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4 臨床症状
 
 急性C型肝炎では全身倦怠感に引き続き、比較的徐々に食欲不振、悪心・嘔吐、右季肋部痛、上腹部膨満感、濃色尿などが見られるようになります。一般的に、C型肝炎ではA型やB型肝炎とは異なり、劇症化することは少なく、黄疸などの症状も軽い。慢性肝炎ではほとんどが無症状で、倦怠感などの自覚症状を訴えるのは2~3割にすぎません。肝硬変で非代償期まで進行すると黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症による症状である羽ばたき振戦、 意識障害などが出現するようになります。肝細胞癌を合併しても初期は無症状でありますが、末期になると肝不全に陥り、他の癌と同様に悪液質の状態となります。臨床症状の詳細については、肝炎情報センターのホームページ(http://www.imcj.go.jp/center/index.html) を参照していただきたいと思います。

 以上のように、C型肝炎の問題点は症状が全くない潜伏期間が20-30年に及ぶこともあるため、治療の機会がなく悪化させるケースが少なくないことであります。したがって、できるだけ多くのヒトにC型肝炎ウイルス検査を受けてもらう必要性があるわけです。また、検診の結果、C型肝炎ウイルスに感染している可能性を指摘された場合には、積極的に医療機関を受診して欲しいわけであります。

 

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3 疫学
 
 我が国のC型肝炎感染者は200-240万人と推定されています。全国の日赤血液センターにおける初回献血者のデータに基づく2000年時点のHCV抗体陽性率は、年齢が上がるとともに増え、60~69歳で3.38%となっています。

 HCVの感染経路としては、感染血液の輸血、経静脈的薬物濫用、入れ墨、針治療、観血的医療行為などが考えられています。母子感染は妊婦がHCVRNA陽性の場合、出生児が感染する確率は10%程度と言われています。また、血液透析に伴うHCV新規感染の発生は平均年率2%程度の頻度あるといわれ、さらに歯科診療における潜在的な感染の可能性も示唆されています。また、ニュースで取り上げられている血液製剤フィブリノーゲンを投与された約28万人のうち感染者は約1万人と推計されています。我が国のC型肝炎患者のうち、輸血歴を有するものは3~5割程度にすぎず、多くの患者で感染経路は不明であり、感染初期では自覚症状に乏しいこともあり、感染の自覚がないまま病気が進行して初めて発見されるケースが多いのはこのためです。したがって、国はできるだけ多くのヒトにC型肝炎ウイルス検査を受けてもらいたいと考えております。

 HCV感染に伴って急性肝炎を発症した後、30~40%ではウイルスが検出されなくなり、肝機能が正常化しますが、残りの60~70%はHCVキャリアになり、多くの場合、急性肝炎からそのまま慢性肝炎へ移行します。慢性肝炎から自然寛解する確率は0.2%と非常に稀で、10~16%の症例は初感染から平均20年の経過で肝硬変に移行すると考えられています。肝硬変の症例は、年率5%以上と高率に肝細胞癌を発症するとされ、肝癌死亡総数は年間3万人を越え、いまだに増加傾向にありますが、その約8割がC型肝炎を伴っています。以上のようなことから、C型肝炎と診断されたヒトには適切な治療と経過観察が必要となるわけです。のべ約850万人のヒトがC型肝炎検診を受診し、1.16%が感染の可能性が指摘されていますが、その結果が検診受診者に通知されたにもかかわらず、2次精密検査のために医療機関を受診されたヒトは残念ながら3割程度にとどまっていると推定されています。

 現行のスクリーニングシステム実施下では、輸血その他の血液製剤による新たなC型肝炎の発生は限りなくゼロに近づいています。_現在、米国では薬物濫用者を中心に年間25000人の新たなHCV感染者が発生していますが、日本ではHCVによる新たな急性肝炎の発症は2001年以降年間40-70人程度と大変少なく抑えられています(国立感染症研究所情報センターhttps://idsc.niid.go.jp/idwr/ydata/report-Ja.html)。以上から、国のC型肝炎対策の基本は、多くの国民に対してC型肝炎ウイルス検査を行い、早期に感染の有無を確認し、感染者に対して適切な治療を行うことと考えられています。さらに、上記のような病気について正しい知識を普及させることは、感染者の就業・入所・入学等に伴う偏見・差別等を防ぐためにも重要であると考えられます。
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2 C型肝炎の最新の話題
 
2008年1月、薬害C型肝炎集団訴訟の原告団と弁護団は国との和解内容について取り決めた基本合意書に調印しました。これにより、一気に長年の懸案解決に向けた動きが始まりました。厚生労働省は、従来から行ってきた総合的な対策に、医療費助成を加えて、平成20年度から新たな肝炎総合対策「肝炎治療7か年計画」を実施しています。
 薬害C型肝炎訴訟は、HCVに汚染された血液製剤を止血剤として投与されたことで、HCVに感染したとして患者が国と製薬会社3社を相手取って総額100億円を超える損害賠償を求めた訴訟であり、2002年10月に東京・大阪から始まり、全国の5カ所の集団訴訟に広がりました。5つの地裁とも判決は製薬会社の責任を認め、このうち4つの地裁では国の責任も指摘されました。2007年後半になり、こうした状況下で大阪高裁が患者と国・製薬会社の双方に和解を勧告したことから、与野党がそれぞれウイルス性肝炎治療の患者支援策を打ち出し、ついに国は患者らに謝罪し、2008年1月の原告団と国の薬害肝炎和解合意調印に至ったものです。これにより、5地裁・5高裁で国と製薬会社を相手に係争中の訴訟は順次、国との和解手続きに入り、製薬会社も従うことになりました。
 基本合意書の内容は、まず第一に、国が血液製剤による感染被害者に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者およびその遺族に心から謝罪し、命の尊さを再認識し、薬害ないし医薬品による健康被害の再発防止に最善かつ最大の努力を行うことを誓う、ことを述べています。さらに、(1)救済の対象をフィブリノゲン製剤および第九因子製剤を投与されて被害に遭った肝炎患者またはその遺族とすること、(2)被害の認定は、医療機関の医療記録などの証拠に基づいて行う、(3)症状及び症状進行の立証は、医師の診断書、各種検査結果記録などで行う、(4)当事者双方に争いがある場合は裁判所が判断する、(5)恒久対策として、製剤投与を受けた者の確認促進、肝炎医療の提供体制の整備、肝炎医療にかかる研究推進、第三者機関を設置して薬害肝炎事件の検証を行い、薬害ないし医薬品による健康被害の再発防止に最善、最大の努力を行う、(6)継続的な協議の場を持つこと―となっています。肝炎対策は上記の基本合意書の精神に従って進められています。
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1 はじめに
 
 1988年、米国カイロン社が輸血後非A非B 型肝炎の原因ウイルスとして、C型肝炎ウイルス(HCV)の遺伝子の一部を発見することに成功しました。その後、このウイルスに対する各種診断技術が開発され、血液スクリーニングに導入されたため、輸血によるC型肝炎の発生はほとんど見られなくなりました。しかしながら、現在我が国には200-240万人、全世界にも約1.7億人もの感染者が存在すると推定されております。さらに、C型肝炎感染者は肝硬変、肝癌と病気が進行する可能性もあり、HCVは公衆衛生上最も重要な病原ウイルスの一つと考えられています。本稿では、C型肝炎に関する最近の話題とそれの理解に必要な病気の特徴について述べたいと思います。
 
                                                     国立感染症研究所・ウイルス第二部 脇田隆字

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