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長崎県内におけるつつが虫病患者の発生状況

(IASR Vol. 43 p183-185: 2022年8月号)

 
はじめに

 ダニ媒介性感染症は, 病原体を保有するダニに刺咬されることによって起こる感染症であり, 代表的なものとして, つつが虫病, 日本紅斑熱および重症熱性血小板減少症候群(SFTS)等があげられる。長崎県では, 全国と比較してSFTSと日本紅斑熱の患者発生が特に多くみられるが, つつが虫病も離島を含む県内各地で毎年一定数発生している状況にある。

 今回, 長崎県内のつつが虫病のこれまでの発生状況および長崎県環境保健研究センター(当センター)での検査状況を報告する。

つつが虫病の発生状況

 2006~2021年の全国および長崎県内のつつが虫病と日本紅斑熱の診断週別累計患者数を図1, 図2に示す。

 2006~2021年に長崎県内で届出されたつつが虫病患者の合計数は129人であり, 年間1-14人で推移していた。

 年齢別では, 0~20歳が2人, 21~40歳が10人, 41~60歳が25人, 61~80歳が68人, 81~100歳が24人となっており, 61歳以上が全体の71%を占めていた。

 長崎県では, つつが虫病は春の終わりから少しずつ発生し, 診断週では11~12月に急増しており, 日本紅斑熱は春~秋に多く, 特に10月下旬にピークを迎えていた。全国のデータと比較すると, 長崎県内のつつが虫病と日本紅斑熱の累計患者数は全国と同じ季節に増加傾向にあるものの, つつが虫病のピークは全国と比較して長崎県は少し早い傾向にあった。

 通常, 寒冷に強いフトゲツツガムシが主に分布する地域では積雪期を越冬した幼虫により春先に, 一方タテツツガムシによるつつが虫病は幼虫が孵化した後の秋~初冬にかけて患者報告数のピークを示すといわれている1)。長崎県は後者のケースであり, 全国よりもピークが早かったのは, 気温等の影響により卵の孵化, 幼虫の活動時期が早い可能性が考えられた。

 管轄保健所別つつが虫病患者の発生状況を図3に示す。長崎市が14人, 佐世保市が13人, 西彼地区が6人, 県央地区が9人, 県南地区が9人, 県北地区が20人, 五島地区が8人, 上五島地区が6人, 壱岐地区が41人, 対馬地区が3人となっており, 壱岐地区と県北地区で多い傾向がみられた。

 また, 患者の感染地域(推定含む)は患者住所と同じ市町であることがほとんどであるため, 自宅近くの畑での農作業や外での仕事等の日常生活の中で感染した可能性が高いと考えられた。

当センターの検査状況

 当センターでは, 医療機関から保健所を通して依頼される行政検査に応じて, 代表的なダニ媒介性感染症であり, 臨床症状等により鑑別することが困難な3疾患(つつが虫病, 日本紅斑熱およびSFTS)についてPCRによる遺伝子検出を, つつが虫病および日本紅斑熱は抗体検査を実施している。検査方法は, 国立感染症研究所の「病原体検出マニュアル」に準拠した。

 過去6年間(2016~2021年)に当センターで実施した検査により, つつが虫病が29例確認された。内訳として, 遺伝子が検出されたものは24例, 抗体検査により確認されたものは5例であり, 血清型は, Kawasaki型12例, Gilliam型9例, Kuroki型6例, Karp型2例であった。確認された血清型に, 地域性, 季節性は認められなかった。

 また, 2021年度のPCR検査でつつが虫病もしくは日本紅斑熱の遺伝子が検出された患者計24例のうち, 全血と痂皮両方の検体提出があった患者16例において, 全血と痂皮から検出された患者は7例, 全血のみから検出された患者は1例, 痂皮のみから検出された患者は8例であった。全血は, 抗菌薬の投与によって検出率が低くなる傾向にあるが, 痂皮は, 抗菌薬の投与後でも遺伝子を検出できた例が多く, 過去6年間の検体別における遺伝子検出状況でも, 痂皮の検出率が格段に高かった。

 したがって, ダニ媒介性感染症疑い患者が発生した場合は, 抗菌薬投与前の全血および痂皮を確保できるよう, 医療機関等や保健所へ周知することが必要である。

まとめ

 日本紅斑熱やSFTS等のダニ媒介性感染症はダニの活動が盛んな春~秋にかけて多くみられるが, 県内の患者発生状況を確認すると, つつが虫病患者は秋~初冬にかけて特に増加がみられた。当センターが発行している長崎県感染症発生動向調査速報(週報)では, 春~秋にかけてダニ媒介性感染症の予防対策情報を発信している。近年, 全国ネットでダニ媒介性感染症に関する特集等も組まれ, 国民の興味・関心が高まっている状況にあるが, より一層, 予防対策を徹底する等の措置について検討したい。

 

参考文献

長崎県環境保健研究センター       
 中峯文香 髙木由美香 松本文昭 吉川 亮               
長崎県福祉保健部感染症対策室感染症対策班
 江川真文

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