ippan title c
 
 
8 まとめ
 
 ここ十数年の間にHIV、HCV、SARS等が新たな感染症が発見され、さらに現在鳥インフルエンザの脅威が叫ばれています。HIV、HCVでは血液製剤による感染を防ぐ有効な対策が講じられるのが遅れ被害が広がったと問題になっています。一方、分子生物学の発達によって新たな治療法の開発が試みられています。このように生命科学や医学研究の発達によって、より医療の現場は一層複雑になってきています。一方、今後も未知の感染症や治療法の想定外の副作用などが発生する恐れもあり、そのような状況で我々は如何に準備していけば良いか、大変難しい問題であります。

 筆者は医学生時代に「病気を診ずして病人を診よ」と教わってきたことを覚えています。これは、医療者は疾病そのものの診断や治療だけにとらわれることなく、病をもっている人の心の痛みをよく理解し、患者さんを全人的に診て治療することの重要性を訴えているものであります。国、製薬会社、医療関係者、マスコミなどが患者の視点に立ってこのような精神を実践することで、新しい事態により早く的確に対応できると思われます。
ippan title c
 
 
7 国の肝炎対策
 
 肝炎対策については、国または地方公共団体において、従来より検査体制の充実、国民に対する普及啓発、相談指導の充実、治療法の研究開発など様々な対策に取り組んできました。2002年に発足した「C型肝炎等緊急総合対策」では、保健所、老人保健、政府管掌健康保険等による肝炎ウイルス検査を導入し、ハイリスクグループ(1992年以前に輸血を受けた者、輸入およびそれと同等のリスクを有する非加熱血液凝固因子製剤を投与された者、1994年以前にフィブリノーゲン製剤(フィブリン糊を含む)を投与された者、大きな手術・臓器移植を受けた者、薬物濫用者、入れ墨・ボディピアスをしている者、その他過去に健康診断等で肝機能異常を指摘されているにも関わらず、その後肝炎検査を実施していない者等)を重点対象としつつ、一定年齢以上の全ての国民を対象にC型肝炎検査を行う体制が構築されてきました。しかしながら、(1)健診の受診率はそれほど高くなく(老人保健事業のC型肝炎ウイルスの節目検診で25-30%の受診率でした)、(2)肝炎ウイルス検査で精査を指摘されても医療機関を受診しない者が多いこと(その検診で要精密となった者のうち実際に二次医療機関を受診したのは8割程度でした)、(3)たとえ医療機関を受診しても必ずしも適切な医療が提供されていない(二次医療機関でも専門の医療機関を受診された方はその約半分という状況でした)、ことなど不十分な点もありました。
ippan title c
 
 
6 治療法
 
 C型肝炎の治療の中心はインターフェロンです。従来の単独投与に加え、2001年からリバビリンとの併用療法に医療保険が適用されるようになり、2002年からインターフェロンの保険適用上の投与期間の制限が撤廃、2003年からペグインターフェロン、2005年からインターフェロン自己注射承認、2006年から代償性肝硬変もインターフェロンの適応、と治療法は年々進歩しています。_一般に、インターフェロンによってHCVが排除されるのは30%程度、リバビリンとの併用療法の場合で約 40%と言われていますが、インターフェロン療法でウイルスを排除できなかった場合でも、肝炎の進行を遅らせ、肝癌の発生を抑制、遅延させる効果が期待できます。治療法の詳細については、肝炎情報センターのホームページ(http://www.imcj.go.jp/center/index.html) を参照していただきたいと思います

 ippan title c

 

5 診断
 
 C型肝炎のもうひとつの問題点は、HCVに感染していても肝機能検査では正常を示すことが多いことです。そこで、HCV感染の有無を判定する方法としては、HCV血清抗体の検出と核酸・抗原の検出の2種類が用いられています。一般的には、初めにHCV抗体検査が行われます。この抗体検査で陽性となった場合、(1)HCVに感染しているキャリア状態、(2)過去に感染し、現在ウイルスは排除された状態、の2つの可能性が考えられます。そこで、このようなHCVキャリア と感染既往者とを適切に区別するため、HCV-RNAの検出を行います。また、急性C型肝炎においてもHCV 抗体の陽性化には感染後通常1~3カ月を要するため、この時期の確定診断には HCV-RNA定性検査が必要となります。

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan