国立感染症研究所

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2020/21シーズンのインフルエンザ分離株の解析

(IASR Vol. 42 p247-252: 2021年11月号)

 
1. 流行の概要

 2020/21インフルエンザシーズン(2020年9月~2021年8月)は, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行への対策の影響と思われるが, 日本を含め多くの国でインフルエンザの流行は大変小さいものであった。その少ない中ではあったがA型・B型ウイルスともに検出され, B型ウイルスの検出数がA型ウイルスのそれよりも多かった。B型ウイルスは, ほぼVictoria系統であり, 山形系統はほとんど検出されなかった。A型ウイルスは, A(H3N2)の流行がA(H1N1)pdm09より大きかった。

2. 各型・亜型の流行株の遺伝子および抗原性解析

 2020/21シーズンに全国の地方衛生研究所(地衛研)で分離されたウイルス株の型・亜型・系統同定は, 各地衛研において, 国立感染症研究所(感染研)から配布された同定用キットを用いた赤血球凝集阻止(HI)試験によって行われた。また, 最近のA(H3N2)ウイルスは赤血球凝集活性が著しく弱いために〔今冬のインフルエンザについて(2015/16シーズン)参照〕, HI試験が困難な場合はPCR法による亜型同定が推奨されている。感染研では, 感染症発生動向調査(NESID)システム経由で情報を収集し, 地衛研で分離および型・亜型同定されたウイルス株の分与を受けた。また, 病院からインフルエンザ迅速診断キット陽性臨床検体の供与を受け, 感染研でウイルス分離を行った。地衛研から分与された株および供与を受けた臨床検体から分離された株について, ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)遺伝子の遺伝子系統樹解析, およびフェレット感染血清・ヒトワクチン接種後血清を用いたHI試験あるいは中和試験による詳細な抗原性解析を実施した。

 2-1)A(H1N1)pdm09ウイルス

 遺伝子系統樹解析:国内で検出された2株について遺伝子解析を実施した。最近の本亜型流行株のほとんどは, サブクレード6B.1A(S74R, I295V, S164T)の中で, 成熟HAのアミノ酸の183番目に変異を持つ複数の群(183P-1~183P-7)の183P-5に属しており, さらにはその中の183P-5A(N129D, T185I)に属した。また183P-5Aは, さらに183P-5A1(D187A, Q189E)および183P-5A2(N156K, V250A, K130N, L161I, E506D)に分岐した(図1)。解析した株は183P-5A1に属した。

 抗原性解析:9種類の参照ウイルスに対するフェレット感染血清を用いて, 国内で分離された1株(183P-5A1)についてHI試験による抗原性解析を行った。その結果, 解析した分離株は2020/21シーズンワクチン株A/Guangdong-Maonan/SWL1536/2019(183P-5A1)の卵分離株に対するフェレット感染血清とよく反応した。海外では, HAに156Kの変異をもつ183P-5A2に属するウイルスも検出されており, これらのウイルスはA/Guangdong-Maonan/SWL1536/2019に対するフェレット感染血清との反応性は良くなかった。ワクチン接種を受けたヒトの血清を用いた解析では, ヒト血清は183P-5A1に属するウイルスとはよく反応したが, 183P-5A2に属するウイルスとは反応性が悪かった。

 2-2)A(H3N2)ウイルス

 遺伝子系統樹解析:国内および海外(ラオス, ネパール)から入手した検体中のウイルス株あるいは分離株18株について遺伝子解析を実施した(国内4株, 海外14株)。本亜型ウイルスのHA遺伝子系統樹解析では, 近年はクレード3C.2a, 3C.3aの2群に大別されるが, 国内外ともにクレード3C.2aに属するウイルスが主流であった。またクレード3C.2aは遺伝的多様性があり, サブクレード3C.2a1~3C.2a4が形成され, その中で3C.2a1が主流となっている。その中でさらに, 3C.2a1b.1a(E62G, T128A, T135K, A138S, R142G, G186D, D190N, F193S, S198P), 3C.2a1b.1b(E62G, T128A, T135K, S137F, A138S, R142G, F193S), 3C.2a1b.2a(E62G, K83E, Y94N, T131K, R142G, I522M, V529I), 3C.2a1b.2b(E62G, T131K, R142G, Q197R, S219F, V347M, E484G, V529I)が派生した。3C.2a1b.2aは, さらに3C.2a1b.2a1(F193S, Y195F, G186S, S198P)および3C.2a1b.2a2(F193S, Y195F, Y159N, T160I, L164Q, G186D, D190N)に分岐した(図2)。解析した株は, 国内株およびラオス株は3C.2a1b.2a1に, ネパール株は3C.2a1b.2a2に属した。

 抗原性解析:国内および海外(ネパール, ラオス)で分離された14株(国内4株, 海外10株)について, 9あるいは10種類の参照ウイルスに対するフェレット感染血清を用いて抗原性解析を行った。最近のシーズンと同様に, 多くのA(H3N2)分離株は極めて低い赤血球凝集活性しか示さないため, HI試験の実施が困難な場合が多かったことから, 本亜型ウイルスについては中和試験法を用いて抗原性解析を実施した。国内外の流行株については, 試験したすべての株が, 2020/21シーズンのワクチン株A/Hong Kong/45/2019の細胞分離株およびA/Hong Kong/2671/2019の卵分離株(ともに3C.2a1b.1b)に対するフェレット感染血清との反応が悪かった。3C.2a1b.2a1に属するウイルスに対するフェレット感染血清は, 同じグループに属するウイルスとよく反応したが, 3C.2a1b.2a2に属するウイルスとの反応性は良くなかった。逆に3C.2a1b.2a2に属するウイルスに対するフェレット感染血清は, 同じグループに属するウイルスとよく反応したが, 3C.2a1b.2a1に属するウイルスとの反応性は良くなかった。このように抗原性の異なる株が流行していた。また, ワクチン接種を受けたヒトの血清は, 3C.2a1b.2a1および3C.2a1b.2a2に属するどちらのウイルスとも反応性が良くなかった。

 2-3)B型ウイルス

 遺伝子系統樹解析

 山形系統:国内での検出はなく, 海外では検出はされていたが遺伝子解析された株がなかった。

 Victoria系統:感染研で入手した検体および分離株はなかった。Victoria系統ウイルスのHA遺伝子系統樹解析では, 近年は解析されたほぼすべての株は, 成熟HAに3アミノ酸欠損をもつクレード1A.3(162-164アミノ酸欠損, K136E, 代表株:B/Washington/02/2019)に属した。最近は1A.3は, さらにG133Rの変異をもつグループとN150Kの変異をもつグループ1A.3a(N150K, G184E, N197D, R279K)に分岐し, 1A.3aはさらに1A.3a1(V220M, P241Q)および1A.3a2(A127T, P144L, K203R)に分かれた(図3)。2020/21シーズンは1A.3a1に属するウイルスが主流で, 次に1A.3a2に属するウイルスが多く, これらのウイルスで合わせて約95%を占めた。1A.3a1に属するウイルスのほとんどは中国で検出され, 一方, 1A.3a2に属するウイルスは中国を含めたアジア, アフリカ, ヨーロッパ, 北アメリカで検出された。

 抗原性解析

 山形系統:世界的に解析された株はなかった。

 Victoria系統:感染研で解析された株はなかった。海外で実施された抗原性解析では, 1A.3a1および1A.3a2に属するウイルスは, 2020/21シーズンのワクチン株であるB/Washington/02/2019の細胞分離株および卵分離株に対するフェレット感染血清との反応性が良くなかった。1A.3a1に属するウイルスに対するフェレット感染血清は, 同じグループに属するウイルスとよく反応したが, 1A.3a2に属するウイルスとの反応性は良くなかった。逆に1A.3a2に属するウイルスに対するフェレット感染血清は, 同じグループに属するウイルスとよく反応したが, 1A.3a1に属するウイルスとの反応性は良くなかった。このように抗原性の異なる株が流行していた。ワクチン接種を受けたヒトの血清は, 1A.3a1および1A.3a2に属するどちらのウイルスとも反応性が良くなかった。

3. 抗インフルエンザ薬耐性株の検出と性状

 季節性インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬としては, M2阻害剤アマンタジン(商品名シンメトレル), 4種類のNA阻害剤オセルタミビル(商品名タミフル), ザナミビル(商品名リレンザ), ペラミビル(商品名ラピアクタ)およびラニナミビル(商品名イナビル), そしてキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤バロキサビル(商品名ゾフルーザ)が承認されている。M2阻害剤はB型ウイルスに対して無効であり, さらに, 現在国内外で流行しているA型ウイルスはM2阻害剤に対して耐性変異をもつ。したがって, インフルエンザの治療には, 主に4種類のNA阻害剤およびバロキサビルが使用されている。薬剤耐性株の検出状況を継続的に監視し, 国や地方自治体, 医療機関ならびに世界保健機関(WHO)に対して迅速に情報提供することは, 公衆衛生上非常に重要である。そこで感染研では全国の地衛研と共同で, 薬剤耐性株サーベイランスを実施している。

 NA阻害剤については, 地衛研においてA(H1N1)pdm09ウイルスのNA遺伝子解析によるオセルタミビル・ペラミビル耐性変異H275Yの検出を行い, 感染研において薬剤に対する感受性試験および既知の耐性変異の検出を実施した。A(H3N2)ウイルスおよびB型ウイルスについては, 地衛研から感染研に分与された分離株について, 薬剤感受性試験および既知の耐性変異の検出を行った。バロキサビルについては, 地衛研においてPA遺伝子解析によるバロキサビル耐性変異I38Xの検出を行い, 感染研において薬剤に対する感受性試験および既知の耐性変異の検出を実施した。アマンタジンについては, 感染研において既知の耐性変異の検出を実施した。

 3-1)A(H1N1)pdm09ウイルス

 国内で分離された2株の解析を行った結果, NA阻害剤およびバロキサビルに対する耐性株は検出されなかったが, アマンタジンに対しては耐性を示した。

 3-2)A(H3N2)ウイルス

 国内および海外(ネパール, ラオス)で分離された14株の解析を行った結果, NA阻害剤およびバロキサビルに対する耐性株は検出されなかったが, アマンタジンに対しては耐性を示した。

 3-3)B型ウイルス

 解析の対象となる株はなかった。

 本解析は, 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の施行に伴う感染症発生動向調査(NESID)事業に基づくインフルエンザサーベイランスとして, 医療機関, 保健所, 地衛研との共同で実施された。さらに, ワクチン接種前後のヒト血清中の抗体と流行株との反応性の評価のために, 新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野・齋藤玲子教授の協力を得た。海外からの情報はWHOインフルエンザ協力センター(米国CDC, 英国フランシスクリック研究所, 豪州ビクトリア州感染症レファレンスラボラトリー, 中国CDC)から提供された。本稿に掲載した成績は全解析成績をまとめたものであり, 個々の成績はNESIDの病原体検出情報システムにより毎週地衛研に還元されている。また, 本稿は上記事業の遂行にあたり, 地方衛生研究所全国協議会と感染研との合意事項に基づく情報還元である。 

 

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