国立感染症研究所

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大阪府における咽頭結膜熱サーベイランスでのアデノウイルス検出状況, 2016~2020年

(IASR Vol. 42 p72-73: 2021年4月号)

 

 アデノウイルスは, 従来の中和法により同定された51の血清型と, ウイルス遺伝子の塩基配列解析により同定された新たな型を合わせて80以上の型が報告されている1)。各型はA-G種のいずれかに分類され, 型や種によって様々な疾患の原因となることが知られている。国内ではアデノウイルス感染症の中で, 咽頭結膜熱(pharyngo-conjunctival fever), 流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis)および感染性胃腸炎(infectious gastroenteritis)が5類定点把握疾患の病原体サーベイランスの対象で, 定点把握疾患以外では, 下気道炎, 出血性膀胱炎, 尿道炎などの疾患がある。

 咽頭結膜熱は, 咽頭炎, 結膜炎, 発熱を主な症状とする小児の感染症で, B種の3型, C種の1型, 2型, 5型, 6型, E種の4型が検出されることが多い。流行性角結膜炎からは主にD種の8型, 37型, 53型, 54型, 56型, 64型, 85型が検出され, 感染性胃腸炎はF種の41型が主要な原因ウイルスである。

 当所でも, 大阪府内の定点医療機関で採取された検体からアデノウイルスの分離, 型別を行っており, 今回, 咽頭結膜熱の原因となったアデノウイルスの検出状況について報告する。対象としたのは2016年1月~2020年12月の5年間に大阪府内の小児科定点において, 咽頭結膜熱と診断され採取された呼吸器由来検体(咽頭ぬぐい液, 鼻汁, うがい液)計167検体で, これらの検体から, A549細胞を用いてウイルス分離を行ったところ, 126検体からアデノウイルスが分離された。これらの分離株からウイルスDNAを抽出し, 部分塩基配列を決定することにより型を同定した。

 検出された種および型の分布は, C種2型が58株と最も多く, 次いでB種3型が31株, C種1型が19株, E種4型が9株, C種5型が6株, D種54型が3株であった()。毎年多く検出されているのは, C種1型, 2型, B種3型である。例年, 2型および3型が流行の中心であったが, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が広がった2020年3月以降はC種のアデノウイルスのみが検出され, B種3型は大阪府では検出されていない。E種4型は過去の大阪府の検出状況も含めると, 2012~2016年まで毎年検出されていたが2), 2017年以降は2018年の1例のみである。D種のアデノウイルスが咽頭結膜熱の原因として検出されることはB種やC種に比べて稀であるが, 以前にも大阪府および兵庫県で37型, 53型, 56型, 64型の検出が報告されている2-4)。今回対象とした期間では, 54型が2017年に1例, 2018年に2例で検出されており, これは, 流行性角結膜炎の原因ウイルスとして54型の検出割合が2015年以降に増加したことが影響していると推察される5)

 咽頭結膜熱の原因となるアデノウイルスは複数の種にまたがり, 近年に同定された型や, 同種アデノウイルス間での遺伝子組換えによる新型の可能性も考慮すると, 型によってはその型別に, ウイルス遺伝子全長または複数領域の塩基配列解析が必要となる場合がある。一方, 流行状況をみると, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大の影響により, 大阪府の感染症発生動向調査において, アデノウイルス感染症を含む多くの感染症で, 定点当たりの報告数や病原体定点からの検体数が少ない状態が続いている6)。しかし, 咽頭結膜熱は小児を中心に一定数が報告されていることから地域流行する可能性もあり, 今後, 流行がどのように推移するのかアデノウイルスの検出状況を注視していく必要がある。

 

参考文献
  1. 藤本嗣人ら, IASR 38: 136, 2017
  2. Hiroi S, et al., Jpn J Infect Dis 70: 666-668, 2017
  3. Enomoto M, et al., Jpn J Infect Dis 65: 457-459, 2012
  4. 荻 美貴ら, IASR 38: 138-139, 2017
  5. IASR 速報グラフ アデノウイルス
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/510-graphs/1532-iasrgv.html
  6. 大阪府感染症情報センター 感染症発生動向調査
    http://www.iph.pref.osaka.jp/infection/surv21/surv05.html

 
大阪健康安全基盤研究所微生物部ウイルス課 
 廣井 聡 森川佐依子 本村和嗣  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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