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赤痢菌分離株の薬剤耐性, 2010~2020年

(IASR Vol. 43 p33-34: 2022年2月号)

 

 赤痢菌Shigella spp.は米国疾病予防管理センター(CDC)のレポート『薬剤耐性の脅威:Antibiotic Resistance Threats in the United States, 2019』において, 深刻な脅威の1つに挙げられている1)。現在わが国では, 赤痢菌の薬剤耐性サーベイランス体制は構築されていないが, 疫学調査に基づいて送付された菌株について薬剤感受性試験を実施している。本稿では, 2010~2020年にかけて主要な薬剤に対する耐性率についてまとめたので報告する。

 2010~2020年にかけて全国より送付された赤痢菌約1,200株(S. sonneiが8割, S. flexneriが2割を占める)について, ディスク拡散法による感受性試験を実施した。主要な薬剤〔アンピシリン(ABPC), クロラムフェニコール(CP), テトラサイクリン(TC), スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST), ナリジクス酸(NA), シプロフロキサシン(CPFX), セフォタキシム(CTX)〕に対する耐性率をに示す。97%が何らかの薬剤に耐性を示した。ST合剤は期間中の耐性率の平均は78%で, 一貫して高い耐性率で推移した。TCは平均で75%, 2018年, 2019年は53%, 33%と低かったが, それ以外は高い耐性率を示した。ABPCは平均で34%, CPは平均で18%の耐性率であった。ABPC耐性の4割, CP耐性の7割がS. flexneriであった。NAは平均で49%, 一貫して30%以上の耐性率であった。CPFXの耐性率は平均で26%, 年によって変動はあるが, NA耐性の2-7割の値を示した。CTXは平均で11%であったが, 年による変動が大きく, これは流行株, 集団事例株等の影響によるものと考えられた。CTX耐性の98%がS. sonneiであった。

 海外ではフルオロキノロン系抗菌薬耐性とならび, アジスロマイシン耐性も問題視されている。赤痢菌は少ない菌量で感染するため, 感染者の菌陰性化は感染拡大防止に重要である。今後も赤痢菌の薬剤耐性を注視する必要がある。

 

参考文献
  1. CDC, Antibiotic Resistance Threats in the United States, 2019, Atlanta, GA: U.S. Department of Health and Human Services, CDC, 2019

国立感染症研究所細菌第一部
 泉谷秀昌 明田幸宏

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