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急性弛緩性麻痺(AFP)を認める症例からのEV-D68, EV-A71を含めた非ポリオエンテロウイルス検査

(IASR Vol. 41 p28-29: 2020年2月号)

感染症法に基づく届出疾患としての急性弛緩性麻痺〔acute flaccid paralysis:AFP(ポリオを除く)〕は, ポリオ様急性弛緩性麻痺, 急性弛緩性脊髄炎, ギラン・バレー症候群等, 多様な臨床症状を示す疾患の総称であり, 様々な要因がAFP発症に関与しうる。非ポリオエンテロウイルス(NPEV)は, その主要な病原体である。NPEVのうち, 特にエンテロウイルスD68(EV-D68)およびエンテロウイルスA71(EV-A71)はAFPとの関連が強い重要なNPEVとして報告されている1)

ポリオウイルスは, RD-A細胞などの培養細胞によるウイルス分離の感度が良く, 世界保健機関(WHO)によるポリオ確定診断には培養細胞によるウイルス分離が必要とされている。しかし, ウイルス分離の感度は, NPEVの型や株により大きく異なる。そのため, 臨床検体から直接, 逆転写酵素連鎖反応(RT-PCR)およびRT-リアルタイムPCRによる検出が多用されており, 感度が良い方法が報告されている。本稿については, 個別の検査法ではなく, AFP患者からのNPEV検査に関する現状を記録したい。

NPEVのうち, 特にEV-D68については, 2014年にEV-D68の流行とAFPの疫学的関連を強く示唆する報告が米国等でなされた。わが国では, 2015年のAFP流行時に厚生労働省健康局結核感染症課通知(2015年10月21日付)により全国的な積極的疫学調査がなされ, 34名中9名のAFP患者から, EV-D68用に開発された高感度なRT-PCRにより, EV-D68ウイルス遺伝子を検出し報告した2)。EV-D68はエンテロウイルスDに分類されるが, 風邪の主要な病原体であるライノウイルスに進化学的・ウイルス学的に近い。通常のEVと異なり比較的酸性に弱く, 通常のNPEVの分離に用いる37℃ではなく33℃で分離されやすいなどの特徴を有する。

ポリオウイルスもEV-A71も神経向性ウイルスであるが, 髄液からの検出が困難であることが知られている。EV-D68も髄液からの検出は2015年の34名中1名のみからであった3)。NPEVの検出に際しては, 髄液だけでなく, 咽頭ぬぐい液や糞便など中枢神経系由来以外の検体からの検査を実施することが重要である。AFPを発症した段階で, 発熱等の初期症状から日数が経過していることが考えられるので, 真の意味での早期検体の採取は難しいが, できるだけ早期の検体採取が重要である。

AFP患者から最も高頻度に検出される病原体はNPEVであり, EV-D68やEV-A71以外のNPEVが検出されることもある。したがって, 検査法は, 1)EV-D68を高感度に検出できる方法, 2)EV-A71を含むNPEVを広く高感度に検出・同定できる方法を含む必要がある。日本が有するNPEVに対する全国的な病原体サーベイランスシステムを活かして, 2015年の次のAFP流行に備える必要があった。そのため, 厚生労働科学研究費補助金「エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究(研究代表者:多屋馨子)」において「急性弛緩性麻痺を認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引き」にNPEV検査法を記載し, 2018年4月に公開した。EVはRNAウイルスであり, 変異が多いので, 手法の確立・アップデートについては, 国内での協力, 国際協力が今後も重要である。

また, EV-D68の検査において経験されたことであるが, 病原体検査のみでなく, 脳脊髄の画像診断4)や神経生理学的な検査所見や臨床所見などを総合的に評価したうえで, 病原体検出の診断的意義を評価することが重要である。それに直結する研究が厚生労働科学研究費補助金および日本医療研究開発機構(AMED)による研究班により続けられ, 治療法および予防法の開発のために協力することが求められている。病原体検査について, 地方衛生研究所と国立感染症研究所が重要な役割を担っている。多くの国では数年間隔でのAFP症例の多発事例を経験しており, 今後もNPEVによるAFPに十分な警戒が必要である。

 

参考文献
  1. Bitnun A, et al., Curr Infect Dis Rep 20(9): 34, 2018
  2. Chong PF, et al., Clin Infect Dis 66(5): 653-664, 2018
  3. Kimura K, et al., Neurol Clin Pract 7(5): 390-393, 2017
  4. Okumura A, et al., Brain Dev 41(5): 443-451, 2019
 
 
国立感染症研究所感染症疫学センター
 藤本嗣人 花岡 希 多屋馨子
国立感染症研究所ウイルス第二部
 清水博之

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