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2022年以降のエムポックス流行における感染経路: 最近の文献からの知見

(IASR Vol. 44 p87-88: 2023年6月号)
 

エムポックスは従来, 感染動物からヒトへの感染を発端に発生し, ヒト-ヒト感染による感染伝播は家族内などの限定的な状況で報告されるのみであった1)。しかし2022年以降, 従来, モンキーポックスウイルス(別名エムポックスウイルス: MPXV)の常在地域とされていたアフリカ諸国を越え, 欧米諸国を中心にヒト-ヒト感染でのエムポックス患者が国際的に報告されている。従来より, ヒトからヒトへの感染経路は, 皮膚病変, 体液, 血液を介した接触感染, 飛沫感染が主体とされていたが, 今回の流行初期には, MPXVが天然痘ウイルスの近縁であることから空気感染の可能性も懸念された。2022年1月~2023年4月の期間に, 111の国や地域から87,000例(4月24日時点)を超えるエムポックスの検査診断例が世界保健機関(WHO)に報告されるなか, 感染経路に関連した知見が集まり, 現在の流行においては接触感染が主体であることが分かってきたが, 飛沫感染や空気感染がどの程度寄与しているか不明である。本稿では現在の流行のなかで, 主体の感染経路である接触感染に関連する事項を中心に, 最近の知見を紹介する。

直接接触感染

2022年以降の流行に関する報告によれば, 主体となる感染経路は性的接触を含んだ, 病変部位・体液・血液との直接接触感染である1)。最も多いウイルス量(Ct値)を認めるのは皮膚病変とされるが, それ以外では, 肛門や性器, 咽頭の検体でも多いウイルス量を認めている2,3)。その他にも血液, 尿, 精液など, 様々な検体からMPXVが検出されている。ウイルス排泄期間については, スペインにおける77名からの計1,663検体を対象とした前向きコホート研究によれば, MPXVのDNA遺伝子が検出された期間の中央値は, 皮膚病変25日〔95%信頼区間(CI): 23-28日〕, 中咽頭16日(95%CI: 13-19日), 直腸16日(95%CI: 13-23日), 精液13日(95%CI: 9-18日), 血液1日(95%CI: 0-5日)であった。発症から15日経過後にウイルスが分離可能であった(注: 感染性があることを意味している)のは皮膚病変のみであった4)。一方, 皮膚病変が治癒した後も, 口腔内や肛門の検体でウイルスが培養できたとする報告もあるため5), 感染可能なウイルス排泄期間については今後も知見の集積が必要である。

間接接触感染

医療機関での針や6), ピアスや入れ墨に用いる器具による感染例7)など汚染された物品との接触による感染が報告されている一方で, エムポックス患者の診察や検体採取を行った医療従事者においては, 個人防護具(personal protective equipment: PPE)を着用し, 明らかな針刺し事故がない場合でも, 手指や腕の皮膚病変が初発の症状であった二次感染例が確認されている8-10)。これらの感染機会として, PPE脱衣時や脱衣後の汚染されたPPEや環境表面との間接接触感染が推定されており, 検体採取の手技やPPE着脱方法の継続的なトレーニングの重要性が指摘されている11)

空気感染

陽性患者の病室, 診察室, エムポックス流行期にナイトクラブで採取した空気の検体で, MPXVの遺伝子が検出されたと報告されている11,12)。ただし, 増殖能をもつウイルスを検出したという報告は少なく, 増殖能をもつウイルスの存在が必ずしも感染の成立を意味するものでない。しかし, 患者の飛沫および病室の空気中から感染可能なウイルスを検出した報告もあることから, エアロゾルが発生し得る医療行為を行う場合には, 空気予防策としての個室管理や, N95マスクの正しい着用が求められる11,13)

環境中におけるウイルスの生存期間

MPXV陽性の患者が使用したリネンを交換中に感染したと推測される報告があるが11), 実際に居室や医療機関の診察室の高頻度接触面などの環境中から採取された検体から, ウイルス遺伝子や増殖可能なウイルスを認めたとする報告は複数ある。そのうち, 環境中のウイルスの生存期間について明確に述べているものでは, 少なくとも15日間は生存しており, さらに多孔性の物品(寝具や衣類などの布製品など)は, 金属やプラスチックなどの物品に比べてウイルスが長く生存する可能性を指摘している14)

 

参考文献
  1. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/monkeypox
  2. Palich R, et al., Lancet Infect Dis 23: 74-80, 2023
  3. Colavita F, et al., Lancet Infect Dis 23: 6-8, 2023
  4. Suñer C, et al., Lancet Infect Dis 23: 445-453, 2023
  5. Towns JM, et al., Lancet Microbe 4: 445-453, 2023, doi: https://doi.org/10.1016/S2666-5247(22)00382-2
  6. Carvelho LB, et al., Emerging Infect Dis 28: 2334-2336, 2022
  7. Garcia VR, et al., Lancet Infect Dis 22: 1526-1528, 2022
  8. Safir A, et al., American Journal of Infection Control https://doi.org/10.1016/j.ajic.2023.01.006
  9. Salvato RS, et al., Emerging Infect Dis 28: 2520-2523, 2022
  10. Alarcón J, et al., Emerging Infect Dis 29: 435-437, 2023
  11. Gould S, et al., Lancet Microbe 3: e904-e911, 2022, doi: 10.1016/S2666-5247(22)00257-9
  12. Sanchiz A, et al., Lancet Microbe 4: e389, 2023, doi.org/10.1016/S2666-5247(23)00104-0
  13. Hernaez B, et al., Lancet Microbe 4: e21-e28, 2023, doi: https://doi.org/10.1016/S2666-5247(22)00291-9
  14. Morgan CN, Emerging Infect Dis 28: 1982-1989, 2022
国立感染症研究所実地疫学研究センター
 島田智恵

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