺を認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引き」2)(「手引き」)が公表され, AFPの届出に活用するように自治体宛の事務連絡が発出された。

しかしながら, 本「手引き」は51ページに及ぶ詳細なもので, 「実際にどこまでの検査を行うのか」という問い合わせが多くの地方衛生研究所(地衛研)から寄せられたことから, 地衛研全国協議会感染症対策部会として, 「地衛研におけるAFP病原体検査」に関するアンケートを実施した(2018年12月4~17日)。

すべての地衛研(83施設)から回答があり, アンケート回答時点までに地衛研での検査対象となったAFP届出症例は127例で, 2018年の全AFP届出数141例の90.1%に相当した。83施設中, 18施設は地衛研(自治体)の方針としてAFP病原体検査を実施していなかったが, 他の地衛研(12), 国立感染症研究所(5), 大学病院(1)に検査を依頼していた。すなわち, AFP届出症例はすべて何らかの病原体検査を受けたと考えられる。表に示すように, 127例の検査を実施したのは45施設で, 全国の約半数の地衛研がAFP病原体検査を経験していた。127例中何らかの陽性結果を示したのは48例で, 陽性率は37.8%であった(ただし, この45施設で実施された検査項目は同一ではない)。 「手引き」では, AFP検査検体として5点セット(血液, 髄液, 呼吸器由来検体, 便・直腸ぬぐい液, 尿)を求めているが, 検体別の検査陽性率を調べると, 鼻咽頭由来検体で陽性率が最も高く, 便検体がこれに続き, 血液, 髄液, 尿では陽性率が低かった(図1)。病原体の検出方法としては, 分離培養, ポリオウイルスを含むエンテロウイルス検出, PCR産物のDNAシークエンスが, 多くの検査実施地衛研で行われていた(図2)。また, AFPとの関係が疑われているエンテロウイルスD683,4) 特異的検出も3割程度の検査実施地衛研で実施されていたが, ボツリヌス毒素検出はほとんど行われていなかった。

また, 自由記載意見によると, 多くの地衛研はAFP病原体検査の第一義的目的はポリオウイルスの否定であると感じており, このことと「手引き」に記載されているAFPの原因病原体に関する探索的検査との乖離が大きく, そのため, 地衛研によって対応 (検査項目) が大きく異なってきている。今後, 行政検査として実施する病原体検査項目を整理する必要性があると考えられる。

 

引用文献
  1. 「エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究」研究班(厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)急性弛緩性麻痺を認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引き 2018年
  2. 厚生労働省健康局結核感染症課長通知(健感発0410第1号)2018年
  3. Messacar K, et al., Lancet Infect Dis 18(8): e239-e247, 2018
  4. Hixon AM, et al., PLoS Pathog 13(2): e1006199, 2017
 
 
愛媛県立衛生環境研究所 四宮博人 山下孝育
山形県衛生研究所 水田克巳
埼玉県衛生研究所 岸本 剛
神奈川県衛生研究所 高崎智彦
愛知県衛生研究所 皆川洋子
神戸市環境保健研究所 飯島義雄
岡山県環境保健センター 望月 靖
福岡県保健環境研究所 梶原淳睦
東京都健康安全研究センター 貞升健志
千葉県衛生研究所 横山栄二

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