国立感染症研究所

IASR-logo

大阪健康安全基盤研究所におけるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)検査

(IASR Vol. 42 p158-160: 2021年8月号)

 

 近年, 日本国内でのバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci:VRE)感染症届出数は増加傾向にあり, 院内感染事例も続発している。大阪府での届出数は2016年から増加に転じ, 2018年には24件, 2019年には32件, 2020年には21件が届出され(2020年は速報値), 全国で最多であった。このような状況の中, 大阪健康安全基盤研究所では, 発生届の出されたVRE感染症の原因菌株や院内感染疑い事例における保菌者検便で検出された菌株について, 保健所や医療機関からの依頼に応じて菌株の解析をVRE検査として実施している。そこで今回は, 当所で実施しているVRE検査〔純培養の確認, 菌種同定, バンコマイシン耐性遺伝子検出, 薬剤感受性試験, パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)型別〕の概要について説明する。

純培養の確認

 以降の検査は, 被検菌株が純培養菌であることが前提となるため, 検査前に純培養の確認を行っている。まず, 搬入菌株を32μg/mLのバンコマイシン(VCM)を添加したエンテロコッコセル寒天培地(日本BD)に塗抹し, 37±1℃で48時間培養する。培養後に周囲に黒色帯を伴う発育集落を釣菌し, 5%ヒツジ血液寒天(BA)培地あるいはbrain heart infusion(BHI)寒天培地に画線塗抹後, 24時間培養する。その後, 発育集落を観察し, 純培養であることを確認する。なお, 搬入菌株が32μg/mL VCM添加エンテロコッコセル寒天培地上で発育しない場合は, 添加濃度を0-4μg/mLとして, 再度培養する。

菌種同定

 検査精度を確保するため, 菌種同定は複数の方法で実施することが好ましく, 生化学的性状試験, 質量分析, 菌種特異的遺伝子検出を実施している。生化学的性状試験では, グラム陽性球菌, エスクリン加水分解陽性, 6.5% NaCl耐容性(菌種によっては耐容性を示さない), カタラーゼ試験陰性が腸球菌の鑑別性状となる。また, 菌種同定には市販されているいくつかの細菌同定用キットが利用できるが, 分離頻度の高いEnterococcus faeciumの同定では, BD BBLCRYSTAL RGP同定検査試薬(日本BD)で良好な結果が得られることが多い。

 質量分析では, 純培養を確認した集落について, ギ酸・エタノール抽出法により菌体タンパクを抽出し, MALDI-TOF MS(Bruker)により菌種同定を行っている。さらに, 後述するmultiplex-PCR法により菌種特異的遺伝子の検出も実施している。

菌種特異的遺伝子およびVCM耐性遺伝子の検出

 検体として搬入される頻度の高いE. faecium, E. faecalis, E. gallinarum, E. casseliflavusは, ddlE.faecium, ddlE.faecalis, vanC1, vanC2/3をそれぞれの菌種特異的に保有している。そこで, これら遺伝子とvanA, vanBおよびEnterococcus特異的遺伝子を標的としたmultiplex-PCR法により, 菌種同定とVCM耐性遺伝子の検出を同時に実施している()。まず, 純培養を確認した集落について, アルカリ熱抽出法あるいはボイル法によりDNAテンプレートを調製する。QIAGEN multiplex PCR Kitを用い, プライマーVanABF, VanAR, VanBR, C1, C2, VanC23F, VanC23R, DD13(+), DD3-2(-), FAC1-1(+), FAC2-1(-)はそれぞれ終濃度0.2μM, Ent1およびEnt2は終濃度0.4μMで試薬を調製し, DNAテンプレートを加える。PCR増幅は, 95℃15分→(95℃30秒→57℃90秒→72℃90秒)×35サイクル→72℃10分の条件で行う。増幅産物は2% TAEアガロースを用いて100Vで30分間の泳動後に分子量を確認する。

 なお, 稀にFAC1-1(+), FAC2-1(-)で増幅産物が得られないE. faeciumが認められる。この場合は, 国立感染症研究所病原体検出マニュアル5)に記載されているプライマーを用いる。

薬剤感受性試験

 Etest(ビオメリュー)を用いて, VCMおよびテイコプラニンの最小発育阻止濃度値(MIC値)を測定している。E. faeciumの場合はミューラーヒントンⅡ寒天培地(日本BD)を用いて, 好気培養条件下, 36℃で24時間培養後にMIC値を測定する。

PFGE型別

 BIO-RAD社のPFGEシステムを用いて, 制限酵素SmaⅠによるPFGE法6)により実施している()。まず, 菌株のBHI培養液200μLを遠心し, 沈殿を120μLの懸濁用バッファー(10mM Tris-HCl, 1M NaCl;pH7.6)に懸濁する。これを, 1.0% SeaKem Gold agarose(TaKaRa)120μLと混和し, アガロースブロックを作製する。アガロースブロックを1mLの溶菌処理溶液〔10mM Tris-HCl, 1M NaCl, 0.1M EDTA溶液(pH7.2に調製)にリゾチーム(1mg/mL)とmutanolysin(SIGMA, 50U/sample)を溶解〕に入れ, 37℃で1晩反応させる。溶菌処理溶液を除去後, 1mLのプロテイナーゼK処理液〔0.5M EDTA(pH8.0)にプロテイナーゼK(1mg/mL)とN-lauroylsarcosine(終濃度1.0%)を溶解〕を加え, 55℃で8時間-1晩振盪しながら反応させる。反応後, プロテイナーゼK処理液を除去し, TE buffer(pH8.0)を30分ごとに3回交換する。

 制限酵素はニッポン・ジーンのSmaⅠを使用している。適切な大きさにカットしたアガロースブロックに1倍濃度のAバッファーを加え, 室温で15分間平衡化する。Aバッファーを除去後, 1検体当たり30 UのSmaⅠを含むAバッファーを加え, 30℃で1晩反応させる。SmaⅠ処理後のマイクロチューブに, 400μLの0.5×TBEを加えて室温放置する。泳動用の1% SeaKem Gold agaroseを0.5×TBEで溶解し, 50℃で保温する。コーム上にSmaⅠ処理の終わったアガロースブロックを置き, 余分な水分を除去後, コームをゲル作製台にセットし, 泳動用アガロースを流し込み固化する。泳動用バッファーは0.5×TBEを用い, initial time:0.7秒, final time:15.0秒, voltage:6V/cm, run time:19時間, buffer温度:14℃(夏季は12℃)で泳動する。泳動後は常法に従って染色, 脱色, 写真撮影する。

 判定はTenover7)らの基準に従い, 株間のバンド違いが3カ所以内であれば, 遺伝的関連性は高いと判定する。複数菌株を比較する場合, BioNumericsソフトウエア(Applied Maths)を用いてDice係数により類似度を算出し, UPGMA法によるデンドログラムでクラスター解析を行う。

 

参考文献
  1. Bell JM, et al., J Clin Microbiol 36: 2187-2190, 1998
  2. Dutka-Malen S, et al., J Clin Microbiol 33: 24-27, 1995
  3. Depardieu F, et al., J Clin Microbiol 42: 5857-5860, 2004
  4. Ke D, et al., J Clin Microbiol 37: 3497-3503, 1999
  5. 国立感染症研究所病原体検出マニュアル 薬剤耐性菌令和2年6月改訂版Ver2,
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/ResistantBacteria20200604.pdf(令和3年6月20日最終アクセス)
  6. Murase T, et al., Epidemiol Infect 192: 421-424, 2002
  7. Tenover FC et al., J Clin Microbiol 33: 2233-2239, 1995

大阪健康安全基盤研究所微生物部
 原田哲也 梅川奈央 河原隆二 川津健太郎 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version