2021/22シーズンの世界のインフルエンザの流行状況について
(IASR Vol. 43 p255-257: 2022年11月号)世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック宣言から約2年半が経過した。この間, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は, 種々の変異株の出現によりいくつかの大きな流行の波を繰り返してきた。一方で, 同じ呼吸器感染症病原体であるインフルエンザウイルスは, SARS-CoV-2の拡がりとは反対に検査陽性数の減少がみられ, 2020~2021年の8月頃までのインフルエンザウイルスの流行は, 世界的に大変小さなものであった1,2)。しかしながら, 新型コロナワクチンの普及およびCOVID-19による免疫獲得者の増加やSARS-CoV-2そのものの病原性の低下傾向などから, 非医薬(医学)的介入の緩和や海外渡航制限の撤廃などがあり, 人々の交流が活発になるにつれて, 次第にインフルエンザの陽性数の増加が確認されてきた。本項では, WHOのデータベースFluNet(https://www.who.int/tools/flunet)に報告された陽性数のデータを元に, 2021/22シーズンにおけるインフルエンザの流行について概説する。
図1に2018年9月以降のFluNetに報告された北半球(図1上段)および南半球(図1下段)のインフルエンザ陽性数の推移を示した。例年それぞれの冬に陽性数のピークが確認される。つまりどちらかの谷間に, どちらかのピークがみられる。これまでに報告してきたが1,2), 2020年5月以降, 全く報告がなくなった訳ではないが, 報告数は激減し, 2021年9月までの間, それぞれの冬のインフルエンザの流行はみられなかった。しかしながら, 2021年9月以降(2021/22シーズン), 両半球とも陽性数が増加し, 約1年半ぶりにインフルエンザの流行が確認された。2021/22シーズンの流行は, 北半球では報告数は例年よりまだ少なかったが, 南半球の報告数は例年とほとんど変わらなかった。興味深いことに, 2021/22シーズンの流行は例年とは若干異なる様相がみられた。すなわち, 北半球では国によっては二峰性のピークがみられ流行が長引いたこと, 南半球では流行が例年より早い国がみられたこと, である。
図2では北半球について, 図3では南半球について, それぞれの半球全体といくつかの国の流行例を示した。ここでは, 2021年および2022年の報告数を色付きの面で表し, 2018~2020年については実線あるいは破線で表している。図2に示すように, 北半球では, 例年12月頃(第47週付近)から陽性数が増加し, 翌年の2月頃(第7週付近)にピークを迎える(実線および破線)。2021/22シーズンは, 立ち上がりは例年と似ていたが, ロシアのように2021年末にピークを迎え, その後すぐに減少した国や, 米国のように2021年末にピークがありいったん減少したが, その後再び増加し, 5月頃に2回目のピークを迎えた国があった。一方で, カナダのように年末に増加がみられなかったが, 3月頃から増加し5月にピークを迎えた国もみられた。南半球では, 図3に示すように例年4~5月(第15~17週付近)から陽性数が増加し, 6~7月(第23~27週付近)にピークを迎える(実線および破線)。2021/22シーズンは, 例年と比べて早期に, つまり南半球の夏季~秋季に流行が始まった国がみられた。例えば, ブラジルのように2021年末に陽性数が増加し, 2022年初めにピークを迎え収束に向かった国や, アルゼンチンのように夏季(第6週付近)から陽性数が増加し, 秋の初め頃(第12週付近)にピークを迎え, 例年陽性数が増える頃に収束に向かった国があった。一方でオーストラリアのように例年と同様な流行様相を示した国もあった。
流行様相について, 例年と異なる様子がみられた理由は定かではない。陽性数については, 北半球での流行では例年より少なかったが, それに続いた南半球での流行では例年とほぼ同等であった。北半球はSARS-CoV-2のパンデミック宣言からまもなく3回目の冬を迎える。この冬は, インフルエンザウイルスの本格的な流行の再来とSARS-CoV-2の同時流行および両ウイルスによる重複感染が危惧されている。実際にどのようになるかは分からないが, これらの可能性は否定されるものではないため, 例年同様インフルエンザの動向に注意することが重要である。
参考文献