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2021/22シーズンのインフルエンザの流行状況

(IASR Vol. 43 p246-247: 2022年11月号)
 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と同時流行が懸念されてきたインフルエンザであるが, 2021/22シーズンにおいては, 2020/21シーズンと同様に, 明らかな流行は認めなかった。本稿では, インフルエンザに対して複数の指標を用いた監視体制による, 2021/22シーズンの発生動向の評価について報告する。

 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づき届出されるインフルエンザの指標としては, 感染症発生動向調査(NESID)による, 全国約5,000のインフルエンザ定点当たりのインフルエンザ受診患者届出数, 全国約500カ所の基幹定点医療機関からのインフルエンザによる新規の入院患者届出数(インフルエンザ入院サーベイランス), 全国約500の病原体定点からの病原体検出情報(病原体サーベイランス)がある1-3)。また, NESIDによる5類感染症全数把握疾患の急性脳炎(脳症を含む)に含まれるインフルエンザ脳症の届出数も有用な指標である3)

 「感染症法に基づくサーベイランス」以外の情報においては, 「国立病院機構におけるインフルエンザ全国感染動向」〔国立病院機構140病院で, 診察医師がインフルエンザ(疑いを含む)と仮診断した患者にインフルエンザ迅速抗原検査を実施した検査件数と, 陽性となった件数の報告〕4), インフルエンザ様疾患発生報告数(全国の保育所・幼稚園, 小学校, 中学校, 高等学校におけるインフルエンザ様症状の患者による学校欠席者数)3,5), 等の指標がある。

 2021年第36週~2022年第35週(2021/22シーズン: 以下, いずれも2022年9月28日現在)に, インフルエンザ定点より届出された週ごとの定点当たり報告数は, 範囲が0.000-0.038で, 全国レベルの流行開始の指標である1.0人/週を超える週はなく, 2020/21シーズンと同様に例年を顕著に下回った1,3)。なお, 週ごとに報告を行った定点の医療機関数は, 中央値: 4,906(範囲: 4,654-4,933)で, 定点施設からの報告は例年並みに毎週行われていた。インフルエンザ入院サーベイランスにおいては, より重症な患者が対象であるため, 受診行動の変化による影響を受けにくいと考えられるが, 当指標においても2021/22シーズンの週ごとの報告数は, 範囲: 0-5人で例年を大きく下回った1,3)。また, インフルエンザ脳症の届出も1例のみであり, 2020/21シーズン(0例)と同様に例年を大幅に下回った3)。一方, 2022年第27週以降は, 定点当たり報告数と入院患者届出数が2021年の同時期のそれぞれの値を上回っている。

 病原体サーベイランス2)による, 2021/22シーズンのインフルエンザウイルスA・B型の分離・検出報告(2022年10月3日現在)においては, 2021年第49~51週の採取検体からA/H3亜型が4例, 2022年第8週の採取検体からA/H1亜型が1例検出報告され, 例年検出報告が最多の冬季には5例のみであった。一方, 2022年第25~35週は, ほぼ毎週A/H3亜型が検出報告(0-16例/週)され, A/H1亜型も2例検出報告された。2021/22シーズンのインフルエンザウイルス検出報告数は, 例年を大きく下回ったものの2020/21シーズンより多く, 2022年第25週以降は検出報告が続いている。

 また, 診断名として「インフルエンザ様疾患」として検査された検体において, ライノウイルスやRSウイルス等の報告はあったものの2), インフルエンザウイルスの報告はなかった(表A)(2022年10月3日現在)。一方, 「インフルエンザ」として検査された検体においては, 2021/22シーズンは, 2020/21シーズンより検査数, 陽性数, 陽性率がいずれの報告施設からも増加し(表B), その大半は2022年第25週以降によるものであった。

 なお, 国立病院機構におけるデータ4)からは, 医師がインフルエンザを疑って行った検査数が分かるため, 検査数・陽性数・検査陽性率をあわせた評価が可能である。2021年9月~2022年8月まで, 19,442件の検査のうち, 34例(0.2%)のみがインフルエンザ陽性であり, 検査は行われていたが, インフルエンザ陽性数・検査陽性率はわずかで, 検査数・陽性数・検査陽性率がいずれも例年を大きく下回っていた。なお, 2021年9~10月には1,500件以上, 2022年3~5月には2,800件以上の検査が行われたが, いずれもインフルエンザ陽性はなかった。ただし, 2022年6~8月には, 検査数・陽性数・検査陽性率がいずれも微増傾向であった。

 インフルエンザ様疾患発生報告数(学校欠席者数)3,5)においては, 受診を控えた場合でも欠席者数は把握可能であり, 受診の行動変容に影響されにくい指標と考えられる。2021年第36週~2022年第10週においては, 第46週に学級閉鎖が1施設のみと例年を顕著に下回った。その他, 「MLインフルエンザ流行前線情報データベース」による, 主に小児科の有志医師によるインフルエンザ患者報告数も2021/22シーズンは例年を大きく下回り6), イベントベースサーベイランスでは2021年5月までインフルエンザによる集団発生事例は探知されなかった。

 2021/22シーズンのインフルエンザの動向においては, 複数の指標で包括的に監視したが, いずれも例年の値を顕著に下回るレベルであった。COVID-19パンデミックが受診・検査・報告行動に影響を与えた可能性もあり, 解釈には注意を要するが, 受診行動によるバイアスを受けにくい指標(入院患者数, インフルエンザ脳症数, 学校欠席サーベイランス), 検査行動によるバイアスを受けにくい指標(検査数・陽性数・検査陽性率)においても, 極めて低いレベルであった。なお, 同じ医療機関から, 継続して一貫したデータを報告する定点サーベイランスにおいては, 定点からの報告は例年並みに行われていたがインフルエンザはほぼ皆無であった。同じバイアスの影響を受けにくい複数の指標を用いて総合的に発生動向を評価した結果, インフルエンザの流行はなかったと考えられた。

 一方, 2022年から世界的にインフルエンザの再流行がみられており, 2022年後半頃から, わが国においても定点当たりインフルエンザ患者数, 入院患者数, インフルエンザウイルス検出数, 陽性率の増加や, インフルエンザ集団発生事例7)も認めており, 注視を要する。今後も複数の指標を用いた継続的な監視と適時の情報発信が必要である。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, インフルエンザとは
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/flu.html
  2. IASR, インフルエンザウイルス分離・検出報告数
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html
  3. 今冬のインフルエンザについて(2021/22シーズン)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/590-idsc/11409-fludoko-2022.html
  4. 国立病院機構におけるインフルエンザ全国感染動向
    https://nho.hosp.go.jp/treatment/treatment_influ.html
  5. 国立感染症研究所, インフルエンザ様疾患発生報告(学校欠席者数)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-flulike.html
  6. MLインフルエンザ流行前線情報データベース
    https://ml-flu.children.jp/index.php
  7. 東京都, 都内公立学校のインフルエンザによる学年閉鎖について
    https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/06/23/04.html

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