国立感染症研究所

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Clostridioides difficile感染症の細菌学的検査

(IASR Vol. 41 p44-46: 2020年3月号)

はじめに

Clostridioides difficile感染症(CDI)の診断には, 臨床症状の他, 細菌学的検査が必須である。CDIの細菌学的検査としては, 糞便中の毒素(toxin A and/or toxin B)およびC. difficile抗原と呼ばれているグルタメートデヒドロゲナーゼ(GDH)を検出する酵素免疫測定法(enzyme immunoassay: EIA), 糞便中の毒素遺伝子を検出する遺伝子検出法(nucleic acid amplific-ation test: NAAT), 糞便中のC. difficileを分離培養した後, 分離された菌株の毒素産生性を調べる方法(toxigenic culture: TC)が行われる。それぞれメリットとデメリットがあり(), 万全な方法がないのが現状である。それゆえ, 各検査法の特徴を理解した上で検査を行うことが正確な診断に繋がると考えられる。

糞便検体と細菌学的検査のタイミング

糞便検体の採取は細菌学的検査の重要なステップの1つであり, 適切なタイミングで適量を採取する必要がある。例えば, CDIの抗菌薬治療を開始した後に糞便検体を採取しても信頼できる結果は得られない。また, 多くの医療施設で使用されている耳かきサイズの匙がついている検体採取チューブは, 採取できる糞便量が少ないため, CDIの細菌学的検査には不向きである。いずれの検査法であっても検体が適切でなければ, 信頼できる結果は得られないため, 糞便検体はCDIの治療開始前にティースプーン1杯程度(約5g) を採取することを推奨する。

臨床的にCDIを疑った場合, 細菌学的検査は必須であるが, 治療経過の確認や治療終了の判断としての細菌学的検査は行わない。C. difficileは芽胞を作るため, バンコマイシンなどでの治療が終わった後でも腸管内に残存する場合があり, この状態で検査を行うと陽性になることがある。つまり, C. difficileの特性上, 治療開始後の細菌学的検査は意味がないということになる。同様に, 接触予防策から標準予防策への切り替えの指標としての細菌学的検査も行う必要はない。

EIA

糞便の中のC. difficileの産生した毒素を免疫学的手法にて検出する方法である。作業は比較的簡単で, 検査に必要な時間も短いため, 多くの医療機関で実施されているが, 感度が低い1)という欠点がある。そこで, 毒素を検出するより高感度であるGDHがスクリーニング法として使用されているが, 毒素非産生株も毒素産生株と同様にGDHを産生することに注意する必要がある。例えば, 「毒素陰性, GDH陽性」 の場合, 感度の違いを理解していれば, 糞便中に毒素産生性C. difficileが存在する可能性を読み取れるが, 感度の違いを知らなければ, 毒素非産生性C. difficileは存在するが, 毒素産生性C. difficileは存在しない, と誤った認識をしてしまう危険性がある。また, GDHは毒素検出に比べて感度が高いのは間違いないが, TCと比較すると感度は73%2)と低い。

NAAT

糞便中のC. difficileの毒素遺伝子などのターゲット遺伝子を増幅させ, 検出する方法である。作業は使用する機器により多少異なるが, 煩雑さはあまりなく, 検査時間も短い。しかし, コストが高いという欠点がある。感度, 特異度ともにEIAより高い3)ため, コストの問題をクリアできるのであれば, 有用である。ただし, NAATはGDH陽性・毒素陰性検体における確認試験であり, 感染防止対策加算1の施設基準を届け出ている保険医療機関での入院患者の検査においてのみ診療報酬が算定されるという制約がある。つまり, GDHでスクリーニングし, 陽性であった検体にしかNAATは使用できない。感度がそれほど高くないGDHがスクリーニングの第一段階に据えられている現状を見直す必要がある。また, 本検査法の中には, 北米やヨーロッパの一部の地域でアウトブレイクを起こし, 高病原株として知られているBI/NAP1/027株の推定検出ができる(binary toxin遺伝子とtcdC遺伝子の変異検出による)ものがあるが, CDIの治療や感染対策は, どの型が原因であっても基本的に同じであること, BI/ NAP1/027株以外の株であっても重症化することもあれば, アウトブレイクを起こすことも認識すべきである。

TC

C. difficileを糞便中から選択培地などを用いて分離培養した後, 分離されたC. difficileの毒素産生性を調べる方法である。現在の細菌学的検査法の中では最も感度が高い2)が, EIA, NAATに比べ, 結果が得られるまでに時間がかかる。また, 感度が高いゆえ, 検査の必要のない検体について検査を行うと, 過剰診断になることがある。C. difficileの培養は, 菌名の由来や偏性嫌気性菌であることから, 培養が難しいと思われ, 敬遠されることがあるが, 決して難しいことはなく, その感度の高さは実施を推奨するに値する。

おわりに

現在, CDIの細菌学的検査に関するフローチャートがいくつか示されている。そのアルゴリズムを理解するには, それぞれの検査法の特徴を十分に把握しておかなければならない。また, 各検査法の特徴を理解しておけば, 2種類以上の検査法を組み合わせるなど, 自施設に最適な検査法や独自のフローチャートを作成することも可能である。万全な検査法がないからこそ, 各検査法について知識を深め, 最適な検査法を選ぶ必要がある。ただし, 上述しているように, いくら検査が正確に行われても, 検体の状態や検体採取のタイミングが適切でなければ, 結果は信頼できない, ということを再度言及しておきたい。

 

参考文献
  1. Crobach MJ, et al., Clin Microbiol Infect, 2016, doi: 10.1016/j.cmi.2016.03.010
  2. Senoh M, et al., Anaerobe, 2019, doi: 10.1016/j.anaerobe.2019.102107
  3. Jamal W, et al., Int J Infect Dis, 2014, doi: 10.1016/j.ijid.2014.10.025
 
 
国立感染症研究所細菌第二部 妹尾充敏

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