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がんセンターにおけるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)アウトブレイク事例

(IASR Vol. 42 p162-163: 2021年8月号)

 
はじめに

 2021年に1例の患者の血液培養からバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci: VRE)を検出した。2020年以降, 国内でのVRE届出患者数は増加1)しており, 当院でのVRE検出は初めての経験であった。5例の院内感染を経験し, 22日間で終息することができた。その経過と対応について報告する。

アウトブレイクの経過

 2021年X日, 患者Aの血液培養検査よりバンコマイシン耐性のEnterococcus faecium(VRE)を検出した。翌日, 患者Aが入院していたa病棟入院患者にVREスクリーニング検査を実施した。スクリーニング検査中に選択培地でレンサ球菌によるコロニーが検出され, VREである可能性があると判断した2名の患者(患者B, C)(表1および表2)をそれぞれ個室隔離とし, 接触予防策を開始した。両名はX+6日にいずれもVREと確定された。患者Bは患者Aと同室であったが, 患者Cは患者A, Bとの接触歴はなく, 病棟全体へ伝播している可能性が高いと判断し, X+6日にa病棟を閉鎖した。患者Aと同室, かつ入院を継続していた患者2名(患者Eを含む)を個室隔離とし, 接触予防策を開始した。

 患者A, Bは内視鏡室を使用しており, 「患者A, Bに対する内視鏡検査実施後, 同検査室を使用した患者かつ現在入院中の患者」や「患者Aの入院期間にa病棟に入院し, 現在は他の病棟に入院中の患者」を確認したところ, 患者Aと同室であった患者Dがb病棟へ再入院していた。スクリーニング検査を実施したところ, 患者DからVREが検出された。このためa病棟以外での拡大を防止する目的で, 患者Dはb病棟からa病棟に移動した。この時点でb病棟もスクリーニング検査を実施し, すべて陰性を確認した。

 2回目のスクリーニング検査で患者Aと同室ですでに個室隔離していた患者EからもVREを検出した。患者Eは初回のVREスクリーニング検査は陰性であった。また初回スクリーニング検査から病棟閉鎖までにa病棟に入院した患者FからもVREを検出した。

van遺伝子の検出およびパルスフィールドゲル電気泳動法による解析

 検出された6検体は, 柏市保健所を介して千葉県衛生研究所にてvan遺伝子検査ならびにパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)によるVRE菌株解析が行われた。すべての患者の検体からvanA遺伝子を検出した。PFGEでは患者A-Eの5名は90%以上の相同性があり同一菌株由来であることが示唆されたが, 患者Fとの相同性は60%以下であった。

実施した対策

 VRE陽性者の同室患者と培養でVREが疑われた患者(選択培地でレンサ球菌によるコロニーを検出した患者)は, 直ちに個室隔離と接触予防策を行った。スクリーニング検査は計210名に実施した。またスクリーニング検査結果確定前であっても, 疑わしいと判断した症例は積極的に個室隔離と接触予防策を行った。環境培養検査は, 高頻度接触面や共有トイレを中心に合計71カ所実施し, すべて陰性であった。

 陽性者の保菌状況から共用トイレが感染源の1つである可能性があったため, 共用トイレの感染対策を強化した。すべての患者に共用トイレ使用時は, 患者自身で使用前後に接触面の消毒をすることを指導し, 外来を含めた院内のトイレにポスターを掲示した。2例目(患者B, C)発生時点でa病棟, b病棟(患者D)発生時点でb病棟の共用トイレにUV-C紫外線照射を行った。さらに, スクリーニング中の患者と陰性判明患者がトイレを共用しないように, リスクに応じてトイレを選別した。

 その他, 全職員へ手指衛生や標準予防策の励行を周知し, 環境整備はアルコール含浸クロスを用いて病室やナースステーション, 患者共用部分を2回/日実施した。清掃に使用する物品や清掃カートは, a病棟内専用として, 他の病棟と共有しないこととした。

考 察

 患者A, B, D, Eは同室であり, 患者CはVRE検出者との同室歴はなかった。このことから, 不十分な手指衛生や共用トイレを介して伝播した可能性があると考えられた。患者Fは1例目のVREが判明後, 病棟閉鎖前に入院となり, その後伝播が判明している。感染対策強化中にもかかわらず対策が不十分であり伝播した可能性があったが, 検出されたVREの相同性はPFGEでは示されなかった。
VREが病棟内で伝播し, 新規入院を停止した期間は17日であった。今回のアウトブレイク事例の対応から, 1例目の検出時点ですでに病棟内に伝播している可能性があり, 速やかに全患者へのVREスクリーニング検査を実施すること, また検査結果判明前から疑わしい事例は個室隔離や接触予防策を早めに実施すること, 共用トイレへの感染対策を強化したこと, で短期間に終息できた可能性があった。

 本事例に関しご協力いただきました千葉県衛生研究所細菌研究室 主任上席研究員・菊池 俊先生, 研究員・安藤直史先生, 技師・岸澤 充先生, 柏市保健所の皆様に深く感謝いたします。

 

参考文献

国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
 橋本麻子 冲中敬二 小田部達彦 佐藤 剛 久野真理
 齊藤 聡 平松玉江 小西 大 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan