国立感染症研究所

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2018年に都内で発生した複数の細菌性赤痢集団感染事例

(IASR Vol. 43 p31-32: 2022年2月号)

 

 2018年10~12月にかけて, 東京都内で赤痢菌による4事例の集団感染事例が相次いで発生した。これらは比較的短期間に発生しており, 共通の感染源が疑われた。今回, 分離株を対象に分子疫学解析等を実施し, 関連性および細菌学的特徴を調査したので, 各事例の概要とともに報告する。

 事例1:2018年10月12日~11月4日にかけて, 都内A保育園の園児28名, 職員4名, 園児家族4名の計36名から赤痢菌が検出された。A保育園の0~5歳児クラスのうち, 3・4歳児クラスに症例が集中していることや, 検食の細菌検査の結果等から, 食中毒は否定された。管轄保健所および都内医療機関より, 本事例関連の赤痢菌36株が当センターに搬入され, 菌株の解析を行った()。検出菌株の菌種はすべてShigella sonneiで, テトラサイクリン(TC), ストレプトマイシン(SM), アンピシリン(ABPC), スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST), ナリジクス酸(NA)の5剤に耐性を示した。初発患者の園児は発症の約1カ月前に米国ハワイ州に渡航していた。同時期にハワイ渡航者関連の細菌性赤痢感染事例が発生しており, ハワイからの感染の可能性も考えられた。しかし, 菌株の薬剤耐性パターンおよびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)パターン, 反復配列多型解析(MLVA)型は一致しなかった。

 事例2:2018年11月26日に初発患者の発生届が都内管轄保健所に提出され, その後, 11月29日~12月4日および翌(2019)年1月2日に患者が通園していた都内B幼稚園の園児と患者家族の糞便44検体が当センターに搬入された。このうち14件から赤痢菌が検出された。最終的に園児22名, 園児家族4名の計26名から赤痢菌が検出された。同園で提供された給食および施設のふきとり, 調理従事者から赤痢菌は検出されず, 給食を原因とする食中毒の可能性は否定された。検出菌株26株の菌種はすべてS. sonneiで, TC, SM, ABPC, ST, NA, セフォタキシム(CTX), アジスロマイシン(AZM)の7剤に耐性を示し, CTX-M-14型(CTX-M-1 group)の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌であった。また, その後の調査で, 初発患者の発症以前から下痢症状が認められた感染園児が数名いたが, 感染経路は不明であった。

 事例3:2018年12月5日, 都内医療機関から細菌性赤痢の発生届が提出された。患者は外国籍の5歳女児で, 園児および職員の国籍が多様な都内C幼稚園に通園していた。12月7~18日に同園の園児・職員, 患者家族の糞便25検体が当センターに搬入され, このうち4件(園児3名, 職員1名)から赤痢菌が検出された。また, 初発患者が発症後, 短期間だが利用した別の保育施設の園児および職員の糞便6件についても検査を行ったが, 赤痢菌は検出されなかった。初発患者は発症の1カ月前までモロッコでの滞在歴があった。また初発患者に先行して下痢症状があった感染園児がおり, その家族が10月中にモロッコへ帰省し, その間に下痢等があったことが確認された。本事例はモロッコからの輸入感染で, C幼稚園内で感染が拡大したものと考えられた。検出された赤痢菌5株の菌種はすべてS. sonneiで, TC, SM, STの3剤に耐性を示した。なお, 本事例由来株のPFGEパターンは, 10月にモロッコへの渡航歴のある別の患者由来株とは異なっていた。

 事例4本号6ページ参照):2018年10月, 山梨県の宿泊施設で提供したそうざいが原因と推定される細菌性赤痢の食中毒事例が発生し, 13都道県および14市, 99名の患者のうち34名から赤痢菌が検出された。都内でも同宿泊施設利用者が確認されたため, 当センターで検便を行った結果, 15名中3名から赤痢菌が検出された。検出菌株の菌種はともにS. sonneiで, ST単剤に耐性を示す株であった。

 保育施設等での細菌性赤痢の集団発生事例は, 全国でも繰り返し起こっている。都内の保育園で発生した集団感染事例としては, 1998年に2例発生して以降, 20年ぶりであった。赤痢菌は感染力が高く少量で感染が成立する。また近年, わが国で発生の多くを占めるS. sonneiは比較的軽症のことが多く, 無症状の場合もある。これらのことから, 特に排泄が自立していない低年齢児や介護が必要な高齢者の集団では感染が広がりやすいと考えられるため, 注意が必要である。また, このような集団での発生が認められた際は, 迅速な対応が求められる。今回報告した4事例は, 10~12月の約3カ月間という比較的短期間に発生し, また分離株はいずれの事例でもS. sonneiであったため, 何らかの関連が疑われた。供試した11薬剤に対する耐性数は5薬剤(事例1), 7薬剤(事例2), 3薬剤(事例3), 1薬剤(事例4)と, 事例間で異なっていた。また, PFGEパターンおよびMLVA型は同一事例内でほぼ一致しており, かつ事例間では異なっていたことから, それぞれ別々の感染源であることが判明した。分離株の薬剤耐性パターンや分子疫学的手法を用いた疫学解析は, 集団例の相互関係の推定において非常に有用であった。また, このような集団事例が発生した場合は, 対応の遅れから感染拡大につながることもあるため, 関係機関と連携・情報共有し, 迅速な対応が可能な体制を通常から構築しておく必要があると考えられた。


 
東京都健康安全研究センター微生物部
 河村真保 村上 昂 山梨敬子 小野明日香 小西典子 横山敬子 貞升健志            
国立感染症研究所細菌第一部 
 泉谷秀昌

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